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職場での糖尿病リスクに備える方法~生活習慣改善と従業員サポートのヒント~

「職場での糖尿病のリスクってどんなものがあるの?」
「従業員の生活習慣を見直したいけど方法がわからない…」

働き盛り世代は忙しく、生活習慣の改善を後回しにされて困っている方も多いのではないでしょうか。 生活習慣の見直しや健康支援によって、血糖コントロールの改善が期待できます。

本記事では従業員の生活習慣改善に役立つ具体例をもとに解説します。 この記事を読めば糖尿病のリスクを理解し、生活習慣改善に役立つ支援の幅が広げられるでしょう。


<目次>

1.職場での糖尿病の悪化リスク
2.職場での糖尿病の生活習慣改善対策
3.職場での糖尿病の健康管理
4.職場での糖尿病の保健指導
5.まとめ:糖尿病のリスクについて理解し血糖コントロールができるよう指導しよう


1.職場での糖尿病の悪化リスク

職場環境によっては、糖尿病の従業員が血糖コントロールを維持することが難しくなる場合があります。まず職場での糖尿病の悪化リスクについて解説します。

■ストレスによる血糖値上昇

職場における過度なストレスは血糖値上昇のリスク要因です。産業保健師は、ストレスが血糖値に直接影響するだけでなく、生活習慣改善を妨げる要因にもなる点を理解し、従業員支援に活かすことが重要です。

強いストレスを受けるとコルチゾールやアドレナリンといったホルモンが分泌され、肝臓から糖が放出されるため血糖値が上昇します。さらに、ストレスは食行動の乱れや運動意欲の低下、睡眠の質の悪化を引き起こし生活習慣の改善を妨げます。

特に、仕事の裁量が低く自分でコントロールできない環境では、慢性的な高ストレス状態が続きやすいです。慢性的なストレスは、過食や間食の増加、飲酒量の増加などにつながることがあります。血糖値や体重のコントロールが難しくなるケースも少なくありません。

産業保健師は、面談などで従業員のストレス状態を把握し、産業医や事業者と連携して業務調整や休養の工夫を提案することが重要です。心理的支援と生活習慣支援の両面からアプローチすることで、血糖コントロールの改善と健康行動の継続を促しましょう。

■多忙による健康管理の低下

多忙な勤務は従業員の健康管理を妨げ、血糖コントロール不良や重症化リスクを高めます。

長時間労働や不規則勤務により食事が偏りやすく、運動や受診の時間も確保しにくくなるためです。

残業が続けば夕食が遅くなり、血糖値が上昇することも少なくありません。職場でできる軽い運動や昼休みのウォーキングを勧め、定期受診の調整をする必要があります。

限られた環境下でも実行しやすい健康行動を本人と共に検討し支援することが重要です。

■長時間勤務による生活習慣の乱れ

長時間勤務は従業員の生活習慣を乱し、糖尿病など生活習慣病のリスクを高めます。

過労や不規則なシフトは食事時間が不安定になり、運動不足や睡眠不足を招き、血糖や代謝の悪化につながるからです。

残業続きで夜食に偏った食事をとると、体重増加や血糖値上昇を助長します。夜食内容の改善や短時間での運動導入、睡眠時間の確保を促しましょう。

生活習慣の乱れを従業員本人の責任にせず、勤務状況を踏まえた現実的な工夫を働きかけることが重要です。


2.職場での糖尿病の生活習慣改善対策

糖尿病には生活習慣の改善対策が不可欠です。次に具体的な生活習慣改善対策について解説します。

■バランスの良い食事

バランスの良い食事は血糖管理の基本であり、生活習慣の改善に必要です。

栄養バランスが整うことで血糖値の急上昇を防ぎ、体重コントロールや代謝改善につながります。

一般的な栄養バランスの目安は以下のとおりです。年齢や体格、活動量や持病によって適正量は異なるため、治療中の方は必ず主治医や管理栄養士に相談するよう伝えることが重要です。

  • 規則正しく1日三食を心がける
  • 主食・主菜・副菜をそろえる
  • 玄米や全粒粉パン、野菜など食物繊維や低GI食品を取り入れる
  • 炭水化物は全体量の40%〜60%
  • 脂質は全体量の20%〜30%
  • たんぱく質は全体量の20%
  • 腹八分目を意識する

産業保健師は、従業員に無理なく継続できる食習慣づくりをサポートし、日常的な工夫を具体的に提案しましょう。食事の数値よりも、バランスと継続を重視した支援が長期的な生活習慣改善につながります。

保健指導や健康だよりで食事に関する情報提供を行う際は、以下の無料リーフレットをご活用ください👇
リーフレット:意外と簡単!?バランスの良い食事

■適度な運動

適度な運動は血糖コントロールの改善や生活習慣病予防に有効です。

運動により筋肉での糖利用が促進され、インスリン抵抗性の改善や体重管理につながります。

ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動、筋力トレーニングを習慣化することで効果が期待できます。週150分程度を目安に通勤の徒歩時間を活用したり、職場で階段を使ったり、休日に軽い運動を取り入れるなど工夫が重要です。

従業員の生活リズムや勤務状況に合わせた運動習慣づくりを支援し、継続できるよう促していきましょう。

保健指導や社内掲示で運動に関する情報提供を行う際は、以下の無料リーフレットをご活用ください👇
リーフレット:+10分でつくる!運動のメリット

■良質な睡眠

良質な睡眠は生活習慣病予防や血糖コントロールの安定に欠かせません。

睡眠不足は自律神経やホルモン分泌に影響し、食欲亢進やインスリン抵抗性を悪化させるからです。

睡眠が5時間以下になると肥満や糖尿病のリスクが上昇することが指摘されています。適切な睡眠時間は7時間〜8時間が目安です。寝る前のスマートフォン使用を控えたり、ストレッチや深呼吸などのリラックス法を取り入れたりすると効果的です。

勤務環境や働き方に応じて従業員が休養を確保できるよう支援し、睡眠改善の行動変容を促しましょう。

保健指導や社内掲示で睡眠に関する情報提供を行う際は、以下の無料リーフレットをご活用ください👇
リーフレット:今日から実践!良い睡眠のポイント


3.職場での糖尿病の健康管理

糖尿病の健康管理では職場でのアプローチが必要です。次に職場でできる糖尿病の健康管理について解説します。

■個別フォローアップと生活習慣のサポート

糖尿病の健康管理では、職場での継続的な支援が欠かせません。

食事・運動・禁煙などの生活習慣改善は一度の指導では定着しにくく、行動変容には長期的なフォローが必要です。

産業保健師は産業医の意見や指示を踏まえ、従業員と一緒に実現可能な目標を設定し、進捗確認やモチベーション維持の支援を行います。 昼休みに10分歩く、間食を果物に変えるといった小さな成功を積み重ねる支援をしましょう。

産業保健師は、従業員のペースに合わせ、無理なく継続できる生活習慣形成を伴走的に支援することが重要です。

■従業員の勤務体制見直し

従業員の勤務体制見直しは、糖尿病の治療と就業を両立する上で重要です。

勤務状況によっては通院や治療の継続が難しく、合併症や就業継続のリスクが高まる場合があります。

産業保健師は、従業員の健康状態や通院状況の情報を産業医や人事担当者へ提供し、意見交換や調整を支援する立場にあります。必要に応じて、産業医や主治医の意見を踏まえ、勤務時間の調整や在宅勤務などの就業上の措置が適切に実施されるよう、事業者や関係者を支援しましょう。

多職種との意見調整や情報共有を通じて、適切な勤務体制が行われるよう支援することが大切です。


4.職場での糖尿病の保健指導

従業員は仕事の忙しさや体調の自覚が乏しいことから、糖尿病に関する健康指導を後回しにしがちです。産業保健師は従業員が主体的に関心を持てるよう、指導方法に工夫する必要があります。次に職場で活用できる糖尿病の保健指導について解説します。

■健康診断後の受診推奨

健康診断で血糖値やHbA1cに異常が見つかった場合、早めの受診が糖尿病の重症化を防ぐ鍵になります。「忙しいから」「自覚症状がないから」と受診を先延ばしにすると、病状が悪化して就業に支障をきたすこともあります。

しかし、実際には、異常を指摘されても受診しない、あるいは途中で治療を中断してしまうケースも少なくありません。

一方で、近年では、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など、体重減少や心血管保護効果が期待できる新しい治療法も登場しています。こうした情報を伝えることで、従業員が受診する意義を具体的に理解しやすくなります。

産業保健師は、健診結果の説明や保健指導を通じて、従業員が自分の健康状態を正しく理解し、通院や生活習慣の改善を継続できるよう、動機づけと支援を行いましょう。

以下は健康診断後の受診勧奨にご活用いただける無料のWordフォーマットです。受診勧奨のメールへ添付したり、お手紙として配布したりなどご自由にご活用ください👇
Wordフォーマット:健康診断後の受診勧奨

■治療と仕事の両立支援

糖尿病を抱える従業員が安心して働き続けるためには、治療と仕事の両立支援が重要です。例えば、職場で血糖測定やインスリン注射を行いにくい環境では、治療が不十分となり、症状悪化や業務への支障を招く恐れがあります。

職場環境の整備や勤務上の配慮など、事業者が従業員の申し出や、産業医の意見を踏まえて実施することが基本です。そのために、産業保健師は、従業員の健康状態や要望を把握し、産業医や人事担当者との情報共有・調整を支援する立場にあります。

また、治療に伴う不安やストレスへの相談対応など、心理的なサポートを通じて従業員を支えることもできます。

このように、産業医・事業者・産業保健師が、それぞれの役割を分担しながら連携することで、治療と仕事の両立支援を実現できます。

以下のマニュアルでは、糖尿病についての基本的な知識と、職場で配慮すべきポイントについて解説しています。企業内での体制構築等にご活用ください👇
治療と仕事の両立支援ガイド:糖尿病


5.まとめ:糖尿病のリスクについて理解し血糖コントロールができるよう指導しよう

長時間勤務やストレスなど職場環境が糖尿病リスクを高め、放置すれば重症化や就業困難につながる可能性があります。

生活習慣改善の支援や健診後の受診推奨、勤務体制調整、治療と仕事の両立支援を組織的に進めることが求められます。産業医や事業者と連携し定期的なフォローアップや職場内での情報共有の体制を整えることが重要です。

職場環境を踏まえた実効性のある生活習慣改善指導と支援策を組織に働きかけ、血糖コントロールを職場全体で支援する体制づくりを目指しましょう。健康維持と就業継続の両立が大切です。




■参考


1)ホルモンの病気と糖尿病|糖尿病情報センター
2)働く世代と糖尿病|糖尿病情報センター
3)交代制勤務者の食生活に関する留意点|健康日本21アクション支援システム
4)糖尿病の食事のはなし(基本編)|糖尿病情報センター
5)糖尿病診療ガイドライン2024 3章 食事療法|日本糖尿病学会
6)糖尿病を改善するための運動|健康日本21アクション支援システム
7)糖尿病診療ガイドライン2024 4章 運動療法|日本糖尿病学会
8)糖尿病の運動のはなし|糖尿病情報センター
9)健康づくりのための睡眠ガイド2023|厚生労働省
10)睡眠と生活習慣病との深い関係|健康日本21アクション支援システム
11)事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン|厚生労働省
12)受診勧奨判定値について|厚生労働省
13)糖尿病性腎症未治療及び治療中断者への電話による受診勧奨マニュアル|岐阜大学大学院医学系研究科
14)GLP-1 受容体作動薬及び GIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について|医薬品等行政評価・監視委員会




■執筆/監修


<執筆> 百田れんか (看護師×Webライター)

総合病院7年間勤務後、出産を機に医療Webライターへ転職。
現在は医療や健康をテーマに記事執筆を行い、産業保健や健康経営に関する情報発信にも携わっている。
看護師としての知識を土台に、働く人々の健康を支えるライティングを実践。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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