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職場巡視とは?関連する法令や産業保健スタッフの役割を解説

職場巡視とは?関連する法律や産業保健スタッフの役割を解説

労働者の安全と健康を守るために、職場巡視を活用することは有用です。
この記事では、職場巡視における法令や、効果的に職場巡視を実施する上でのPDCAサイクルの運用方法、チェックリストの活用、産業看護職の役割についてお伝えいたします。

【目次】

1.職場巡視とは
 1-1.職場巡視とは
 1-2.職場巡視の目的
 1-3.関連する法規則
2.職場巡視を効果的に行うためのPDCA
 2-1.Plan(計画)
 2-2.Do(実施)
 2-3.Check(評価)
 2-4.Action(改善)
3.職場巡視におけるチェックリストの利点と欠点
4.オフィス職場における職場巡視
5.職場巡視における産業看護職の役割

1.職場巡視とは

職場巡視

1-1.職場巡視とは

職場巡視とは、労働者の作業環境を定期的に確認する取り組みで、労働安全衛生規則により衛生管理者や産業医の職務として定められています。事業者は、産業医が定期的な巡視を行えるよう機会や情報を提供し、職場巡視をただ実施するのではなく、計画・実施・評価・改善といったPDCAを回せるように取り組んでいくことが求められます。

1-2.職場巡視の目的

職場巡視は、作業方法や衛生状態に有害な影響を与える恐れがないかどうかを確認し、労働者の安全と健康の確保や、快適な作業環境・作業条件を支援するための課題解決を目的としています。
衛生管理者や産業医にとって、職場巡視は重要な役割のひとつです。職場巡視によって、職場の安全管理や健康管理上のリスクを早めに見つけることができます。また、労働者がどのような場所で、どのような作業を行なっているかを実際にその場で観察することで、書類などではわからない現場の作業に潜むリスクを発見することができます。

産業医や産業看護職にとっては、労働者の仕事内容、職場環境、事業所内の状況を把握する機会となり、個別の保健指導や健康管理上の対応にも役立ちます。

1-3.関連する法規則

職場巡視に関連する規則は次のとおりです。

① 衛生管理者の定期巡視(労働安全衛生規則第11条)

衛生管理者は、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し設備や作業方法または衛生状態に有害な恐れがある際は、直ちに労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならない。

② 産業医巡視(労働安全衛生規則第15条)

産業医は、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害な恐れがある際は、直ちに労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならない。

ただし、平成29年(2017年)の法改正により、事業者から産業医へ所定の情報が毎月提供され、かつ事業者の同意を得ている場合は産業医の職場巡視の頻度を2か月に1度とすることが可能となりました。

<所定の情報とは>
① 衛生管理者が行う巡視の結果
② 労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であって、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
例:
・長時間労働の面接指導が必要な労働者の氏名と労働時間
・新規に使用される予定の化学物質や設備に関する状況
・労働者の休業状況


「安全衛生管理体制」チェックリスト

2.職場巡視を効果的に行うためのPDCA

職場巡視は巡視先の担当者や管理者の時間を割いて行うため、効率的かつ効果的に実施していくことが求められます。ただ漠然と実施するのではなく、指摘事項を必ず改善に繋げること、事業所内の他の場所への横展開を行うこと、事業所全体を漏れなく巡視することなどが必要です。PDCAを意識して、計画、実施、評価、改善のサイクルを回すようにするとよいでしょう。

PDCA

2-1.Plan(計画)

職場巡視は、年間計画に沿って定期的に実施するものと、労働災害や事故等により明確な目的をもって臨時的に行われる場合があります。
いずれの場合も巡視の目的やテーマを予め設定し、巡視先の担当者と認識を合わせておくことで限られた時間の中で効果的に巡視を行うことが可能となります。

また、巡視に臨む前には事前にどこを見に行くか、問題が生じた場合にどのように対応するか等、計画した上で臨むことが望ましいでしょう。事業所の特性や業種、傾向、作業内容や潜在するリスク等について予め確認しておくと問題点や改善が必要な事項に気付きやすくなります。確認すべき事項が多い場合は、作業工程や作業内容について確認すべき項目をリスト化しておくのもお勧めです。

<情報収集の例>※巡視のテーマや目的に沿って情報を収集する
・作業工程表/作業内容リスト
・有害物や有害作業の取り扱いの有無
・作業に用いる各種機器
・作業環境測定結果/特殊健康診断結果/特定業務従事者健診結果
・前回の職場巡視記録や衛生委員会で審議された内容
・過去の労働災害やヒヤリハットの有無
・ストレスチェックの集団分析の結果
・定期フォロー者の情報(高ストレス者、休復職者、過重労働者等)

また、職場巡視にあたり巡視先に応じた作業着やヘルメット、各種防護服の着用が必要な場合があるため事前に確認しておくと良いでしょう。

2-2.Do(実施)

予め準備していたチェック項目に加えて労働者の表情や姿勢、職場の雰囲気や風土などに目を向けると良いでしょう。
主に巡視担当者へ説明を求めますが、現場の労働者へ声かけできるとより課題が明確になることが多いです。巡視中に問題が見つかった場合、その場で労働者や担当者へ指導を行うと良いでしょう。
また、良い点や悪い点は写真や動画に撮って記録に残しておくと次回の巡視時の参考にしたり改善後に比較したりすることが可能となります。事業所内の写真や動画を撮影する際は、撮影方法、撮影に用いる機材、撮影したデータの取り扱いなどや利用範囲について、社内のルールを事前に確認しておきましょう。

2-3.Check(評価)

改善が必要と判断された事項について、報告書等へ記載し巡視先へフィードバックを行います。巡視先の担当者は改善事項についての計画や改善点を報告書へ記載すると、委員会や産業医への報告がスムーズとなります。
そのため、報告書は事業所の上層関係者や巡視先、産業医等が回覧できるよう回覧確認欄を設けておくことをお勧めします。

2-4.Action(改善)

職場巡視の実施後は、定例として安全委員会や衛生委員会で報告し、必要時は調査審議を行います。委員会での報告の際は、巡視先を責める印象とならないよう、良いところの報告を交えながら改善に向けてのアプローチを目的とした報告となるよう心がけます。
また、対策後においても残存するリスクへの対応が必要な場合は対応計画を策定することが必要です。

3.職場巡視におけるチェックリストの利点と欠点

職場巡視を行う際に、巡視するポイントをまとめたチェックリストを使用することがあります。チェックリストには多くのメリットもありますが、一方で注意すべき点もあります。

職場のリスクの見落としがないよう、チェックリストは補助ツールであることを認識し、五感を働かせて評価するようにしましょう。また、定期的にチェックリストの見直しを行いましょう。

<チェックリストの利点>
・体系的なチェックが可能になる。
・抜け漏れがなくなる。
・同じ方法、同じ基準で評価できるようになる。
・不慣れな巡視者への教育ツールとして役立つ。
・職場の労働者や管理者とのコミュニケーションツールになる。

<チェックリストの欠点>
・チェックリストに含まれていない問題点を見落とす可能性がある
・チェックすることに重点を置きすぎて、改善がおろそかになる

4.オフィス職場における職場巡視

製造現場や作業現場と異なり、デスクワークを中心とするオフィス職場では、作業リスクが相対的に低くなります。ただ、照度、気温、湿度、CO2濃度などの職場環境の測定結果を確認したり、受動喫煙防止対策の状況をチェックしたり、防火・防災の観点から、避難経路の確保や職場の5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)の状況、設置物や什器の転倒防止対策などをチェックするとよいでしょう。

「事務所環境管理」チェックリスト

5.職場巡視における産業看護職の役割

職場巡視において、産業看護職に関する法規定はありません。しかし、職場巡視は事業所における様々な情報を得る重要な機会です。
事業所や作業環境の理解を深めることはもちろん、実際に労働者が働いている現場での表情や職場風土をみることで健康管理を行う上でのアセスメントに役立つこともあるでしょう。さらに、巡視を通して現場とともに課題解決に取り組むことで現場との信頼関係の構築にも繋がります。
単純作業とならないよう自発的に行動し、事業所や産業医、労働者と協力しながらPDCAサイクルを回していけると良いでしょう。

執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医


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■監修医師


産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』


■参考文献


産業医制度に係る見直しについて|厚生労働省
・産業保健看護学|公益財団法人 産業医学振興財団
・職場の健康がみえる|医療情報科学研究所 メディックメディア

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