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デスクワークによる肩こり・腰痛・眼精疲労の原因と予防策|産業保健スタッフが担う職場改善の実践ポイント

現代のオフィスワークでは、長時間の座位やパソコン作業による「肩こり」「腰痛」「眼精疲労」といった不調が急増しています。これらの症状は単なる疲れではなく、生産性の低下やメンタル不調、さらには離職率上昇にもつながる深刻な課題です。

しかし、椅子や机の高さ調整、定期的なストレッチ、短時間の立位休憩といった小さな工夫からでも改善は可能です。

産業保健スタッフは、事業者と連携しながら、従業員が健康的に働ける職場づくりを専門的立場から支援する重要な役割を担います。本記事では、デスクワークに潜む不調の原因とその予防策、そして産業保健スタッフが担うべき実践的な役割について解説します。


<目次>

1.はじめに:デスクワークがもたらす体調不良の実態
2.代表的な不調とそのメカニズム
3.職場で取り組める予防策
4.産業保健スタッフの役割
5.まとめ


1.はじめに:デスクワークがもたらす体調不良の実態

現代のデスクワーク中心の働き方は、便利で効率的な反面、肩こり・腰痛・眼精疲労などの身体不調を引き起こしやすい重大な健康課題となっています。こうした不調は個人の問題にとどまらず、労働生産性の低下や企業経営への影響にも直結するため、産業保健の現場では早期の対策が求められています。

長時間の座位や画面作業、反復的で単調な動作が続くと、筋肉の緊張や血行不良、姿勢の崩れが生じ、慢性的な痛みや疲労につながります。さらに、身体の不調が続くことで集中力や意欲が低下し、プレゼンティーイズムを引き起こします。この状態が慢性化すれば、アブセンティーイズム以上に企業へ経済的損失をもたらす可能性があります。つまり、デスクワークによる健康問題は「個人の疲れ」ではなく、「職場全体のリスクマネジメント課題」として捉える必要があるのです。

実際に、日本の労働者を対象とした調査では、仕事に影響を及ぼす健康問題の第1位が「腰痛」、第2位が「首・肩こり」であることが報告されています。このように、筋骨格系の不調は従業員のパフォーマンスや組織全体のコスト構造にも影響を及ぼす、現実的かつ経営的なリスクといえます。

したがって、デスクワークに伴う身体不調の予防・改善は、従業員一人ひとりの健康維持にとどまらず、企業の持続的な成長を支える「健康経営」の要といえます。


2.代表的な不調とそのメカニズム

デスクワーク環境では、さまざまな不調が頻発します。

  • 肩こり
  • 腰痛
  • 眼精疲労

ここでは、これら3つの代表的な不調について、その発生メカニズムを整理し、相互作用による慢性化要因についてもご紹介します。

■肩こり(頸肩部こり・痛み)

デスクワークによる肩こりは、最も多く訴えがある職業性不調の一つであり、放置すると慢性的な痛みや生産性の低下につながるため、早期の予防と介入が重要です。

厚生労働省によると、自覚症状のある疾患の第1位は「肩こり」であり、特に女性では40%以上が肩こりを訴えています。この結果は、長時間の姿勢保持や視覚負荷によって筋緊張が慢性化している現状を示しています。

肩こり(頸肩部のこり・痛み)は次のような要因があります。
表:肩こりの要因

これらが重なり、頸肩部の筋疲労や疼痛感覚の亢進を引き起こします。肩こりは姿勢だけでなく、ストレス・疲労といった心理的因子も関与する多面的な問題であり、職場環境と働き方の両面からアプローチする必要があります。

■腰痛(下背部痛)

腰痛は、デスクワーカーに多くみられる職業性筋骨格障害であり、身体的負荷と心理社会的要因の双方が関与します。

厚生労働省の統計によれば、2019年度に報告された職業性疾病のうち、腰痛関連事例が62.2%を占めています。また、J-STAGE掲載の疫学研究では、長時間座位による腰部筋持続的負荷と椎間板内圧上昇が腰痛リスクを高めることを示しています。

腰痛の発生には以下のような多因子が複合的に関与します 。
表:腰痛の要因

厚生労働省でも、これらの身体的および心理社会的要因を包括的に評価することの重要性が明記されています。

腰痛は、姿勢改善・作業環境整備に加え、心理的サポートを含む多面的な予防が必要です。

■眼精疲労(視覚負荷)

パソコンやタブレット、スマートフォンなどの画面を見ながら行う仕事を「情報機器作業」といいます(以前は「VDT作業」と呼ばれていました)。メールの確認、資料作成、オンライン会議など、多くのデスクワークがこの作業に含まれます。こうした画面作業が増えたことで、目の疲れやドライアイ、視力の低下といったトラブルが職場で新たな健康課題となっています。

また、眼精疲労は、視覚的・姿勢的ストレスによって生じ、肩こりや頭痛、集中力低下など他の不調と相互に関連することが知られています。厚生労働省では、以下のような環境・行動要因が視覚負荷を高めることが明記されています。

  • まばたき回数の減少
  • 画面と視線距離の不適合
  • 照明の映り込み(グレア)
  • モニタの輝度と周囲の明るさの明暗差
  • 高輝度・高コントラスト画面の長時間凝視
  • 不自然な首・肩姿勢による二次的筋緊張

これらが重なると、眼精疲労だけでなく頸肩部の筋緊張や肩こりの悪化にもつながります。

眼精疲労対策には、モニタ位置・照明環境の調整、作業中の小休憩が効果的です。また、作業者の自覚症状を把握し、産業保健スタッフが作業環境改善をサポートすることが重要です。

■相互作用と慢性化要因

これらの3つの不調は、単独で発生することは少なく、相互に影響し合う「複合的な職業性症候群」として捉えることが重要です。

たとえば、腰痛によって姿勢が崩れると、身体を支えようと肩周囲の筋群の過緊張を起こし、さらに視覚負荷の増大が首・肩の筋緊張を悪化させるなど、姿勢・筋活動・視覚疲労が連鎖的に悪循環を形成します。

慢性化要因としては、以下が指摘されています。

  • 長時間の連続作業による筋・関節の微細損傷
  • 休憩や姿勢変換の欠如
  • ストレスや職務負荷による交感神経緊張
  • 睡眠不足・疲労回復機会の欠如
  • 社会的支援(上司・同僚)不足

これらは心理社会的リスク要因(PSF:Psychosocial Factors)として、厚生労働省およびWHOでも重視されています。

産業保健スタッフは、単一症状の対処ではなく、職場環境・労働時間・ストレス要因を包括的に評価・管理する視点が求められます。


3.職場で取り組める予防策

具体的に職場で実践可能な予防策にはポイントがあります。

  • 環境調整
  • 姿勢管理
  • 運動/ストレッチ介入

ここでは、以上の3つにポイントを分けて推奨される予防策をご紹介します。

①物理的環境の設備「エルゴノミクス設計の重要性」

デスクワークによる不調を防ぐための第一歩は、物理的な作業環境を人に合わせて最適化することです。いわゆる「エルゴノミクス(人間工学)」の視点を取り入れることで、筋骨格系への負担を大幅に軽減し、肩こり・腰痛・眼精疲労などの発生を防止できます。

椅子や机、モニタの位置が体に合わないと、筋緊張や血流不良が起こり、肩こり・腰痛・眼精疲労などの原因になります。「人が環境に合わせる」のではなく、「環境を人に合わせる」視点が重要です。

  • 椅子・背もたれ:背骨のS字を保ち、腰を支えるランバーサポート付き。膝が直角になる高さに調整。
  • 机・モニタ:モニタ上端が目線よりやや下、肘が自然に曲がる高さ。キーボードとマウスは手首が中立位になる位置に配置。
  • スタンディングデスク:立位と座位を切り替え、長時間同姿勢を防止。
  • 照明環境:モニタ輝度と周囲照度を合わせる。照明のモニタへの映り込みや反射を軽減する。

作業姿勢に合わせた環境調整は、最も効果的な一次予防策です。

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②姿勢管理・動的休息

設備を整えたうえで、従業員が正しい姿勢を維持し、こまめに体を動かす仕組みをつくることは、筋骨格系不調の予防に欠かせません。

長時間の固定姿勢は、筋疲労や血流低下を招き、肩こりや腰痛の主要な要因になります。

また、同じ筋群を使い続けることで、局所的な緊張や関節への負荷が蓄積します。

厚生労働省では、1時間に1回程度の小休止を設けることが推奨されています。実際には、作業の合間に2〜3分の立ち上がりストレッチや軽い歩行を取り入れるだけでも、血流改善や筋緊張の緩和に効果があるとされています。

そのため、正しい姿勢の習慣化と、定期的な「動的休息(マイクロブレイク)」の導入が重要です。

主な取り組みとして、次のような工夫が挙げられます。

  • 正しい座位姿勢の指導・モニタリング:基本姿勢の習慣化を支援する。
  • 動的休息(マイクロブレイク)の導入:1時間に1回(理想は20〜30分ごと)を目安に、2〜3分の立ち上がり・伸び・歩行などを促す。
  • 作業ローテーションの活用:同じ姿勢や作業が続かないように、画面入力・立位作業・訪客対応などを交互に組み合わせる。

職場全体で「姿勢を変える・動かす」文化を作ることは、慢性不調の予防に有効な対策の一つです。

③個別ストレッチ・体操

日常的なデスクワークの中でできるストレッチや体操は、肩こりや腰痛の予防に効果的です。個人の体格や業務内容に合わせて無理なく行えるプログラムを取り入れることで、職場全体の健康維持につながります。

以下では、代表的なストレッチ例を紹介します。職場環境や従業員の特徴に合わせて柔軟に応用することが可能です。

肩こり予防ストレッチ(例)
表:肩こり予防ストレッチ

腰痛予防ストレッチ(例)
表:腰痛予防ストレッチ

ストレッチを「1セット1〜2分の短時間プログラム」として整理し、勤務サイクルの中で自然に繰り返せる形にすることが推奨されます。「3秒キープ」などの簡易的運動を組み合わせることで、身体的負担を抑えながら継続性を高める工夫が可能です。

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4.産業保健スタッフの役割

デスクワークによる身体不調を防ぐには、産業医・保健師・衛生管理者が連携した産業保健チームが中心となり、職場環境・従業員・経営層をつなぐ仕組みづくりを推進することが重要です。

このチーム連携によって、現場の課題を多角的に把握し、継続的な健康管理体制の構築を進めることが可能になります。

肩こりや腰痛、眼精疲労などの不調は、長時間の座位姿勢、設備の不備、休憩不足、心理的ストレスなど複数の要因が重なって生じます。

そのため、個人の努力だけで解決するのは難しく、産業保健スタッフが協働して「環境整備」「教育」「モニタリング」「健康文化づくり」を一体的に進める組織的なアプローチが求められます。

具体的な取り組みとしては以下を参考にしてください。

■職場環境のリスクアセスメント

必要に応じて産業医が医学的な視点から健康リスクを評価し、保健師や衛生管理者が現場観察や従業員へのヒアリングを通じて、モニタ位置・机の高さ・休憩頻度・姿勢などのリスク要因を把握します。

■教育と啓発活動

社員の健康づくりの取り組みとして、正しい座位姿勢やストレッチ方法、眼精疲労対策などを社内研修やポスター、eラーニングで共有します。衛生管理者が職場内での実践を支援するなど、役割を分担しながらチームで啓発活動を推進します。

■定期的なモニタリングと効果評価

従業員の健康づくりの取り組みとして、肩こり・腰痛・眼精疲労の状況や、ストレッチ実施率などの健康指標を定期的に収集することで、社内の健康課題の把握や取り組みの効果検証などに役立てることができます。それらの結果を集計・評価し、不調報告率・休業率・プレゼンティーイズムなどのKPIと照らし合わせることも可能です。結果を生産性や離職率と関連づけて分析し、改善策を定期的に見直す体制を構築します。

■早期対応と専門連携

軽度の肩や腰の痛み、作業不適応、ストレスなどの段階で気軽に相談できる窓口を整備し、早期に指導や作業調整を行うことで悪化を防ぎます。必要に応じて産業医やリハビリ専門職などと連携して治療や再発予防プランを調整して円滑な対応を図ります。

■健康文化づくり

短時間休憩や立位作業時間の導入、ストレッチタイムの推進などを企業ルールとして取り入れ、健康的に働くことを「職場文化」として根づかせることが望まれます。さらに、健康行動を継続する従業員への報奨制度を設けることで、組織全体の健康意識とモチベーションの向上が期待されます。                                                                

産業保健スタッフは、現場のリスクを把握し、職場環境の改善・従業員教育・健康指標の評価・推進を一体的に進める「職場の健康マネジメントリーダー」としての役割が求められます。こうした包括的な取り組みを通じて、従業員の健康維持と組織の生産性向上を両立させることが期待されます。


5.まとめ

本記事では、デスクワークによる肩こり・腰痛・眼精疲労などの不調予防と、産業保健スタッフが果たす役割について解説しました。

これらの不調を放置すれば、従業員の心身の健康低下だけでなく、生産性の低下、医療費の増大、離職率の上昇といった経営的課題にも直結します。企業には、労働安全衛生法に基づき、労働者の健康障害を予防するための適切な作業環境管理および健康管理を行うことが求められています。




■参考


1)Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era, Yoshimoto et al., Journal of Occupational and Environmental Medicine 67(4):p e227-e232, April 2025.
2)2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
3)職場における腰痛予防対策指針|厚生労働省
4)デスクワーカーの座位行動中における運動プログラムの構築, 上野ら, 産業衛生学雑誌, 2024 年 66 巻 6 号 p. 292-302
5)事業主の皆さまへ 職場での腰痛を予防しましょう!「腰痛予防対策指針」による予防のポイント|厚生労働省
6)情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて|厚生労働省
7)https://www.mhlw.go.jp/content/000539604.pdf|厚生労働省


■執筆/監修


<執筆> ライター飯田(作業療法士)

2018年に作業療法士資格を取得後、総合病院で急性期から訪問リハビリまで幅広く経験。患者さん一人ひとりの生活環境や視点を大切にしながら、支援に力を入れる。
現在はライターとしても活動中。

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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