感情労働と心理的ケア:産業保健スタッフが知っておくべきポイント
感情労働は、面談やカウンセリング、顧客対応が多い労働者に見られる労働のことです。産業医や産業保健師など、多くの専門家がこの分野で働いています。本記事では、感情労働とその対応で必要な心理的ケアについて解説します。
【目次】
1.感情労働とは
2.感情労働の対応で多いケース
3.心理的ケアの重要性と取り組み事例
4.まとめ
1.感情労働とは
感情労働は、A・Rホックシールドによる言葉で、他者の心理的状態や感情を特別な状態に導くために、自分の感情を誘発または抑制する労働のことです。看護師、介護士、カウンセラーなど、さまざまな職種がこれに該当します。感情労働者は、日々様々な状況に直面し、自己の感情を制御しながら相手と向き合う必要があります。
2.感情労働の対応で多いケース
感情労働者が最も多く経験するケースには、次のようなものがあります。
クレーム対応:クライアントや患者からの攻撃的な言動に対処する場面で、感情を抑制しながら冷静な対応を取る必要があります。
心理的応急処置:事故や災害で大きな心理的衝撃を受けた人をサポートする場合に、感情に共感しつづける必要があります。
危機介入:自傷他害のリスクが高いクライアントの危機介入に際し、冷静な対応が求められます。
これらの状況では、感情労働者は自身の感情を抑制しながら、相手のニーズに応えることが求められます。しかし、このような状況下で働くことは精神的に負担がかかることがあります。
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3.心理的ケアの重要性と取り組み事例
感情労働者が日々の業務で疲労を感じることは避けられません。そのため、適切な心理的ケアが必要です。以下に、心理的ケアの取り組み事例を示します。
スーパーバイズの実施:外部の専門家や先輩カウンセラーとの定期的な相談やケース検討を通じて、自身の視野を広げ、感情的に巻き込まれにくくする取り組みを行います。
小グループの従弟制度:ベテランと若手カウンセラーが小グループを形成し、気軽に感情を吐露できる環境を提供します。
ちょっとしたことを話せる相談先の確保:自分の中に抑え込んだ感情を外に出すための相談先を確保します。
専門職としての「ねばならない」という思考に気づく:過度の責任感や義務感からくる「ねばならない」思考に気づき、自身の状態を客観的に見つめ直すことが大切です。
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4.まとめ
感情労働者は、日々多くの精神的負担を抱えています。適切な心理的ケアを行うことで、自己の健康状態を保ちながら、専門職としての活動を継続していくことが重要です。感情労働者としての役割を果たすうえで、自身の心理的健康を優先し、適切なケアを行うことが不可欠です。
情報提供者
カウンセラー 酒井真依子(臨床心理士/公認心理師)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
「人」ソリューション部 ゼネラルマネジャー 兼 事業開発部 ゼネラルマネジャー
臨床心理学という学問に展開される理論をベースとし、個人の生産性向上に向けたカウンセリングサービス提供に従事。メンタルヘルス不調だけでなく、個人のライフキャリア全体を見通すカウンセリングまた、管理職層へのメンタルヘルス事例についてのコンサルテーションなどの活動を精力的に行っている。