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「事務所環境管理」チェックリスト/解説記事/手順書

産業保健の重要な取り組みの一つに「快適な職場環境づくり」があります。快適な職場環境には、気温や照度などの物理化学的な環境のほか、職場に備える設備、ストレスや働き方に関する側面も含まれます。近年では、多様な働き方が推進され、働きやすい環境整備への関心が高まっています。
過重労働やストレス、メンタルヘルス対策はもちろん重要ですが、今回は「事務所衛生基準規則」および「労働安全衛生規則」の改正内容を中心に、事務所の環境管理と働きやすい職場環境づくりについて詳しく解説します。


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化


※チェックリストはクリックのみで、Excel形式にてダウンロードいただけます。



STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック


それぞれの項目をクリックいただくと、その課題についての根拠や関連コンテンツ、活用できるフォーマット等が閲覧できるようになっております。ご自身の理解を深めるためにご利用ください。

■関連法規
■快適な職場環境の形成
■まとめ


■関連法規


関連法規の種類事務所環境管理に関連する主な法規には、下記があげられます。また「事務所」とは、事務所衛生基準規則において、PC作業やデスクワークなど、事務作業に従事する労働者が主に使用する場所と定義されています。

・労働基準法(;労基法)
・労働安全衛生法(;安衛法)
・事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(;快適職場指針)
・労働安全衛生規則(;安衛則)
・建築物衛生法
・建築物衛生法施行令
・建築物衛生法施行規則
・事務所衛生基準規則(;事務所則)
・健康増進法

以下に、建築物環境衛生管理基準と事務所則の概要を一覧表で示します。

建築物環境衛生管理基準一覧表建築物環境衛生管理基準
事務所則環境管理基準一覧表事務所環境管理

事務所則および安衛則の改正のポイント2021年に、「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第188号)」が公布、施行されました。これに伴い、事務所則や安衛則についても一部運用が見直されています。


♦照度
事務所において労働者が常時就業する場所において、作業面の照度基準が、3区分から2区分に変更されました。照度不足の際に生じる眼精疲労の予防、文字を読むために不適切な姿勢を続けることによる上肢障害等の健康障害の防止を目的とし、すべての事業所を対象に適用されます。
(事務所則第10条)
照度改正

ただし、事務所則における照度基準は、事務所や会議室などの設計で用いられるJIS(;日本産業規格)による照度基準に比べてかなり暗いことが指摘されています。JIS照度基準では、一般的な事務室では750ルクス以上の照度を推奨しています。法令(事務所則)における基準は「最低基準」であることに留意し、作業しやすい照度を確保することが重要です。特に、高年齢労働者や、健康診断で視力が有所見となっている労働者に対しては、個別の配慮が必要となることもあります。
JIS
参考:JIS照度基準(2023年改正、JIS Z9125:2023 屋内作業場の照明基準より抜粋)

♦便所
男女別に区別して設置することを原則としていますが、建築物の構造などの理由から複数の便所を設けることが困難な場合、例外規定として、「独立個室型の便所」が認められました。これは、同時に就業する労働者が常時10人以内の場合にのみ適用されます。
(事務所則第17条の2、安衛則第628条の2)
「独立個室型の便所」とは、
・男女別に区別せず、単独でプライバシーが確保されている
・便所の全方向が壁等で囲まれ、内側から施錠できる構造である
(仕切り板又は上部もしくは下部に間隙のある壁等で構成されている場合はNG)
・1個の便房により構成されている

独立個室型の便所の場合、男女が便房を共用することになります。労働者の意見を聴く機会を設けるなどして、あらかじめルールを定めておくとよいでしょう。
(ルールの具体例)
・消臭や清潔の保持についてのマナー
・サニタリーボックスの管理方法
・盗撮等の犯罪行為の防止措置
・非常用ブザーの設置
・外部から開錠できるマスターキーの管理


♦休養室・休養所
常時50人以上又は常時30人以上の女性労働者がいる事業場は、休養室または休養所を男女別に設置する義務があります。これらは、体調不良者や月経中の女性等が一時的に使用するためのものです。長時間の休養等が必要な場合は、医療機関に搬送するか、帰宅させることが基本です。そのため、随時利用できるような環境が整っていれば、専用の設備である必要はありません。
ただし、休養室や休養所は、体調不良の労働者が安心して横になれるようにする必要があります。利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、以下のような配慮が必要です。
(事務所則第21条、安衛則第618条)

(配慮の具体例)
・入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
・関係者以外の出入りを制限する
・緊急時に安全に対応できる

♦休憩設備
事業者は、労働者が有効に利用できる休憩設備を設けるように努めなければなりません。
休憩スペースの広さや設備内容については、事業場の実情やニーズに合わせ、労使の話し合い(衛生委員会等)で、調査・検討等を行った結果に基づいて設置するよう努める必要があります。
(事務所則第19条、安衛則第613条)

♦更衣室・シャワー設備
被服が汚染または浸潤する可能性がある労働者のためには、更衣室又は被服の乾燥設備を設置することが義務付けられています。
これらの設備は、性別を問わず安全に利用できるように、プライバシーの確保に配慮することが求められます。
(事務所則第18条2項、安衛則第625条1条)


♦温度
事務所において、事業者が空気調和設備を設置している場合、温度が18度以上28度以下(改訂前17度以上28度以下)になるよう努めなければなりません。
(事務所則第5条3項)



♦救急用具
事業場は、「負傷者の手当てに必要な救急用具及び材料」を備え、設置場所と使用方法を周知することが義務付けられています。ただし、具体的な救急用具の品目については、今回の改訂で削除されました。
(安衛則第633条、旧第634条)
労働者が負傷したり疾病に罹患したりした場合は、速やかに医療機関に搬送することが基本です。これは、事業場ごとに負傷や疾病の発生状況が異なるためです。しかし、事業場内で負傷者の応急手当てを行う場合も考慮しなければなりません。そのため、リスクアセスメントの結果や、安全管理者や衛生管理者、産業保健スタッフの意見、労使の話し合いの場(衛生委員会等)での調査審議、検討結果などを踏まえて、事業場の実情に応じて応急手当てに必要なものを備え付けることが望まれます。
応急手当ての際には、感染予防の観点から、マスクや手袋、手指消毒薬等も準備しておきましょう。
労働災害が発生した際には、医療機関へ搬送するのか事業場において手当てを行うのかの判断基準や、救急用具の備え付け場所や使用方法等を、あらかじめ定めておくとよいでしょう。

♦発汗作業に関する措置
熱中症予防の観点から、多量に発汗する作業に従事する労働者のために、塩および飲料水を備えることが義務付けられています。今回の改訂では、この「塩」に塩飴や塩タブレット等のほか、スポーツドリンクなどの飲料水に含まれる塩分も含まれることが明示されました。
(安衛則第617条)


■快適な職場環境の形成


職場環境が悪いと、労働者にとって不快であるだけでなく、生産性が低下する要因にもなります。職場を疲労やストレスを感じにくい快適なものとすることは、職場のモラルの向上、労働災害の防止、健康障害の防止だけでなく、事業活動の活性化にもつながります。
事業者は、快適な職場環境を形成するために、継続的かつ計画的に適切な措置を講ずることに努めなければなりません。

(安衛法第71条)

事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針労働省(;現厚生労働省)より、「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(;快適職場指針)」が発表されています。法令で定められた最低限の基準を守ることはもちろんですが、事業場が自主的な活動により、職場環境を改善していくことが求められます。
快適な職場環境の形成は、以下の4つの内容に分けられます。
①作業環境の管理
②作業方法の改善
③疲労回復のための施設・設備
④その他の施設・設備の維持管理

快適な職場環境の形成のための措置を実施する際に考慮すべき事項として、下記の4点があげられます。
①継続的かつ計画的な取組み
 (具体例)
・担当部署や担当者を決め、推進体制を整備する
・性能や機能の確保等に関するマニュアルを作成する
・定期的な議論の場を設け、事業場の実情の変化に応じた見直しを随時行う
②労働者の意見の反映
(具体例)
・衛生委員会で議論し、その内容を反映する
③個人差への配慮
(具体例)
・暑がりな人、寒がりな人がいることに考慮して温度調整をする
・年齢差や性差、その他個人差があることを常に考慮する
④潤いへの配慮
(具体例)
・絵画や植物を設置する
・レクリエーションの実施など、コミュニケーションの活性化を図る仕組みを作る▼一緒に見たいコンテンツ▼
職場巡視チェックリスト

情報機器作業における労働衛生管理情報機器作業における労働衛生管理の対象は、事務所内で行われる情報機器作業です。具体的には、PC、タブレット端末、スマートフォンなどの情報機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業が含まれます。
近年、職場における情報機器作業が大きく変化するとともに、精神的・身体的疲労を感じている労働者が増加しています。このような状況下で、労働者の心身の負担を軽減し、作業を支障なく行えるようにするためには、事業者が適切に管理を行うことが重要です。
情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインには、以下の6つの項目があります。

<Ⅰ作業環境管理>
下記について、作業に適した環境を整えましょう。
・照明等
・パソコン機器
・タブレット・スマートフォン
・椅子、机

<Ⅱ作業管理>
疲れにくい方法で作業しましょう。
・作業時間
・作業時間
・作業姿勢
・機器の調整

<Ⅲ作業環境の維持管理>
作業開始前の確認や点検、清掃、事業者による定期的な確認を実施し、作業環境や機器を適切に維持できるようにしましょう。

<Ⅲ健康管理>
①健康診断
情報 機器作業に関する健康診断は、法令による実施義務はありませんが、行政指導により実施が推奨されています。対象者は、ディスプレイやキーボードを使用する作業者や、休憩が取りにくい環境で働く作業者で、1日に4時間以上情報機器作業を行う者などです。配置前とその後1年以内ごとに定期的に実施することが推奨されています。

②健康相談
メンタルヘルスや、健康上の不安、慢性疲労、ストレス等による症状や自己管理の方法などについて、健康相談の機会を設けるように努める必要があります。産業保健スタッフが健康相談に対応できるように、情報機器作業における健康への影響を理解するのはもちろん、職場の状況や作業環境について、情報収集しておくことが必要です。

③職場体操
体操、ストレッチ、リラクゼーション、軽い運動等を行う習慣をつくるようにしましょう。椅子に座って小休憩中にできるストレッチの方法についての情報を提供したり、始業時や就業時にラジオ体操を行うなども有効です。

<Ⅳ労働衛生教育>
情報機器作業に係る労働衛生教育実施要領に基づき、情報機器作業従事者、情報機器業管理者を対象に実施する必要があります。
(昭和61年3月31日付け基発第187号)
(令和元年10月11日改正基発1101第4号)


<Ⅴ配慮が必要な労働者への対応>
高年齢労働者や障害をもつ作業者にも、その特性に応じた配慮が求められます。


<Ⅵテレワークへの配慮>
コロナ禍の影響でテレワークを導入する事業場が増えています。テレワークの作業環境には、事務所則や労働衛生規則、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインは一般的には適用されません。しかし、事業者は労働者の安全衛生に配慮する必要があります。2021年3月に改定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、「自宅等においてテレワークを行う作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」の活用や、労働衛生教育の実施が明記されています。 ▼一緒に見たいコンテンツ▼
高年齢労働者の健康管理チェックリスト解説手順書 障害者雇用と合理的配慮チェックリスト解説手順書

職場における受動喫煙防止対策職場における受動喫煙対策については、安衛法、健康増進法に定められています。2020年4月に健康増進法の改正により、多くの人が利用する施設(事業場含む)では、受動喫煙対策が義務付けられました。これを受けて、2019年に「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」が公表されました。

■まとめ


働きやすい職場環境に対する関心は年々高まっています。働きやすい職場環境は、過重労働やメンタルヘルス不調、労働災害の防止だけでなく、生産性の向上にも大きく寄与します。法令が遵守されているか、職場の環境が適切に維持されているかについては、職場巡視等で定期的に確認し、衛生委員会で審議するなどの自発的な取組みが重要です。

 

STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり


手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。


事務所環境管理手順書

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