産業医 難波克行が解説!復職支援で訴訟されないポイントとは?
先日開催した、『復職支援で訴訟されない! 判例を基に徹底解説』のウェビナーでは大変多くの質問をいただきました。時間内で回答しきれなかったものについては、難波先生からご回答をいただきました。是非、ご覧ください。
質問一覧
1.復職の可否を検討する面談の場に上司や人事担当者が同席することは可能なのか
2.発達障害の方の退職勧奨について
3.裁判に備えるための記録の残し方について
4.休職中の社員が産業医との面談を希望しない場合の対応とは
5.復職した社員がフォローアップ面談を拒んだ場合の対応策を知りたい
6.主治医からの診断書に異動が必須との記載があった場合の対応について
7.復職に向けて外出練習をしている際の指示について
8.若年性認知症の通勤と安全について
9.産業医がいない場合の生活記録表
10.復職可の判断が出た後にリワークプログラムを実施することについて
11.統合失調症の従業員が復職した後のフォローについて
12.主治医から生活記録表について指摘があった場合
1.復職の可否を検討する面談の場に上司や人事担当者が同席することは可能なのか
本日のウェビナーでは、産業医が復職の判断をする際には、病状の回復度を主に見るべきだという点が話題になりました。そこで、復職可否を検討する面談の場面に上司や人事担当者に同席してもらい、行動面や就労パフォーマンスの問題を、上司や人事担当者に評価してもらうことは可能でしょうか。その結果、「以前の問題が改善しておらず、通常の業務が行えない」と判断して、復職不可とすることはできるでしょうか。
回答
職場の行動やパフォーマンスの問題について、面談だけで完全に評価することは難しいです。実際に仕事をしてもらって、そのパフォーマンスを見ることで、より説得力のある評価ができます。
ただし、面談中に本人が激しく怒るなど、明らかに通常の会話ができないような状況が見られた場合には、例外として考えることができます。しかし、多少のコミュニケーションの問題や態度の問題をもって、すぐに「そんな態度では仕事ができないから復職不可」と判断するのは適切ではありません。行動・態度・パフォーマンスについては、実際の仕事の場面であらためて評価するほうがよいと思います。
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2.発達障害の方の退職勧奨について
発達障害の特性を持つ方が、職場でのコミュニケーションの問題から業務に支障を来たしており、その影響で、本人も周囲も苦労しているという状況です。会社としては、本人の特性にあわせた業務や異動を行っていますが、同じような問題や心身の不調を繰り返しています。この場合、主治医や産業医から「発達障害のため通常の業務遂行は困難」という意見をもらった上で、就業規則に従って退職勧奨をすることは妥当でしょうか。
回答
問題のある社員に対して、会社の判断により退職勧奨をすることは可能です。ただし、発達障害という診断がついていて、会社もそれを認識しているのであれば、障害者雇用促進法による「合理的配慮」を行っていたかが問われる可能性もあります。今回のケースでは、主治医や産業医の意見をもとに何度も環境調整を試みたということですから、その要件は満たされていると思われます。しかし、退職勧奨を行うにあたっては、弁護士等に法的なアドバイスを求めた上で、適切な手続きを踏むことをおすすめします。
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3.裁判に備えるための記録の残し方について
裁判でのトラブルに備え、産業医や産業看護職がどのような記録を残しておくべきか、ポイントを教えてください。
回答
産業医や産業看護職の面談記録としては、SOAP形式を用いるのが理想的です。面談での「社員の主張や訴え」と、「専門家の評価や判断」は、明確に区別して記録しておくとよいでしょう。また、社員の問題行動については、本人との面談だけでなく、上司など第三者から具体的な情報を集めるべきです。これにより、より正確な病状や問題の評価が可能になります。裁判の証拠として、これらの記録が重要な役割を果たすことがあります。
4.休職中の社員が産業医との面談を希望しない場合の対応とは
休職中の社員が会社や産業医との連絡・面談を希望しない場合、どのように対応すればいいか教えてください。また、連絡を開始するタイミングや方法についてもアドバイスをいただけますか。
回答
自宅療養中の社員に対して、会社や産業医が定期的に連絡を取ることは、復職支援には効果的です。「復職率」「休業期間」「復職後の再発率」の改善のためには、復職支援をコーディネートする専門的な立場の人が定期的に連絡をとるほうが良いとされています。
しかし、自宅療養したばかりの時期は、会社との連絡をするほどの体力が回復していなかったり、会社を距離を置くように主治医が強く勧めたり、仕事への意欲が低下していたりするため、会社との連絡を控えたいと希望する社員もいます。
その場合は、まずは休養を促し、会社からは一定期間連絡を控えることを伝えます。その上で、例えば「1ヶ月くらいしたら、また状況を伺いたいので連絡しますね」と伝えるとよいでしょう。来社での面談が難しい場合は、「5分くらいの電話」や「メール」などを提案しましょう。一般的には、1~2ヶ月に1度は状況を確認することが望ましいです。ただし、入院中の場合は、退院後から産業医との面談や電話面談を行うようにするとよいでしょう。
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5.復職した社員がフォローアップ面談を拒んだ場合の対応策を知りたい
復職後のフォローアップの産業医面談は重要だと思いますが、本人が面談に消極的なケースがあって対応に困っています。うつ病を長くわずらっている社員の復職時に、「復職後も月に1回、定期的に産業医と面談をする」と決めていたのですが、本人が面談を拒んでおり、なかなか面談が行えていません。ようやく面談を行えたときも、本人の体調は良くない様子で「1対1で長時間話すのは疲れる」、「面談のために他事業所に外出するのもしんどい」とのことで、今後のフォローアップの面談を拒否されました。ビデオ通話や電話での面談も提案しましたが、乗り気でないようです。本人は経済的な理由から就労継続を強く希望しており、再休職するのは嫌なようです。
回答
復職した社員が産業医との面談を拒んでいるとのことですが、面談の時間を短くする、ビデオ通話や電話での面談を提案するなどの方法が考えられます。ただし、これらも拒否されているようですね。復職後の健康管理は企業の責任でもあるため、産業医としても社員の健康状態を把握する必要があります。たとえば、社員本人の面談以外にも、定期的に、上司と産業医とで面談を行い、上司を通じて本人の体調を把握するという方法もあります。こうした状況を人事や上司に説明し、対応策を一緒に考えることをお勧めします。
6.主治医からの診断書に異動が必須との記載があった場合の対応について
主治医からの診断書に「復職にあたって異動が必須」というような記載がありました。このような診断が出た場合の復職可否や、異動の要否についてご意見ください。産業医として、異動の要否について会社から意見を求められた場合に、どう対応するのがよいでしょうか?
回答
産業医としては、単に主治医の意見を追認するだけではなく、独自の専門的な立場から、異動の必要性を評価し、その根拠を含めて会社側に助言することが望ましいです。その際は「異動する場合」と「異動しない場合」との両方について、それぞれの対応の注意点、職場での配慮事項について情報提供をするとよいでしょう。その上で、産業医は会社に対して、自身の意見は参考意見のひとつであり、最終的な決定は会社が行ってよいことを伝え、担当者が動きやすいようサポートします。
7.復職に向けて外出練習をしている際の指示について
復職にむけて外出練習を行っている際に、どの程度、具体的な活動を指示するべきでしょうか。
回答
復職準備のための外出練習は、あくまでも体力や生活リズムの回復を目的として行うもので、業務指示にならないよう注意をする必要があります。線引きは難しいのですが、私は以下のように区別するよう注意しています。あくまで「外出練習を促す提案」という形で伝え、「課題の指示ではない」というスタイルです。復職の可否判定についても「図書館などに外出して9時〜15時ごろまで過ごす」ことを基準にしており、具体的な活動内容については本人にゆだねています。いろいろな考え方・やり方があると思いますので、ご参考まで。
休業中の社員への外出練習のアドバイスとして適切だと思われる例
- 図書館などに外出して過ごしてみましょう
- カフェなどで読書をして過ごす方や、資格の勉強をしたりする方もいますよ
- 図書館で読書をしたりしてみましょう
- ウォーキングをしたり、ジムに通ったりする体力づくりも大切ですが、少し頭を使ったり集中したりするような活動も行ってみましょう
- 趣味の本を読んでもいいですし、仕事に関する本を読む人もいますよ
- 家の中で過ごすだけでなく、もう少し外に出かけてみましょう
少し不適切かもしれないと思われる例
- 図書館で少なくとも◯時間は読書をしてください
- ◯◯の勉強をしてください
- この本を読んでレポートを書いてください
- 新聞を読んで要約してください
- 仕事に関連する本を読んでください
8.若年性認知症の通勤と安全について
若年性認知症の方で、記憶障害、見当識障害などがあり、症状の進行によっては安全に通勤できなくなることも考えられます。通勤の安全についてはどこまで会社や産業保健職の責任が問われるものでしょぅか。
回答
病状により通勤中の事故が発生するリスクを会社が承知していた上で、何の対策も取らずに、通勤を命じていた場合には、安全配慮義務を問われる可能性があります。ただ、送迎の提供やタクシー代の補助など、会社ができることには一定の限度があると考えられ、「合理的配慮」の観点から、判断されると思います。
一方で、産業保健スタッフが通勤のリスクを把握していながら会社へ報告しなかった場合、 その産業保健スタッフにも責任が問われることも考えられます。
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9.産業医がいない場合の生活記録表
産業医がいない、または機能していない場合、人事や上司が復職判断のために生活記録表を使用することは適切ですか? その際、主治医に許可がいりますか? また、復職の可否を判断する基準は就業規則に記載する必要がありますか?
回答
生活記録表を用いた復職判定は、あらかじめ基準を決めておき公平に運用できること、復職の可否がわかりやすくなること、専門家でなくても判断できること、などのメリットがあります。
事前に「①出勤に間に合う時間に起床できる、②9時~15時ごろまで図書館などに外出してすごせる、③このような生活が月~金まで2週間以上継続できる」という基準を設けておき、上司・人事担当者・産業看護職などが判断を行ってもよいと思います。
復職の基準の詳細を就業規則にまで記載する必要はありませんが、社内で用いるガイドラインには明記すると運用しやすくなります。
産業医がいる場合には、産業医にも上記の基準で判断してもらうようお願いしておき、上司・人事担当者・産業看護職などが事前に確認した上で、最終的に産業医からも「復職可」の意見をもらうという方法がよいでしょう。
主治医に対しては、本人を通じて「生活記録表を使ってそろそろ外出練習に取り組んでもよいか(=外出練習に取り組めるほど体調が回復しているかどうか)」を確認しておくようにします。しかし、復職判定の基準の設定などについては、主治医の許可は必要ありません。
10.復職可の判断が出た後にリワークプログラムを実施することについて
主治医から復職可能とされた後に、リワークプログラムなどに参加するよう求めることで、社員が会社に対して不満を持つ可能性もあります。この点、ご意見をお聞かせください。
回答
復職支援においては、会社としての復職支援の進め方や全体のプロセスを、なるべく早めに本人に説明しておくことが重要です。少なくとも、主治医からの復職の診断書が出る前に、そのような説明を行っておくほうがよいと思います。
また「主治医が復職可と診断しているのに、会社や産業医が復職を許可しないのはおかしい!」という意見に対しては、「主治医には医学的な観点から復職可否の判断をしてもらうことは当然必要です。会社はそこから、さらに別の観点から評価して、いつから復職するかという復職の適切なタイミングを決めているんです」というような説明をすることもあります。主治医の判断や本人の復職の意向を尊重しながら、会社の対応方針を伝えるようにしています。
また、産業保健スタッフとの信頼関係を早い段階で構築しておくと、こうした対応はよりスムーズに進みます。
11.統合失調症の従業員が復職した後のフォローについて
統合失調症の方が職場復帰をした後、まったく受診をしていないことが判明しました。内服薬はインターネットで購入しているとのことです。仕事は簡単な作業を周りにサポートしてもらいながら 行っているようです。受診をうながしても応じてくれません。今後の対策についてアドバイスをいただきたいです。
回答
統合失調症や双極性障害のような病気は、適切な服薬管理がなされないと再発のリスクが高く、再発すると本人や周囲にも危険が及ぶ可能性があります。そのような場合は、会社から強く受診を促す立場をとるべきです。また、例えば、病院の受診の証拠となるような書類を提出するというような、より積極的な対応をとることもを想定して対応するのがよいでしょう。社員のプライバシーを尊重しつつも、職場での安全と健康の確保とのバランスを考慮する必要があります。まずは会社側と産業医とで相談して、どのような手順で対応をすすめていくか検討してください。
12.主治医から生活記録表について指摘があった場合
復職支援で社員に生活記録表を書いてもらっていましたが、主治医から「記録は大変だからこんなに根を詰めなくていいよ」と言われたそうで、社員自身がどう対応すればよいか戸惑っています。 このような場合、どんな対応が適切でしょうか。
回答
主治医からの「根を詰めなくていい」というコメントの背景には、「まだ復職の準備をするには早いと主治医が考えている」、「本人が無理をして外出練習をしようとしていた」、「生活記録表をきちんと付けなければと本人が強くプレッシャーを感じていた」などという状況があるかもしれません。
例えば、ご本人に「主治医の先生もそんなことを心配していたのかもしれませんが、いかがですか?」と声をかけて、「根を詰めすぎないように、無理のないペースで外出練習に取り組む」というような方向でアプローチするとよいでしょう。
ただ、主治医が「積極的に外出練習をするには、まだ体調の回復が不十分だ」と判断している場合には、注意が必要です。「あまり無理をしないように」と本人に伝えるだけでなく、「いつ頃からなら、外出練習に取り組んでも大丈夫か、主治医の先生にたずねてきて」と、主治医の見解を確認するよう本人に促してはいかがでしょうか。
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12月も復職支援をテーマにウェビナー開催!
難波克行先生のご紹介
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書を執筆、
専門誌への多数の寄稿
ご自身のYouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
など
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投稿を表示企業で保健師しています。
無料で大変に参考になるセミナーを開催していただき、ありがとうございます。このQ&Aも会社のルール作りに参考にさせていただきます。
復職支援はケースによって本当に対応が様々で、苦労と感じてしまうことが多いです。判断する立場の会社が、弊社は保健師からすると判断できない感じもしていて、会社がケースごとに違うことを言ってしまうこともあるし、ホント大変です。だから、公平に判断できやすいように基準を決めておくことは、本当に大事だと痛感しています。
弊社、生活記録表はあるし、社員に書いてもらっていますが、機能していないです。「9.産業医がいない場合の生活記録表」の内容そのまま、早速に会社に進言させていただきます。とてもわかりやすいので、会社にも理解してもらえそうです。なんとか会社ルールにまでもっていけるよう、がんばろうと思いました。
いつもありがとうございます。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!
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投稿を表示わかりやすくご解説いただき、ありがとうございます。
非常に参考になります!
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