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産業保健業務に役立つ!安全衛生管理体制の基礎知識やポイントを分かりやすく解説

安全衛生管理を知ろう【さんぽラーニング|記事】

産業保健活動は、労働者個人へのアプローチだけでなく、組織へのアプローチが重要です。そのため、産業看護職などの産業保健スタッフは、保健指導など個人に向けたアプローチのスキルの向上に加え、組織への理解を深めそのニーズを踏まえた提案を実施するなど、組織にアプローチするスキルが求められます。
この記事では、安全衛生管理体制の基礎知識やポイントについてお伝えします。

目次

1.安全衛生管理体制
2.安全衛生管理体制の構成
3.安全衛生教育
4.さいごに

1 安全衛生管理体制

安全衛生管理体制とは、 事業場の自主的な労働災害防止の取り組みを組織的、効果的に実施するための体制のことです。そのための組織づくりについては、労働安全衛生法によって定められています。
適切な安全衛生管理体制を整えることは、労働災害の防止や発生後の損失抑制、労働者のモチベーション向上、作業効率の向上などにつながります。


2 安全衛生管理体制の構成

法令上必要な役職や委員会は、事業場によって異なります。
事業者は法令に則り、必要な役職を選任したり、委員会を設置しなければなりません。またそれらに一定の権限を与えなければなりません。
ここでは、安全衛生管理体制において主な役職、委員会についてご紹介します。

総括安全管理者

総括安全管理者とは、安全衛生活動が適切に実施できるよう、安全管理者や衛生管理者を指揮、総括する人のことです。
法令で定める総括安全衛生管理者の選任基準を満たす場合、その事業場ごとに1人、総括安全衛生管理者を選任しなければなりません。
統括安全衛生管理者になることができるのは、その事業場において事業の実施を統括管理できる権限のある人(工場長、作業所長、社長、支社長、支店長、事業場長など)でなければなりません。


安全管理者

安全管理者は、事故や怪我などの労働災害を防ぐために、労働者の安全を守るための業務を管理する人のことです。
安全管理者になるためには、所定の要件(資格、研修受講など)を満たす必要があります。
法令で定められた基準を満たす場合、その事業場ごとに必要な数の安全管理者を選任することが義務付けられています。安全管理者は全員、その事業場に専属とすることが原則となっています。


選任が必要な業種 規模
製造業、建設業、電気業、林業、鉱業、運送業、清掃業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業 常時使用する労働者が50人以上


さらに、所定の要件を満たす場合、選任した安全管理者のうち少なくとも1人を『専任』としなければなりません。

業種 常時使用する労働者数
①建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業 300人
②無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業 500人
③紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業 1000人
④表1の選任が必要な業種のうち①~③を除く業種 2000人

衛生管理者

衛生管理者とは、事業場において労働者の健康を確保するための業務を管理する人のことで、週1回の職場巡視、衛生委員会への出席などを実施しなければなりません。
その事業場の衛生管理者となるためには、事業場の業種に応じた資格要件が必要となります。
衛生管理者は、全ての業種で常時50人以上の労働者がいる事業場で選任が義務付けられており、労働者の人数により選任しなければならない人数が異なります。衛生管理者は全員、その事業場に専属とするのが原則です。

<図1 衛生管理者を選任する人数について>
衛生管理者

また、選任した衛生管理者は、下記の条件を満たす場合は、少なくとも1人は、『専任』としなければりません。

<図2 選任した衛生管理者を『専任』としなければならない基準>
衛生管理者

産業医

産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務付けられています。
産業医となるためには、医師免許に加えて所定の要件を満たす必要があります。
選任しなければならない人数や、『専属』としなければならないかどうかについては、有害業務の有無や事業場の規模により異なります。
産業医の職務は多岐に渡ります。健診結果について意見を述べたり、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェック後の面接指導、職場巡視、などがあります。

委員会

労働安全衛生法に基づいた委員会は、安全委員会衛生委員会、または、両委員会を統合した安全衛生委員会があります。
事業場の業種または規模に応じて委員会を設置しなければなりません。
委員会規定
安全衛生管理の取り組みは労使が一体となって行う必要があります。
そのため、安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会は、総括安全衛生管理者や衛生管理者、安全管理者などの『事業場側』と同数の労働者代表のメンバーで構成しなければなりません。
これらの委員会は月1回以上の開催が必要です。委員会で話し合った内容は、労働者全員に周知することが義務付けられており、議事録は3年間の保存が必要です。

3 安全衛生教育

安全衛生教育とは、事業者が労働災害を防ぐために、労働者に対して安全又は健康を確保するために必要な知識技能などを教えたり、訓練を行ったりすることです。
法令で義務化されているものと、努力義務となっているもの、法令での規定がないものなど様々な教育があります。

法令で義務付けられているものや努力義務となっているもの、法令での規定がないもの(自主的行うもの)など様々な教育があります。

法令で義務付けられている教育には下記があげられます。
雇入時教育:雇入れ時すべての労働者を対象に実施
作業内容変更時教育:作業内容の大幅な変更時にすべての労働者を対象に実施
特別教育:安全衛生規則第36条で定める危険有害業務にはじめて従事するとき
職長等教育:労働安全衛生施行令第19条で定める業種の職長などを対象に、初めて就くとき、約5年毎に実施

法令で努力義務とされている教育には下記があげられます。
安全管理者や衛生管理者などの業務・役職に初めて従事させる時に実施する安全衛生業務従事者に対する能力向上教育(約5年毎)や、労働者の健康の保持増進のための活動として実施する健康教育があります。
安全衛生教育は、

5 さいごに

安全衛生管理体制は、事業場の安全衛生管理活動の土台となるものです。
安全衛生管理体制の中に、産業看護職の選任は、現在のところ法令で義務付けられていません。しかし、産業看護職は、労働者と事業者の中立となり各担当者の連携をスムーズにしたり、相談の窓口となったり、衛生教育を実施するなど重要な役割を担っています。
安全衛生管理体制の根拠を知り、かつ事業場の実情やニーズにあわせた産業保健活動を展開することが求められます。



執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 先生


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■参考文献

岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.

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