産業保健活動のPDCAサイクル!産業保健計画と評価の具体例について
産業保健活動を効果的に進めていくためには、産業保健活動におけるPDCAサイクルを回していくことが重要です。
PDCAを効果的に回す第一歩は明確な産業保健計画を立案することです。この計画が具体的で適切に立案されるかどうかが、産業保健活動の成功に直結します。
この記事では、戦略的な産業保健計画の立て方と評価方法についてお伝えいたします。
目次
1.産業保健計画立案の必要性や意義
2.PDCAサイクルの基本
3.産業保健活動計画の基本的な立て方と評価
4.計画立案と評価の例
5.さいごに
1. 産業保健計画立案の必要性や意義
企業は、単に従業員ひとりひとりの健康を増進させるだけでなく、事業所など組織全体の健康を促進する役割も担っています。しっかりとしたデータや根拠に基づく計画を立てることで、産業保健活動がより効果的かつ効率的に進められ、全体の健康増進につながります。
また、産業保健計画の作成段階から産業医や保健師などの専門職が参加することも重要です。専門職が関わることにより、事業所の健康に関する問題点がより明らかになり、従業員や事業所のニーズに合わせた計画が作れるメリットがあります。
2. PDCAサイクルの基本
産業保健計画は、健康施策ごとや年度ごとで完結する単発のものではありません。評価や改善を繰り返しながらPDCAサイクルを回していくことが重要です。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)⇒Do(実施)⇒Check(評価)⇒Act(改善) を繰り返し行うことであり、業務効率やクオリティーを高めるための管理手法のことをいいます。PDCAサイクルを回していくことは、計画をただ実施するのみでなく、評価し、改善し、計画を修正していくといったアクションが求められます。これを続けていくことによって、活動や計画の内容が見直され、課題やニーズにマッチした、より効果的な健康施策の実施が可能となります。
また、PDCAサイクル(計画・実施・評価・改善)の各フェーズを確実に見える化することも重要です。見える化することによって、産業保健活動を戦略的に進められるだけでなく、その効果を会社に示せるようになります。産業医や保健師の活動の価値や意義を会社に対して正しく伝えることも可能となります。
3. 産業保健活動計画の基本的な立て方と評価
① 計画立案
1) 健康課題やヘルスニーズの把握
産業保健計画を立案する上で、事業所の健康課題やヘルスニーズの把握は必要不可欠です。
労働者の健康状態の情報収集だけではなく、健診結果やストレスチェック結果を統計的に分析し事業所の健康課題を抽出し、的確にアセスメントをする事や事業所内の様々な部門からのニーズを把握し、優先度や実現可能性を踏まえて産業保健計画を立案することが求められます。
【健康課題やヘルスニーズの種類】
■事業所の健康状態
・健康診断結果、健康相談の内容、職場巡視結果、ストレスチェック結果、勤怠情報など
■多方面のニーズ
・事業者、管理監督者、従業員、労働組合、衛生管理者、健康保険組合など
2)産業保健における計画立案の方法
健康課題やニーズが明確となり、アセスメントした結果、強化したい部分が明確となったら、いよいよ計画を立てていきます。この時、目指す方向性を事業者とすり合わせながら優先順位や達成目標を明確にしていくと良いでしょう。
目的|4~5年(長期計画)
(例)高ストレス者を減らす
目標|2~3年(中期計画)
(例)職場の支援を充実させる
サブ目標|1~2年(短期計画)
(例)ストレスに関する知識を増やす
目的や目標が定まった上で年間の健康施策を立案していくことが非常に重要です。この施策は、目的や目標が達成できるような施策を検討することが求められます。
また、これらの目的、目標、活動計画は評価時期や評価方法も計画時点で明確にしておくと良いでしょう。
② 活動の評価
どのような項目で活動を評価するのかをあらかじめ考えておき、計画に組み込んでおくことが重要です。それぞれの施策の評価はもちろん大切ですが、PDCAサイクル全体や企業全体の健康度の評価も欠かしてはなりません。
評価には主に次の5種類があります。これらの評価を行った上で次の施策にむけ改善を行いながらPDCAサイクルを回していきます。
企業によっては、これ以外の分類で活動を評価することもありますので、社内の計画づくりの手法によってアレンジしてください。
また、評価方法は定量評価(数値による評価)や定性評価(アンケートでの意見など数字で示せない評価)の両方がありますが、目的によって使い分けるとよいでしょう。
1)プロセス評価:
成果に至るまでのプロセス(過程)に着目する評価方法で、どのような取り組みを実施したか等プログラム活動内容や質を評価します。
例:立案した健康施策を実施できたか
2)影響評価:
プログラムによって得られた、短期的(2~3年)な効果を測定します。
例:健康施策によって目標(職場の支援を充実させる等)を達成できたか
3)アウトカム評価:
プログラムによって得られた長期的(4~5年)な効果を測定します。
例:健康施策によって健康課題(高ストレス者を減らす等)の目的は達成できたか
4)ストラクチャー評価
計画を実施するための仕組みを評価する方法で、予算や設備、人員配置などがあります。
例:適切な予算や体制であったか
5)アウトプット評価
目的や目標達成のために行われる施策の結果を評価します。
例:健康施策の参加人数はどうか
4. 計画立案と評価の例
では、事業所の健康課題から、産業保健活動の計画を立てていく具体的な例を見てみましょう。例えば、事業所内のストレスチェック等の健康データを分析すると高ストレス者が多いとします(高ストレス者が従業員の18%)。また、職場の支援が低いという結果が出た従業員が多い(従業員の48%)という結果も出ており、こちらも気になるところです。
事業所のメンタルヘルスの改善のため、高ストレス者を減らすこと、職場の支援が低いと感じる社員を減らしていくことを3年後の目標とすることを考えました。
この目標を達成するには、ストレスやストレスへの対処方法、ラインケアについての知識を身につけてもらう取り組みが必要そうです。また、自分自身のメンタルヘルスに関心を持ってもらう機会が、年に1回のストレスチェックのみ、というのもやや少ないように思います。また、社内・社外の相談窓口をもっと活用してもらえれば、社員のストレスの問題を早期に解決できる支援ができるかもしれません。
≪計画立案≫
① 事業所の課題
高ストレス者が多い(従業員の18%)
目的 ⇒ 高ストレス者を5年後に15%へ減らす
② 健康課題からのリスクファクター:
職場の支援が低い(従業員の48%)
目標 ⇒ 職場の支援が低いと感じる従業員を3年後に35%以下とする
③ 寄与リスクファクター:
1)セルフケアやラインケアに関する研修を実施していない
2)メンタルヘルスに関する調査が、年に1回のストレスチェックのみとなっている
3)相談室の利用が少ない
ここまでの議論から、今後の取り組みとして「ストレスに関する知識の提供」、「定期的なストレス状況のモニタリングの実施」、「相談窓口や相談方法の整備」の3つのサブ目標を立てました。それぞれについて、健康施策の具体的な内容と、評価項目(到達目標)を決めました。
1)ストレスに関する知識の提供
・施策1:年に一度、外部講師を雇いセルフケア研修及びラインケア研修を実施する
・評価項目:研修が実施できたか、社員全員に対する研修受講者の割合(目標:20%)、研修受講者に対するアンケートの回答率(目標:80%)、アンケート結果(理解度、満足度)。研修参加者の高ストレス者割合の改善(目標:非参加者と比べて改善がみられる)。
2) 定期的なストレス状況のモニタリングの実施
・施策2:ストレスチェック以外に、簡易的なアンケートを用いて周囲からのサポート体制の確認を年4回実施する
・評価項目:年4回のモニタリングが実施できたか、モニタリング調査の回答率(目標:各80%以上)、調査のあとで相談窓口の利用者が増えたか(目標:調査がきっかけで相談が各5件以上増える)
3)相談窓口や相談方法の整備
・施策3:3か月後までに、社内イントラネットへ相談窓口への導線を追加する
・評価項目:オンライン会議システムで面談が出来るよう整備する(目標:5月末まで)、イントラネットに産業保健スタッフの紹介や相談窓口の案内を掲示(目標:6月末まで)、イントラネット経由での相談がどのくらい増えたか把握できるようにする(目標:6月末まで)、相談窓口の利用状況が増えたか(目標:イントラネットを見て相談に来る人が年間で10件以上増加)。
そして年度末には、各施策の活動状況を評価したところ、以下のような結果となりました。なぜそのような結果となったかを担当者同士で話し合い、新たな施策のアイディアなども検討しました。
≪評価≫
① プロセス評価:3つの健康施策は滞りなく実施できた。
② 影響評価:職場の支援が低いと回答した従業員が35%となった。
③ アウトカム評価:高ストレス者の割合が18%であり、15%以下とならなかった。
④ ストラクチャー評価:予算や人員配置に関しては適切であった。
⑤ アウトプット評価:ストレス状況確認のためのアンケート回答率が低かった。
(目標80%:実際50%)
評価の結果に対するアセスメント:
・施策の実施に関して、予算や人員が確保でき、滞りなく実施できた。
・職場の支援が低いと回答した従業員の割合に関しては目標達成できたものの、高ストレス者の割合が目的に達しておらず、職場の支援以外の要因がある可能性が考えられる。
・ストレスチェックやアンケートの分析を強化することで原因を精査していく必要があるため、ストレスチェック分析の細分化やアンケートの回答率を上げることが求められる。
≪新たな施策のアイディア(検討案)≫
・ストレスチェック分析の外注化
・ITを活用したアンケートの簡素化、リマインド
5. さいごに
産業保健計画においてPDCAサイクルを回していくことは、産業医や保健師などの産業保健専門職の大きな役割のひとつです。この産業保健計画は事業者と協力・連携をしながら同じ方向を向いて進んでいくことが求められます。
計画を効果的に実施・評価していくために安全衛生委員会で進捗状況を報告するのもよいでしょう。企業側に提示する際は、目的や目標を明確化した上で定量的な数字を用いてグラフなどを使いながら表現すると伝わりやすいため、事業者に効果的にアプローチすることが可能となります。
効果的に産業保健活動を進めるため、適切に計画を立てて適正に評価をすることで、PDCAサイクルをより良いものにしていきましょう。
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■作成:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医
参考書籍:産業保健看護学|公益財団法人 産業医学振興財団
参考 :職場環境改善ツール|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
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投稿を表示企業内で1人職場の保健師しています。
数年前の学会で、理解してるが忙しくて「DO・DO・DO」になってしまっている。との発言を聞いたことがありますが、私も、ずっと、「DO・DO・DO・・・。」で、なかなか「Check(評価)⇒Act(改善)」まで、たどり着けません。だから、学会に行くと、他の会社の保健師さん、すごいなー。と、いつも尊敬してるばっかりです。
2023年度こそ、たとえば、1個、ストレスチェックだけでも良いから、「Check(評価)」まででも到達させたいです。
とはいえ、無理せず、出来るペースで頑張ってこうと思ってます。
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