はじめに
本記事は、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和6年3月版)を基に、事業場において治療と仕事の両立支援を進める際の要点を、FAQ形式で整理したものです。
両立支援は、労働者が就労によって疾病を増悪・再発させたり、労働災害につながったりすることのないよう、「安全と健康の確保」を前提として行うものです。その上で、本人の申出を端緒に、主治医や産業医等の意見を踏まえながら、就業上の措置と治療への配慮を具体的に組み立てていきます。
目次
Q1. 治療と仕事の両立支援とは何ですか?
Q2. どのような疾病が主な対象ですか?
Q3. 事業者による両立支援は、どのように位置づけられますか?
Q4. 両立支援で最優先すべき原則は何ですか?
Q5. 両立支援は誰が主体ですか?
Q6. 申出をしやすくするために、事業場が整えるべきことは?
Q7. 個人情報(治療情報)はどう扱うべきですか?
Q8. 関係者連携の対象となる人や組織は誰ですか?
Q9. 事前準備(環境整備)で取り組むことが望ましい事項は?
Q10. 休暇制度・勤務制度にはどんな例がありますか?
Q11. 両立支援の標準的な進め方(全体フロー)は?
Q12. 両立支援の検討に必要な情報は何ですか?
Q13. 『両立支援プラン』には何を盛り込むのが望ましいですか?
Q14. 周囲(上司・同僚)への対応で大切なことは?
Q15. 特殊な場合(経過不良・障害が残る・再発)はどうする?
Q16. 主治医との情報連携に使える様式例はありますか?
Q17. 『治療と仕事の両立支援カード』とは?
Q18. 配慮の例にはどんなものがありますか?
Q19. 公的制度・支援機関にはどんなものがありますか?
Q20. 疾患別の留意事項はどこで確認できますか?
実務チェックリスト(産業保健・人事担当者向け)
Q1. 治療と仕事の両立支援とは何ですか?
A. 反復・継続的な治療が必要な疾病を抱える労働者について、業務によって疾病が増悪しないよう、適切な就業上の措置(就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の削減など)を講じるとともに、治療に必要な配慮を行う取組です。
Q2. どのような疾病が主な対象ですか?
A. ガイドラインでは、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病を主な対象としています。一般に、短期間で治癒する疾病は対象として想定されていません。
Q3. 事業者による両立支援は、どのように位置づけられますか?
A. 事業者による両立支援は、労働安全衛生法に基づく労働者の健康確保の取組の一環として位置づけられます。健康診断の実施や医師の意見の勘案を踏まえ、必要に応じて就業上の措置を講じることが求められます。とりわけ、疾病を抱える労働者の就労継続を認める場合には、業務によって疾病が増悪しないよう、必要な措置や配慮を行うことが重要です。
Q4. 両立支援で最優先すべき原則は何ですか?
A. 最も優先すべきなのは、就労によって疾病の増悪・再発や労働災害が生じないよう、安全と健康の確保を就業の前提とすることです。そのために、必要な就業上の措置や治療への配慮を適切に行う必要があります。ガイドラインでも、繁忙などを理由に必要な措置や配慮を行わないことがあってはならないとされています。
Q5. 両立支援は誰が主体ですか?
A. 定期健康診断の事後措置として行う場合を除き、私傷病に関する支援であることから、両立支援は労働者本人の申出を端緒として進めるのが基本です。また、本人が主治医の指示に基づき、治療、服薬、生活習慣の管理などに取り組むことも重要です。
Q6. 申出をしやすくするために、事業場が整えるべきことは?
A. 事業場内のルールを整備して周知すること、研修等を通じて意識啓発を行うこと、相談窓口や情報の取扱方法を明確にすることなどにより、本人が申出をしやすい環境を整備することが望ましいです。
Q7. 個人情報(治療情報)はどう扱うべきですか?
A. 症状や治療状況などの情報は機微情報であり、健康診断で把握した場合などを除き、本人の同意なく事業者が取得してはなりません。また、把握した健康情報については、取扱者の範囲を明確にし、第三者への漏えい防止を含む適切な管理体制を整備する必要があります。
Q8. 関係者連携の対象となる人や組織は誰ですか?
A. 必要に応じて、
- 事業場関係者(事業者、人事労務担当者、上司・同僚、労働組合、産業医、保健師等)
- 医療機関関係者(主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー等)
- 地域の支援機関(産業保健総合支援センター、治療就労両立支援センター、保健所、社会保険労務士等)
が連携の対象となります。
Q9. 事前準備(環境整備)で取り組むことが望ましい事項は?
A. 以下のとおりです。
- 基本方針・対応ルールの明示および全労働者への周知
- 研修等による意識啓発
- 相談窓口と情報の取扱いの明確
- 休暇制度や勤務制度の整備
- 申出時の対応手順と関係者の役割の整理
- 医師への勤務に関する情報提供や意見照会に用いる様式の整備
- 制度の実効性を確保するための周知や管理職研修等の実施
Q10. 休暇制度・勤務制度にはどんな例がありますか?
A. 例えば、時間単位の年次有給休暇(労使協定により年5日分まで)、傷病休暇・病気休暇(法定外)、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務(テレワーク)、試し出勤制度などが挙げられます。
Q11. 両立支援の標準的な進め方(全体フロー)は?
A. 標準的な流れは、以下のとおりです。
①労働者本人が必要な情報を収集して事業者に提出する(情報に不足がある場合は、本人の同意を得た上で、主治医から追加で情報収集することもできます)
②事業者が産業医等に情報を提供し、意見を聴取する
③事業者が、主治医や産業医等の意見を勘案し、就業継続の可否を判断する
④就業継続が可能であれば、必要な措置や配慮を決定して実施する
⑤長期休業が必要な場合には、休業前の対応、休業中のフォロー、復職判断、復職後の配慮を行う
Q12. 両立支援の検討に必要な情報は何ですか?
A. 必要となる情報は、以下のとおりです。
- 症状や治療状況(入院・通院の必要性や期間、治療内容やスケジュール、通勤や業務に影響する症状・副作用など)
- 就業継続の可否に関する医師の意見
- 望ましい就業上の措置(避けるべき作業、時間外労働や出張の可否など)
- その他の配慮事項(通院時間の確保、休憩場所の確保など)
Q13. 『両立支援プラン』には何を盛り込むのが望ましいですか?
A. 以下を盛り込むことが望ましいとされています。
- 治療や投薬等の状況と今後の治療・通院予定
- 就業上の措置や治療への配慮の具体的内容、およびその実施時期・期間(作業転換、労働時間の短縮、就業場所の変更、定期的な休暇取得など)
- フォローアップの方法とスケジュール(産業保健スタッフとの面談、人事労務担当による面談等)
Q14. 周囲(上司・同僚)への対応で大切なことは?
A. 就業上の措置や配慮によって、周囲の上司や同僚に一時的な負担が生じることがあります。そのため、本人の同意を得た上で、必要な情報に限定して共有し、理解を得ることが重要です。あわせて、周囲に過度な負担が生じないよう配慮するとともに、人事部門や産業保健スタッフ等による組織的な支援を行うことが望ましいとされています。
Q15. 特殊な場合(経過不良・障害が残る・再発)はどうする?
A. 経過が思わしくなく、両立が困難となる場合には、本人の意向も踏まえながら、主治医や産業医等の意見を求め、就業継続の可否を慎重に判断します。就労によって病勢が著しく増悪するおそれがあると判断された場合には、労働安全衛生法第68条に基づく就業禁止措置が必要となることもあります。障害が残る場合には、医師の意見を踏まえて作業転換等を行い、長期的な継続支援や定期的なフォローを行うことが重要です。再発時にも、状況に応じて改めて検討する必要があります。
Q16. 主治医との情報連携に使える様式例はありますか?
A. ガイドラインには、勤務情報提供書、主治医意見書(就業継続の可否等)、復職可否意見書のほか、労働者が自ら医師に勤務情報を提供し、医師が意見を示すための「治療と仕事の両立支援カード」、さらに両立支援プランや職場復帰支援プランの作成例など、各種の様式例が掲載されています。
Q17. 『治療と仕事の両立支援カード』とは?
A. 「治療と仕事の両立支援カード」とは、労働者(患者)が職場の状況や働き方に関する情報を記載して医療機関に提出し、医師がその内容を踏まえて、労働者を介して事業者に必要な情報を提供するための書式です。なお、このカードに記載された内容どおりの配慮を事業者に法的に義務づけるものではないことが明記されています。
Q18. 配慮の例にはどんなものがありますか?
A. 配慮の例は以下のとおりです。
- 作業環境の調整(休憩室の整備、椅子の配置、温度環境への配慮など)
- 作業内容の見直し(段階的な業務量の設定、テレワーク、時差出勤・フレックスタイム、残業・夜勤・出張の免除、負担の大きい作業の免除など)
- 勤務スケジュールの調整(治療に合わせた勤務形態、受診しやすい体制づくり)
- 事業場内のルール整備(相談先の明確化など)
- 安心して働ける環境づくり(体調の定期確認、トイレ環境への配慮など)
- 移動面の調整(近い駐車場の利用、エレベーターの優先利用など)
Q19. 公的制度・支援機関にはどんなものがありますか?
A. 公的制度の例は以下のとおりです。
- 高額療養費制度
- 限度額適用認定証
- 高額療養費貸付制度
- 医療費控除
- 指定難病等の医療費助成
- 肝炎医療費支援
- 傷病手当金
- 生活福祉資金貸付
- 障害年金
- 各種手帳
- 障害福祉サービス
支援機関の例は以下のとおりです。
- 産業保健総合支援センター
- ハローワーク
- 治療就労両立支援センター
Q20. 疾患別の留意事項はどこで確認できますか?
A. 参考資料として、がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病に関する留意事項が章ごとに掲載されています。疾患ごとの状況には個別性が大きいため、治療内容、副作用、経過などを主治医の意見等で確認し、状況に応じて就業上の措置や配慮を見直すことが重要です。
実務チェックリスト(産業保健・人事担当者向け)
- 本人からの申出窓口と、情報の取扱いルール(同意取得、取扱者の範囲、漏えい防止)が明確になっているか
- 主治医に提供する勤務情報の様式、主治医意見書、復職意見書、両立支援カード等について、運用の準備ができているか
- 産業医等への意見聴取のフローと、就業継続の可否判断に関する記録・見直しのサイクルが整っているか
- 時間単位の年次有給休暇、時差出勤、短時間勤務、テレワーク、試し出勤等の制度について、周知と運用ができているか
- 周囲への説明について、本人同意の確認と必要最小限の情報共有が徹底されており、あわせて上司・同僚の負荷を調整する仕組みがあるか
- 特殊なケース(経過不良、障害の残存、再発)が生じた際に、再評価とフォローを行う手順が整っているか
出典:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和6年3月版)」を基に作成。(2026年4月30日確認)
※本記事は、上記資料を参考に当社で編集・作成したものです。
※本記事の作成にあたっては、文章整理の補助としてAIを活用しています。




