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従業員の自殺リスクにどう対応する?産業保健スタッフが押さえるべき実践的なポイント

従業員から自殺をほのめかす発言があったり、危機的な状況に直面した場合、産業保健スタッフには迅速かつ的確な対応が求められます。本記事では、産業保健スタッフが従業員の安全確保と会社のリスク軽減を実現するための具体的な対応フローやリスク管理のポイントを解説します。体制整備のポイントや適切な連携方法についても触れ、現場で役立つ実践的な情報をお届けします。


<目次>

1.想定するシーン
2.産業保健スタッフの役割
3.対応フロー
 ・ステップ①対象者本人の安全確保
 ・ステップ②対象者本人のリスクの把握とアセスメント、必要な情報収集
 ・ステップ③状況に応じた対応
4.まとめ


1.想定するシーン

  • 自殺をほのめかす従業員がいた場合
  • 自殺未遂(自殺を目的とした、または命にかかわるような行為)をした場合



2.産業保健スタッフの役割

産業保健スタッフの役割は、下記の2点です。

  • 本人の安全確保
  • 事業場のリスク軽減

本人の安全確保がまずは第一優先です。 命がかかっている場合は守秘義務の対象外となりますので、まずは本人の安全確保を優先させましょう。

本人の安全が確保できたら、何が事業場にとってリスクになるのかを考え、そのリスクを軽減するためにできることをする、関係者と連携し対応することが求められます。


3.対応フロー

対応フローの図

ステップ①対象者本人の安全確保

まずは、何よりも本人の安全確保を優先します。命にかかわる場合、自傷他害のリスクが高い場合は、守秘義務の対象外となります。安全を確保するためにできることをまずしましょう。

ステップ②対象者本人のリスクの把握とアセスメント、必要な情報収集

必要な情報収集と、リスクアセスメントを実施します。
ここでは、JAM自殺リスクアセスメントシートをご紹介します。 こちらのアセスメントシートは、自殺電話相談窓口を想定して作成されています。産業保健の現場では、情報を整理する目的で、必要に応じて活用するとよいでしょう。

ステップ③状況に応じた対応

時間経過別の対応内容の図

Ⅰ.事象発生から数時間以内

■自傷他害の行為がある場合

本人や家族の同意がなくても、救急車の要請、警察へ通報する必要があります。人事担当者と連携して、事業場側に登録されている緊急連絡先にも連絡するようにしましょう。

■今現在自傷他害の行為はないものの、ハイリスクと判断した場合

また、今現在何等かの行為はないものの、今後も自傷他害のリスクが高いと判断した場合には、守秘義務の対象外となり、家族などの緊急連絡先、通院している場合は主治医に連絡する必要があります。

本人が事業場内にいる場合には、医療機関や家族に引き渡すまで1秒たりとも目を離さない、ひとりにしないことが重要です。人事担当者や上司などと連携し、複数名で対応するようにしましょう。

在宅勤務や出先からの電話など本人が事業場から離れたところにいる場合は、下記のような対応が考えられます。

<周囲に家族などがいて連絡が取れる場合>
家族などに連絡し、本人の安全を確保したうえで受診に同行してもらうようにしましょう。受診先は、主治医がいる場合は主治医に、主治医がいない場合は、地域の保健センターや医療機関を調べ連携するとよいでしょう。初診で受診する際は、紹介状やアセスメントシートなど産業保健スタッフが経緯を記載し、受診時に持参してもらえるようにすると、スムーズな診察につながります。

<周囲に誰もいない場合>
人事担当者や上司などと連携して、必ず複数人で本人の居場所へむかってもらうよう依頼します。 本人の居場所に到着したら、必要に応じて救急要請や警察へ通報なども実施します。同時に、家族などの緊急連絡先に連絡してすぐに来てもらうよう依頼します。家族などに引き渡すまでは、ひとりにしないようにすることが重要です。その後は、速やかに受診する必要があります。受診の際には、家族などに同行してもらうようにしましょう。どうしても家族などが同行できない場合は、人事担当者や上司が同行する場合もあります。

<周囲に誰もおらず、本人の居場所が遠方などですぐに行けない場合>
本人の緊急連絡先はもちろん、主治医や行政機関等に相談するようにしましょう。

【行政機関の例】
※地域により窓口が異なるため、事業所の所在地により自治体情報を必ずご確認ください

■今現在自傷他害のリスクは高くないが、自殺したいなどの発言を認める場合

主治医がいる場合は、主治医に「自殺したいと感じている」ことを伝えるよう本人に促します。また、通院予定日まで間が空いている場合は、早めに受診できないかなどを検討してもらい、通院日を確認します。

主治医がいない場合は、必ず受診してもらうよう伝えます。場合によっては通院先などを一緒に探すことも必要です。通院予約したことまで確認するようにしましょう。

自傷他害のリスクが高くない場合は、可能な限り本人に了解を得たうえで、人事担当者と情報共有するよう努めます。産業保健スタッフが常駐していない場合は、人事担当者など事業場の関係者と情報共有することが、リスク管理の観点からも必要です。また、産業保健スタッフがひとりしかいない場合は特に、自分だけで情報を抱え込まないように心がけましょう。

Ⅱ.事象発生後~数日、数か月間

■本人の継続的支援

受診につないだ対象者本人が、受診できたか、また就業の可否や就業上の配慮などについての主治医の意見を確認するなど、継続的な支援を実施します。

■周囲への影響を確認する

下記のような場合、影響を受け二次的にメンタルヘルス不調などを発症するリスクがあります。

  • 自殺したいという連絡や相談を受けた人
  • 自殺したいと思った原因をつくったと言われた人
  • 自傷や他害の現場に居合わせた人

周囲への影響をアセスメントすることや、周囲の人のフォローを実施し二次的な健康被害を防ぐことはとても重要です。まずは、影響を受けた可能性のある人がいないか確認し、それらの人を対象として産業保健スタッフが面談する、EAPなどの相談窓口の情報提供を実施するなどするようにしましょう。 また、これらに対応するにあたり、産業保健スタッフ自身のケアをすることも重要です。
事後対応(ポストベンション)についてはこちら

Ⅲ.事前の備え・今後への備え

日々のメンタルヘルス対策を実施することは、自殺リスクを減らすことにつながります。対策を講じていたとしても、このような場面に遭遇することを0にすることはできません。重要なのは、このような場面に遭遇した際に、冷静で迅速に適切な対処行動が取れる環境を整備しておくことです。

事業場としては、下記のようなことをしておくことが重要です。産業保健スタッフは、事業場内の関係者と連携し、これらを整備できるよう支援することが求められます。

  • 近隣の行政機関、受診先や紹介先のリストアップ
  • 相談体制の整備、緊急連絡網など社内の担当者を整理しておく
  • 従業員が使用できる社外の相談窓口の紹介などの啓発活動
  • 従業員の緊急連絡先や居住地などの人事情報を適切に更新する



4.まとめ

従業員の自殺を予防するためには、日頃から事業場としてメンタルヘルス対策に取り組むことが重要です。しかし自殺の原因は多岐に渡り、0にすることはできません。

産業保健スタッフは、自殺などの危機介入について、迅速かつ適切に対応することが求められます。 事業場が適切に対応できるよう、普段からメンタルヘルス対策を講じたり、マニュアルや体制などを整えておくことが重要です。

また、これらに対応することは、産業保健スタッフ自身にも強い負荷がかかります。自分自身のケアはもちろん、日頃から事業場内の関係者と連携できるよう体制を整備しておくことが、従業員、会社、自分自身を守ることにもつながります。


執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医


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■監修医師のご紹介


産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』





参考文献


中央労働災害防止協会 職場における自殺の予防と対応
産業医実務研修センター 危機事象発生時の産業保健ニーズ〜産業保健スタッフ向け危機対応マニュアル〜Ver. 2.0

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