はじめに
本記事は、厚生労働省『働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル(令和7年度)』(2026年3月発行)を基に、産業保健スタッフ・人事労務担当者・管理職が、ワークエンゲージメントを高める取組をどのように実行し、組織全体に定着させるかを実務に活かせるよう、要点をFAQ形式で整理したものです。
マニュアルは、前半で「体制づくり→現状確認と課題の特定→課題に応じた施策展開→効果検証」のステップを解説し、後半で先進企業10社の取組事例を紹介しています。
目次
1.働きがい向上の意義とキーワード
2.進め方の全体像(ステップ)
3.体制づくり:全社一丸で進める
4.現状確認と課題の特定:アンケートの設計・実施・分析
5.結果共有と活用促進:『対話』に変える
6.課題に応じた取組の検討:優先順位とロードマップ
7.施策展開:代表的な5つの施策
8.効果検証:振り返りとPDCA
9.先進企業事例の使い方
10.産業保健スタッフ向けまとめ
1.働きがい向上の意義とキーワード
Q1. なぜ『働きがい向上』に取り組むのですか?
A. 従業員が仕事の意義や面白さを見出し、前向きに働けるようになること、創造性の発揮につながる可能性があること、キャリア自律につながること、同僚と協力して成果を上げられること、仕事と私生活の好循環が期待できることなどの効果が示されています。企業にとっても、生産性の向上、活気ある職場づくり、優秀な人材の獲得・定着、イノベーション力の向上につながるとされています。
Q2. 『ワークエンゲージメント』とは何ですか?
A. 従業員が仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態を指し、『活力』『熱意』『没頭』の3要素で構成されると説明されています。
Q3. 『従業員エンゲージメント』とは何ですか?
A. 従業員が所属する組織に対して抱く貢献意欲や信頼感を指し、組織の方向性を理解して自分の目標と重ね合わせながら、主体的に行動する状態につながると説明されています。
Q4. ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントはどう違いますか?
A. 前者は『仕事そのものとのつながり』、後者は『所属する組織とのつながり』に着目する概念で、異なる側面を持ちつつも互いに深く結びついており、両者を同時に育むことが働きがい向上の鍵とされています。
2.進め方の全体像(ステップ)
Q5. 働きがい向上の取組は、どんな流れで進めますか?
A. 本マニュアルでは、①体制づくり、②現状確認と課題の特定、③課題に応じた施策展開、④取組の効果検証、という流れで整理されています。現状確認を出発点に適切な施策を選び、施策実施後は効果を確認して次の取組に活かす考え方です。
Q6. すでに制度や取組がある場合でも、やる意味はありますか?
A. 近年『働きがい』への注目は高まっていますが、必ずしも全て新しく始める必要はなく、これまでの取組の延長線上にある場合も多いとされています。体制づくりや取組の選び方を参考に、目的意識を明確にして、より効果的に進めることが推奨されています。
3.体制づくり:全社一丸で進める
Q7. 体制づくりで重要なポイントは?
A. 組織全体が一丸となって取り組める体制構築が重要で、役割分担の明確化、情報共有の仕組み、継続的な対話を工夫することが示されています。
Q8. 関係者(経営層・事務局・管理職・従業員)の役割は?
A. 経営層には、取組の必要性を理解し、コミットメントを表明するとともに、社外にも発信する役割があります。事務局(人事部門等)には、調査の企画・実施・分析、施策の立案・実行、各組織への支援が求められます。管理職には、自組織の状況把握、職場での取組の推進、方向性の伝達、対話を通じた実践が期待されます。従業員には、調査やディスカッションへの参加、取組への主体的な参加、相互支援の実践が求められます。
Q9. 経営層のコミットメントを得るには?
A. 働きがい向上は『従業員満足度』だけでなく、人材定着、採用力、生産性の向上など経営上のメリットがあると理解すること、ありたい姿(3年後・5年後など)を描きPDCAを回す重要性を認識すること、取組開始時に「背景・目的、目指す姿、従業員への期待、継続意思」を盛り込んだメッセージを発信することが示されています。
Q10. 事務局の主な役割は?
A. 大きく下記3つに分けられると整理されています。
- 現状把握の実施・分析(アンケート実施計画、集計分析、課題特定、共有)
- 結果を踏まえた人事施策の検討(既存施策の見直し、新規企画・設計、効果確認とあわせての実施)
- 各組織の改善取組の推進(組織別結果の共有、進捗確認・好事例共有などの支援)
Q11. 管理職を巻き込むコツは?
A. 管理職は会社と従業員の結節点であり、全社方針を現場で理解・実践できる形に翻訳する役割や、日々の対話を通じた育成・風土づくりの担い手であることを伝えることが示されております。新任管理職研修、結果共有の説明会、テーマ別研修など既存の機会を活用し、事務局が個別相談、管理職同士の交流、好事例の横展開などで継続支援することが推奨されています。
4.現状確認と課題の特定:アンケートの設計・実施・分析
Q12. 現状確認は『評価』ですか?
A. 管理職や組織を『採点』することが目的ではなく、効果的な取組の選択や優先度づけのために有効とされています。アンケートに加え、面談や職場ディスカッションで定性的に把握する方法も有効です。
Q13. アンケート実施準備で最初にやることは?
A. 目的(知りたいこと)を明確にし、それに合う設問を用意することが示されています。例として、仕事への誇り、継続勤務意向、報酬満足、職場の風通し、上司への信頼、助け合い等の設問例が掲載されています。
Q14. 回答環境(ツール等)はどう用意しますか?
A. 予算・担当者の負担・スキルに応じて、外部ツールやコンサルタントを活用するか内製化するか検討し、オンラインでの回答が難しい対象者には二次元コードでスマホ回答を可能にする、紙実施なら設問番号と選択肢番号を振って集計を容易にする等が示されています。
また、職域向け心の健康サービス選択支援ツール『ウェルココ』で現状把握・分析システムが紹介されているため、参考になるとされています。
Q15. 回答依頼のときに伝えるべきことは?
A. 実施目的・期間・対象者・問合せ先など基本情報に加え、匿名で共有される・個人回答が直属上司に開示されない等の点、率直に回答してほしいというメッセージ、操作方法(必要時)を添えるとよいとされています。
Q16. 結果分析はどう進めますか?
A. ①全体傾向(高い項目/低い項目)を分布や平均値などで把握し、②役職・職種・性別などの属性別、組織別に差異や偏りを確認します。特定の属性や組織でスコアが低い場合も、直ちに原因を決めつけるのではなく、根拠をもって検討し、他の項目と組み合わせながら背景を考えることが重要とされています。
Q17. ストレスチェックの活用はできますか?
A. 新たなアンケートが難しい場合、既に実施しているストレスチェックの集団分析から始めることが考えられる、とされています。
ストレスチェックは『仕事のストレス要因』『心身のストレス反応』『周囲のサポート』の3領域で、働きがいと密接に関係するとされます。個人別結果は本人同意なく事業者が直接アクセスできないため、産業医・保健師等の産業保健スタッフと連携し、集団分析結果の読み取りや職場改善の優先順位について相談しながら、進めることが望ましいとされています。
5.結果共有と活用促進:『対話』に変える
Q18. 経営層への報告で意識すべき点は?
A. 回答率や主要項目のスコア、(継続実施なら)前年との差など全体像を整理し、課題だけでなく強みもあわせて伝え、今後の改善方針を提案することが重要とされています。
Q19. 管理職への結果説明会の方法は?
A. 説明会のみであれば30分~1時間程度、ワークショップを含むなら1時間30分~2時間程度が目安として示されています。会社全体の結果、会社方針、組織別の結果の読み解き方、職場で取り組んでほしいこと等を資料に含め、可能であれば4~6人程度のグループで管理職同士が学び合う時間を設けることが推奨されています。
Q20. 管理職がメンバーへ結果を共有するポイントは?
A. 全社平均との差や前年との比較など『相対的な位置づけ』をわかりやすく説明し、改善点だけでなく良い点(強み)にも必ず着目して、前向きなメッセージを含めると良いでしょう。さらに『どう感じるか』『何ができそうか』と問いかけて対話の機会をつくることが大切とされています。
6.課題に応じた取組の検討:優先順位とロードマップ
Q21. 取組の優先順位はどう付けますか?
A. 重要度(課題感が強い/ニーズが高い、他課題に波及するもの等)と緊急度(離職率が高止まり等の課題が発生)で検討する観点、実現可能性(コストが小さい、すぐ始められる等)を踏まえる観点が示されています。
Q22. ロードマップはどう作りますか?
A. 優先度を付けた後、短期(1~6か月)/中期(6~12か月)/長期(1年~)で何をするか整理して作成する例が提示されています。
7.施策展開:代表的な5つの施策
Q23. 『全社方針の浸透』は何をすればよいですか?
A. 経営層が理念・ビジョン等をわかりやすく言語化し、『目指す会社像』『従業員への期待』を具体的に示し、様々な機会で継続的に発信することが示されています。事務局は社内報や社内ウェブサイト、全社イベント等の枠組みを活用して情報発信を企画・実施する方法が紹介されています。
Q24. 『会社と個人の方向性が重なりあう環境づくり』の例は?
A. 会社が大切にしたい価値観や行動を実践している従業員を評価・表彰し、求める行動が分かるようにすること、会社に必要なスキル・経験をキャリアパスとして示すこと等が示されています。
管理職は経営方針・組織ミッションと個人ミッションのつながりを伝え、仕事の意義をすり合わせる役割を担うとされています。
Q25. ジョブクラフティングとは?どう活用すればよいですか?
A. 従業員が仕事への認識や取り組み方を主体的に変えて、意義や満足感を見出す考え方として紹介されています。作業クラフティング(業務範囲・内容の調整)、人間関係クラフティング(関わる人間関係を広げたり深めたりする)、認知クラフティング(仕事の価値認識を変える)の3種類が示され、管理職が支援できるとされています。
Q26. 『より多くの人が活躍できる働き方の整備』の進め方は?
A. 育児・介護との両立や柔軟な働き方について行政情報の活用が紹介され、事務局は制度内容の周知(平易な説明資料、相談窓口など)や利用者への継続サポートを行い、管理職は公平で柔軟な運用、業務の属人化回避、相互サポート体制づくりに留意する点が示されています。
Q27. 1on1の目的と進め方の要点は?
A. 1on1は一般的に評価面談とは区別され、『部下の話を聞く時間』として位置づけられています。目的として、成長支援、信頼関係の構築、モチベーションの向上、課題の早期発見が挙げられています。実施に当たっては、事前に目的を共有すること、業務相談だけで終わらせない工夫をすること、承認や称賛を伝えること、選択肢を示すこと、振り返りを促すこと、未来志向の対話を行うこと、継続的に改善することがポイントとして紹介されています。
Q28. 職場ディスカッションの目的と進め方の要点は?
A. 職場全員で現状や改善策を話し合う取組で、心理的安全性(守秘・相互尊重・建設的議論)を確保し、公平な進行、全員発言の工夫(付箋、順番、匿名意見)を行うことが示されています。導入→現状振り返り→改善策検討→まとめ、という基本的な流れ例が提示されています。
Q29. 1on1と職場ディスカッションの違いは?
A. 1on1は『個人の成長支援・信頼関係・個別課題解決』に焦点を当てており、職場ディスカッションは『チーム全体の改善・同僚との協力促進・集合知の活用・職場風土改善』を目的とするものと整理されています。
8.効果検証:振り返りとPDCA
Q30. 効果検証はいつ、何を見ますか?
A. 取組開始から半年~1年程度で、取組開始前と同様のアンケートを実施して変化を確認することが示されています。主要項目のスコア変化、課題項目の改善、回答率変化、組織別・属性別の変化などを確認します。
Q31. 結果を見るときの注意点は?
A. スコアに一喜一憂しない、忙しい時期や組織変更など他の出来事の影響も考える、一時的な変化の可能性もあるため継続を見守る、といった観点が示されています。
Q32. 職場での振り返りはどう進めますか?
A. 数字だけでなく『実際にやってみてどうだったか』という実感も話し合い、取組の実施状況、職場の雰囲気の変化、個人の変化を共有することが示されています。職場ディスカッションのうちの1回として、振り返りを実施する流れも提示されています。
Q33. PDCAサイクルをどう回しますか?
A. Plan(課題を基に取組選択)→Do(実行)→Check(進捗・効果確認)→Action(結果を踏まえた見直し)の継続的改善が必要とされています。中長期目線で、プロセス自体の成果や実感も大切にし、段階的に改善していく姿勢が示されています。
9.先進企業事例の使い方
Q34. 企業事例はどのように探して使えばよいですか?
A. マニュアル後半では、先進企業10社の事例を各社2ページで紹介し、キャッチコピー(取組の方向性)、業種・企業規模、自社課題に対応する取組分類(現状確認、全社方針、方向性、働き方整備、1on1、職場ディスカッション、効果検証)から探す方法が示されています。前半でも補足として簡潔な事例紹介があるため、気になる場合は後半で詳細を確認する活用法が紹介されています。
Q35. 掲載されている先進企業10社は?
A. 掲載されている企業は下記のとおりです。
- 事例01:東宝株式会社
- 事例02:株式会社橋本組
- 事例03:ブラザー工業株式会社
- 事例04:株式会社メルカリ
- 事例05:手島精管株式会社
- 事例06:白鷺電気工業株式会社
- 事例07:ウェルグループ
- 事例08:TOPPANグループ
- 事例09:イヨスイ株式会社
- 事例10:株式会社ヴィス
10.産業保健スタッフ向けまとめ
- 働きがい向上は、『体制づくり→現状確認→施策展開→効果検証』のプロセスを通じて定着させていく取組です(PDCA)。
- 現状確認は『採点』ではなく、優先順位を付け、効果的な施策を選ぶために行うものです。強みと課題をセットで共有し、対話につなげることが重要です。
- ストレスチェックの集団分析は、取組の第一歩として有効です。個人別結果の取扱いに関する制約を踏まえ、産業保健スタッフと連携して進めることが重要です。
- 施策は、必ずしも新規に導入する必要はなく、既存施策の延長として進めることも可能です。『全社方針の浸透』『会社と個人の方向性の重なり』『働き方の整備』『1on1』『職場ディスカッション』を、課題に応じて組み合わせます。
- 『はじめの一歩は「不」(不満)を取り除くこと』といった、身近な改善も土台づくりとして有効です。
出典:厚生労働省「働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル(令和7年度)」を基に作成(2026年4月30日参照)。
※本記事は、上記資料を参考に当社が編集・作成したものです。
※本記事の作成に当たり、文章整理の補助としてAIを活用しています。








