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「高年齢労働者の健康管理」チェックリスト/解説記事/手順書

現代の社会は少子高齢化という大きな変化を経験しています。この変化に対応するため、2013年には厚生年金の受給開始年齢の引き上げが行われました。これに伴い、高年齢者の職場での安定した雇用を支える「高年齢者雇用安定法」も改正され、すべての事業者に対して、希望する労働者が65歳まで働き続けられるような環境整備が義務付けられました。さらに、労働市場における高年齢者の存在はますます増えており、労働災害による休業事例のうち、60歳以上の占める割合も増えています。特に、この年代の労働災害は、若年層に比べて頻発しています。

このような状況を踏まえ、厚生労働省は2020年に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を発表しました。このガイドラインは、高齢者の特性を考慮して、高年齢者が安心して安全に働ける職場環境を作るための具体的な指針を提供しています。エイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」という意味の言葉で、国際的にもWHOや欧米の労働衛生機関で広く用いられている考え方です。


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化


※チェックリストはクリックのみで、Excel形式にてダウンロードいただけます。



STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック


それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。

■高年齢労働者の特徴
■事業者に求められる取組み
■労働者に求められる取組み
■国・関係団体等による支援の活用
■まとめ


■高年齢労働者の特徴


高年齢労働者の特徴高年齢労働者は、長年の経験に裏打ちされた豊富な知識を持っています。これは事業にとって大きなメリットをもたらします。しかし、年齢とともに、身体的、精神的な変化が生じるため、特別な配慮が求められることもあります。
高年齢労働者が抱える主な健康問題には以下のようなものがあります。

身体機能の低下: 運動機能、感覚機能などが衰えることがある
精神機能の低下:記憶力や思考の柔軟性が低下することがある
新しい環境への適応力の低下:変化への対応が難しくなることがある
疾病に罹患するリスクの増加:年齢を重ねると色々な健康問題に直面しやすくなる

これらの課題に対処するため、労働安全衛生法第62条では、「中高年齢者についての配慮」として、中高年齢者など、労働災害の防止にあたって特に配慮を必要とする労働者については、心身の条件に適した配置を行うことが義務付けられています。
加齢に伴う身体機能・精神機能の低下には次のようなものがあり、労働災害の防止の観点から適切な措置を講ずる必要があります。これにより、高年齢労働者が、その能力を最大限発揮できる環境を整えることが重要です。

(表)加齢に伴う機能の低下と就業上の影響
加齢に伴う機能の低下
参考:職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営 第1版,岡庭豊,株式会社メディックメディア,P271


■事業者に求められる取組み


安全衛生管理体制の確立高年齢労働者の安全と健康を守るためには、経営トップからの明確な安全衛生方針の表明が必要です。これにより、事業場全体の安全意識が高まります。具体的には、次のような取組みが求められます。

1. 組織や担当者の指定と体制の明確化: 安全衛生管理に関する組織や担当者を指定し、役割と責任を明確にする
2. 衛生委員会における労使の対話: 衛生委員会など、労使が一緒になって話し合う場を設け、高年齢労働者の労災防止対策を調査審議する
3. 高年齢労働者の健康管理: 産業保健スタッフを活用して、高年齢労働者の健康管理を行う
4. 職場内の相談窓口の設置と風通しの良い職場風土の促進: 職場内に相談窓口を設け、開かれた職場風土をつくる

さらに、危険性または有害性等の調査(リスクアセスメント)の実施に関する平成18年の指針に基づき、高年齢労働者の労働災害に対するリスクアセスメントを行うことも必要です。リスクアセスメントを行う際には、エイジフレンドリーガイドラインに含まれる職場改善ツール「エイジアクション100」のチェックリストの利用や、フレイル(加齢による全身機能の低下)やロコモティブシンドローム(骨・筋肉・関節などの衰えによる移動機能の低下)についても考慮が求められます。

このような総合的なアプローチにより、高年齢労働者が健康で安全に働き続けることが可能になります。

職場環境の改善高年齢労働者が安全に仕事を行えるよう、職場環境の改善が不可欠です。以下はエイジフレンドリーガイドラインに基づいた、具体的な施策の例です。

【職場施設の物理的な改善】
 ● 照度の確保: 年齢とともに視力が低下するため、作業場所・通路の照度を確保する
 ● 手すりの設置: 転倒リスクを低減するため、階段や廊下に手すりを設置する
 ● 段差の解消:転倒リスクを低減するため、可能な限り通路の段差を解消する
 ● 滑り止めの措置: 転倒リスクを低減するため、床面を滑りにくくする加工を施す
 ● 安全標識の掲示: 作業場内に目に見える形で安全標識を掲示し、注意を促す
 ● 警報音の調整: 中低音を採用し、音源の向きを工夫して、警報音を聞き取りやすくする
 ● 休憩所と服装の整備: 年齢とともに厚い環境に対処しにくくなるので、涼しい休憩所の設置や通気性の良い服装を準備し、熱中症から労働者を守る

【ソフト面での工夫と改善の例】
 ● 勤務形態の調整:短時間勤務、確実勤務、交替性など、高年齢労働者の体力に合わせた勤務形態を導入する
 ● 作業マニュアルの改定:無理のない作業姿勢や速度に配慮したマニュアㇽとする
 ● 作業時間の考慮:作業時間を適切に管理し、長時間労働を避ける
 ● 重量物の取り扱い:重量物を小分けにし、取り扱い回数を減少させることで身体への負担を軽減する
 ● 定期的な休憩の導入:定期的な休憩や作業休止時間を設定し、疲労の蓄積を防ぐ
 ● 水分補給の推奨:作業中のこまめな水分補給を推奨し、脱水状態の防止を図る
 ● 始業時の体調確認:管理者が労働者の体調を確認し、必要に応じて声掛けを行う
 ● 業務量の適正管理:無理のない業務量を配慮し、過度な負担がかからないよう調整する
 ● 情報機器作業の衛生管理: データ入力作業など、長時間同じ姿勢をとる作業については、各労働者の能力や体調を考慮して、無理のない業務量を割り当てる

高年齢労働者の健康や体力の状況の把握高年齢労働者の健康と体力の状況を把握することは、労働災害を防止し、生産性を保持する上で非常に重要です。そのためには、労働安全衛生法に定める健康診断を確実に実施することが基本となります。
さらに、以下のような取り組みも推奨されます。

健康診断の対象拡大
法定の健康診断の対象外となる労働者に対しても、自治体が実施する健康診断サービスを利用できるよう、勤務時間の調整や休暇取得などの柔軟な対応を行う。もしくは、事業場で健康診断を実施する
産業保健スタッフによる健診結果の説明
産業保健スタッフが、健康診断結果を労働者にわかりやすく説明し、必要な対策をサポートする
日々の健康状態の把握と配慮
労働者の健康状態について、日頃から注意深く観察し、適切な配慮を行う
体力チェックの定期実施
労働者の体力状況を客観的に把握するために、定期的な体力チェックを行い、その結果をもとに適切な作業を割り当てる。体力チェックの目的や重要性を労働者に丁寧に説明し、理解を促す(例:フレイルチェックの導入、転倒等リスク評価セルフチェック表の活用)
プライバシーの保護
健康や体力の状況に関する情報は個人のプライバシーに関わるため、適切な取り扱いが必要である。「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を遵守する ▼一緒に見たいコンテンツ▼
健康情報の取扱い

高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応高年齢労働者の健康や体力に応じた対応は、彼らが安全かつ健康的に働き続けるために必要不可欠であり、個別の状況に合わせた効果的なサポート体制を構築することが推奨されています。
まず、個々の労働者の体力や健康状態を踏まえ、産業医やそのほかの産業保健スタッフと協議しながら必要な就業上の措置を決定します。これは、十分な説明と話し合いを通じて労働者の理解と同意を得ることが重要です。
次に、特に危険や有害な業務に従事する高年齢労働者に対しては、その身体機能に適合する業務を割り当てる必要があります。事故や災害のリスクの高い業務に従事する場合には特に注意が必要です。さらに、病気を抱えながら働き続ける高年齢労働者の治療と仕事の両立を支援する措置も重要で、特に長期休業後の復職プロセスでのサポートが極めて重要です。
最後に、職場における健康保持増進のための指針に従って、フレイルやロコモティブシンドロームの予防を含むメンタルヘルスケアと健康づくりに積極的に取り組むことが求められます。これにはストレスチェック制度の活用も含まれます。これらの措置を通じて、高年齢労働者が健康で活動的な職場生活を送れるよう支援することが重要です。
【具体的な対策例】 
 ● 健康づくり活動:身体機能の低下を認める労働者に対して、フレイルやロコモティブシンドロームの予防を意識した活動を実施する
 ● 身体機能向上のための支援:身体機能が低下している高年齢労働者に対し、その向上を図るための具体的な支援を提供する

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ストレスチェック制度

安全衛生教育安全衛生教育の実施においては、特に、高年齢労働者に対しての教育方法の工夫が求められます。高年齢労働者が理解しやすいよう、文字だけでなく写真や図、映像などの視覚的な情報を活用することが有効です。
新しい業務に従事する場合は、さらに丁寧な教育訓練が必要となります。また、事業場内で教育を担当する者や高年齢労働者と共に働く全世代の労働者にも、高年齢労働者の特性と安全衛生対策について教育することが望まれます。さらに、緊急な体調不良が発生した際に備えて、救命講習や緊急時対応の教育も行うことが推奨されます。
【具体的な取り組みの例】
 ● 高年齢労働者に適した教育方法として、経験の浅い業務や新たな業種に対する訓練では、詳細な写真、図解、動画を用いて理解を深めさせる
 ● 職場の各層に対する教育では、高年齢労働者の身体的な特性や可能性に応じた安全措置を解説する
 ● 緊急時の対応能力を高めるため、全労働者を対象にした救命講習を定期的に実施する


■労働者に求められる取組み


一人ひとりの労働者が、事業者が実施する取り組みに協力するとともに、自らの健康づくりに積極的に取り組むことが必要です。また、個々の労働者が、自らの身体機能の変化が労働災害リスクにつながり得ることを理解し、労使の協力の下、実情に応じた取り組みを進めることが必要です。
【具体例】
 ● 高齢になってからではなく、青年、壮年期から自らの身体機能や健康状況を客観的に把握し、健康や体力の維持管理に取り組む
 ● 安衛法の定期健康診断の対象外となる場合は、地域や保険者が行う特定健康診査等を受診する
 ● 事業者が体力チェック等を行う場合には、これに参加し自身の体力の水準について確認する
 ● 日頃から足腰を中心とした柔軟性や筋力を高めるためのストレッチや軽いスクワット運動等を取り入れる
 ● 適正体重を維持する、栄養バランスの良い食事をとる等、食習慣や食行動の改善に取り組む
 ● 青年、壮年期からヘルスリテラシーの向上に努める


■国・関係団体等による支援の活用


事業場での安全対策を強化するため、高年齢者の労働災害防止に向けた国や関係団体の支援を活用することもできます。以下に具体的な活用方法を紹介します。

中小企業や第三次産業における高齢者労働災害防止対策の取組事例の活用厚生労働省やJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)等のウェブサイトでは、事業場における高齢者労働災害防止対策の積極的な取組事例が掲載されています。これらの事例を参考にすることで、自社の対策を見直し、改善策を講じることができます。

個別事業場に対するコンサルティング等の活用中央労働災害防止協会や業種別労働災害防止団体などが提供する、安全管理士や労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントによる事業所診断や助言を活用します。また、産業保健推進センターでは、事業場の産業保健スタッフへの研修や相談対応も行っています。

エイジフレンドリー補助金等の活用高年齢労働者が安心・安全に働くための職場環境を整備したい中小企業には、厚生労働省で実施するエイジフレンドリー補助金等などの制度が利用できます。

社会的評価を高める仕組みの活用厚生労働省は、高齢者労働災害防止対策に積極的に取り組む事業場の社会的評価を向上させる取り組みを推進しています。この取り組みに参加することで、企業の社会的信頼を高めることができます。
【具体例】
 ● 高年齢者活躍企業コンテスト|厚生労働省

職域保健と地域保健の連携・健康保険の保険者と連携の仕組みの活用 各地域において地域・職域連携推進協議会が設置されており、保険者と企業が連携したコラボヘルス事業も推進されています。これらも積極的に活用しましょう。


■まとめ


少子高齢化が急激に進む我が国において、高年齢労働者が安全・安心に働ける職場づくりは今後ますます重要な課題となります。高年齢となっても活き活きと働ける環境は、すべての年代の人が安心して働くことにつながります。産業保健スタッフは、高年齢労働者の特徴を理解し、事業場の実情にあった取り組みを推進し、高年齢労働者の健康に留意し相談にのる、各担当者と連携する等の役割が求められます。
高年齢労働者の特徴を事業場、労働者両者が理解し、労使ともに取り組める環境づくりを目指しましょう。

 

STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。

高年齢労働者の健康管理

手順書を無料でダウンロードする

※手順書は簡単なアンケートに入力することでWord形式でダウンロードしてご活用いただけます。

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