産業医 難波克行が解説!産業保健活動のための効果的な多職種連携とは
先日開催した、『産業保健活動のための効果的な多職種連携とは』のウェビナーでは大変多くの質問をいただきました。時間内で回答しきれなかったものについて、難波先生からご回答をいただきました。是非ご覧ください。
質問一覧
1.他職種連携において考慮すべきことについて
2.人事部門との連携について
3.人事担当者との連携について
4.管理監督者との連携について
5.主治医との連携について
6.外部機関との連携について
7.保健師を雇用するときの情報管理体制づくり
8.複数の産業医が在籍している場合の連携方法について
9.全国の事業所で産業保健活動を展開する際の連携について
1.他職種連携において考慮すべきことについて
他職種と連携する際に最優先で考慮すべき点は何ですか?
回答
他職種との連携を行う目的は、ケース対応の質を向上させることです。これには、職場復帰後の再発率を低下させること、体調の回復を支援すること、職場での業務適応を高めること、円滑にケース対応を行うことなどが含まれます。連携を行う際には、誰と、どんな目的で連携をするのかをしっかり意識する必要があります。例えば、 職場復帰に向けた問題点を整理するために、職場の上司から職場での本人の言動や職場の状況について話を聞いたり、職場復帰にあたって人事制度がどのように適用されるのかを人事担当者に確認したりすることが挙げられます。
また、職場の上司や人事担当者もまた、産業保健のケース対応におけるクライアントであるということを意識し、彼らの心配事やニーズを引き出すように働きかけましょう。 例えば、上司が「いつ頃復職できるのか」と質問してくる背景には、メンタルヘルス不調の部下をどうサポートすべきかの不安や、復職時期が職場の繁忙期と重なることへの心配が隠れている可能性があります。
2.人事部門との連携について
復職対支援の対応を産業保健職のみで行っており、人事労務部門との連携が困難です。効果的な協働や巻き込み方を教えてください。
回答
職場復帰を成功させることは、労務問題のリスクを減らし、人事労務部門にも大きな利益をもたらします。まずは、現在の運用で問題が生じている部分を具体的に特定し、人事労務部門の関与がどのようにして問題解決につながるかを検討しましょう。問題点が明らかになれば、それを人事労務部門の担当者に伝え、必要な支援を求めます。担当者と直接相談する方法のほか、部門の責任者を通じて相談する方法があります。
しかし、産業保健部門と人事労務部門の連携が、単に産業保健部門の業務負荷を減らすことを目的としている場合、人事労務部門にとっての利点を見つけることが難しいかもしれません。人事労務部門としてのメリットは何かを考えることが重要です。また、一般的に、お互いの業務の多忙さや内容を完全に理解することは難しいものです。「これは本来は人事労務部門の仕事だ」と一方的に主張するのではなく、相手の立場を理解し、お互いの共通の目的のために、協力して解決法を模索することが効果的です。
3.人事担当者との連携について
面談結果などを人事担当者や管理監督者に申し送るときの情報共有について、安全配慮義務と守秘義務のバランスをどのように取るべきか、本人の同意を得ていない点について質問されたときの対処法などを教えてください。
回答
ケース対応において、面談結果などを申し送る時には、本人のプライバシーと守秘義務の遵守が非常に重要です。情報共有の原則は「本人の許可がある情報のみ開示する」ことです。人事担当者から、本人の同意を得ていない点について質問があった場合は、以下のような対応が考えられます:
- 「次回の面談で確認しておきます」と答え、本人の同意を得るまで情報を伏せる。
- 人事担当者に「何か心配なことがあるのですか?」と逆に質問し、職場での困りごとや心配事についてヒアリングする。質問には、本人のプライバシーを守りながら、一般的な情報をもとに回答することが適切です。これにより、守秘義務を守りつつ、人事担当者のニーズに対応することができます。
4.管理監督者との連携について
体調不良を抱える従業員への対応を、主に人事担当者や産業保健スタッフが行っており、職場の管理監督者があまり関与していないことが課題になっています。復職の調整や準備をする段階で、職場の管理監督者にもっと関わってもらうためには、どんな対策から始めると良いでしょうか。
回答
職場復帰支援の効果を高めるためには、管理監督者の積極的な関与が重要です。以下のような対策から始めてみてはいかがでしょうか。
- 休職直後:休職開始時、もしくはその直後に、上司とも産業医面談を行い、従業員の職場での様子や、職場での課題についてヒアリングします。これにより、復職に向けた問題点が明確になり、今後の本人との面談がより効果的に行えるようになります。
- 休業中情:休業中に行う定期的な産業医面談の結果を、都度、従業員の上司にも口頭もしくはメールで報告します。回復の経過や復職に向けた準備状況を共有することで、上司にも心の準備ができます。
- 復職準備の段階:復職が近づいてきた段階で、産業医との面談時に、上司にも顔を出してもらったり、本人と少し話をしてもらったりします。上司が本人と直接会話をすることで、本人の復職に関する不安を軽減し、同時に、上司の不安も和らげることができます。
こうした対策を実施することで、復職プランの作成や復職後のフォローアップにおいて、上司に積極的に参加してもらえるようになります。
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5.主治医との連携について
長期間の治療にもかかわらず、例えば血糖値が改善されないなど、治療がうまく進んでいない場合、主治医とどのように連携すべきか教えてください。
回答
治療が上手く進んでいないと感じる場合、通常は、以下のようなステップで段階的に対応します。
- 社員へのアプローチ:まずは社員本人に、主治医に治療について相談するよう数回にわたって促します。
- 主治医への直接の連絡:産業医が主治医に診療情報提供書を書き、「通院治療中であるが、健康診断で数値が改善していない」ことを伝え、治療について相談します。
- 専門医への紹介:その後も、特に治療方針に変化が見られない場合は、社員に対して専門医のいる病院への受診を促し、必要に応じて紹介状を書いて受診を勧めます。
- 会社からの指示:状況によっては、会社から、糖尿病のコントロール改善のために特定の病院(専門医がいる病院)へ受診するよう指示することも一つの方法です。
6.外部機関との連携について
企業の健康管理において、EAPや障害者支援センターなど、どのような外部機関と連携すべきか、またその方法について教えてください。
回答
企業の健康管理をサポートする外部支援機関としては、外部EAP機関、障害者職業センター、発達障害者支援センター、また、会社近くのメンタルクリニックなどが挙げられます。これらの機関との連携に関しては以下のような方法があります。
- 情報収集:まずは、これらの機関が提供するサービスの内容を理解するために、積極的に情報収集を行います。ホームページを確認する、窓口に電話をかける、訪問するなどして、どのような場合に相談できるかの情報を得ることが重要です。
- 事前のコンタクト:現在、すぐに相談を要するケースがない段階であっても、前もって、これらの機関とコンタクトを取っておくと、実際に支援が必要になった際に速やかに対応することができます。相談してサービスを利用できるまで(受診の予約が取れるまで)どのくらいの期間がかかるかなどを確認しておくと良いでしょう。
このように、外部の支援機関との連携をスムーズに進めるためには、事前の準備と情報収集が非常に重要です。
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7.保健師を雇用するときの情報管理体制づくり
初めて保健師を雇用するにあたり、従業員の健康情報の管理方法をどうすれば良いでしょうか。これまでは、健康診断結果や産業医との面談記録なども、人事部の担当者が管理していました。
回答
社員の健康情報をどのように管理するかについては、社内ルール(社内規定)を作っておくことが義務付けられています。社内のスタッフの配置や専門職の有無によっても、管理ルールは変わってきます。厚生労働省の発行する「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引きさい。以下のポイントが重要になります。
- 健康情報のアクセス制限:健康診断結果や面談記録などの健康情報は、産業看護職、産業医、衛生管理者のみがアクセスできるように管理することが望ましいです。人事担当者が衛生管理者を兼ねている場合、人事担当者は健康情報の取り扱いは避けるべきです。
- 情報管理の分類:「産業保健スタッフのみで管理する情報」と「本人の同意を得て職場や人事担当者と共有する情報」の2つに分けて取り扱います。前者には健康診断結果、ストレスチェックの結果、面談記録が含まれ、後者には産業医の意見書や診断書等が含まれます。
- 取り扱いルールの確認:詳細な取り扱いルールについては、厚生労働省の「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」などを参照し、社内規定にすることが必要です。
- 安全衛生委員会での審議:健康情報の取り扱いルールを決定する際には、安全衛生委員会での審議が必要になります。
- 個人情報の取り扱い方法の掲示:産業医の職務内容や相談申し込み方法、健康情報のプライバシー保護の方法など、社員が常に確認できるよう掲示することが法令により義務付けられています。
8.複数の産業医が在籍している場合の連携方法について
複数の産業医が在籍しており、それぞれ考え方が異なるため会社としての方針の統一が困難です。会社として、産業医が働きやすくなるような連携方法はありますか?
回答
それぞれ考え方や対応方針が異なる産業医が働きやすい環境を整えるためには、いくつかの方法があります。現状の課題に合わせて検討してください。
- 分業の明確化:産業医の役割を完全に分業化し、担当範囲を明確にし、お互いに独立させ、干渉しないようにします。分担の方法としては、事業所や部署などの単位で担当範囲を分ける方法、あるいは業務種類(健康診断後の措置、休職者対応、メンタルヘルス対応等)ごとに分ける方法があります。分業化により、産業医の考え方や対応方針が異なっていても問題が起きにくくはなりますが、根本的な対策にはならないかもしれません。
- 産業医の取りまとめ担当者の設置:産業医を統括する担当者を設置し、その担当者から産業医に業務の指示を行えるよう、社内規定や組織の構造を見直します。担当者は必ずしも医師である必要はありません(むしろ、医師同士だと遠慮してしまうため、医師でない方が適切な場合もあります)。その上で、問題になっている業務手順や対応方針について、社内で統一のルールを策定して、そのルールに基づいて業務を行うよう産業医に指示を行います。ルールの策定にあたっては、産業保健専門職にも関与させることが必要です。
- コミュニケーションの強化:人事担当者数名と産業医全員との合同会議を定期的に開き、業務手順や対応方針に関して、お互いが困っていることや疑問に思っていることについて、質疑応答を行います。これによって、役割分担、業務手順、対応方針などの問題を少しずつ解消することができます。その際には、産業医と人事担当者ともに働きやすい環境を整えていきたいという目的を、繰り返し伝えていくことが重要です。
9.全国の事業所で産業保健活動を展開する際の連携について
全国の支店にそれぞれ産業医・産業看護職が配置されていますが、現在はそれぞれの事業所で別々に活動しており、業務手順なども統一されていません。今後、全社的に統一された産業保健活動を展開していくためには、どのような対策が必要ですか?
回答
全国に拠点を持つ企業で統一された産業保健活動を実施するためには、以下のような対策が必要になります。
- 指揮命令系統の明確化:各事業所の産業保健スタッフの指揮命令系統を明確にし、全社の方針に基づいて業務を行うよう体制や社内規程を整備します。例えば、本社の人事部が全体の方針を決め、各事業所の担当者はその方針に沿って業務を行うよう、社内規定に定めます。必要なら個別の雇用契約書や委託契約書に盛り込んでも良いでしょう。
- 共通のルールとマニュアルの策定:共通のルールや業務手順のマニュアルを作成し、全拠点での統一された運用を図ります。これにより、各事業所での業務が一定の基準に則って行われるようになります。共通ルールの作成には、産業保健スタッフも関わるようにすると良いでしょう。慣れないうちは、小さな改善から取り掛かるようにしましょう。
- ルールの適宜見直しと更新:マニュアルやルールを定期的に見直し、最新の状態に更新することで、形骸化や属人化を防ぎます。少なくとも年に1度は内容を見直し、必要な箇所を改訂しましょう。
- 教育と説明の強化:産業保健スタッフおよび関連する人事担当者や衛生管理者に対して、新たなルールや手順について十分な教育と説明を行います。これにより、スタッフが新しい体制に適応しやすくなります。
- 事業所ごとの状況に応じた柔軟な運用:基本的なルールを設けつつ、事業所の状況に応じた運用の柔軟性を持たせることで、地域や事業所特有の事情に対応できるようにします。ただし、ルールからの大幅な逸脱を避けるため、ルールを作るときは「基本はA、ただしA’、A'’、B、B’、B’’の運用も可」というように、柔軟に対応できる範囲をあらかじめ決めておくことが重要です。
難波克行先生のご紹介
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書を執筆、
専門誌への多数の寄稿
ご自身のYouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
など
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投稿を表示1人職場の産業看護職です。産業医は嘱託勤務で複数お願いしています。
弊社、休業者に対しての復職支援では、社員の休業状況を上長しか把握してなくて、人事も知らず、保健師にいたっては復職した後に「えっ!? 1ヶ月以上休業してたの??」といったことも多々あり、産業医から「会社と連携してください。」とご指摘を受けたこともありましたが、10年以上かけて、少しずつルールを整えてきました。
以前よりは連携に関して困難も減ってきましたが、『2.人事部門との連携について』の『「これは本来は人事労務部門の仕事だ」と一方的に主張するのではなく、相手の立場を理解し、お互いの共通の目的のために、協力して解決法を模索することが効果的です。』を拝読させていただき、「私(保健師)だけの業務負荷を減らす単なる連携となっていることもあったな。」との振り返りとなりました。そして、あらためて、「今後は保健師のみが動きやすい状況になってないか確認しながら、人事部門や管理職の業務をリスペクトし、他部門としてメリットを感じていただけるような関係を気づけるよう意識しよう!」と思いました。そのことが、保健師が会社から必要とされることにつながる、と信じ、今後も保健師業務、がんばろっ!と思いました。
セミナー・質疑応答集、ありがとうございました。現場にとって大変参考になるので、また、ぜひ開催をお願いいたします!
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