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セルフケア研修の効果を高めるには?職場で実践したい教育方法と運用のポイント

セルフケア

ストレス社会といわれる現代。企業におけるメンタルヘルス対策の第一歩は、従業員自身が心と体の変化に気づき、自ら対処する「セルフケア」です。
厚生労働省も推奨するこのセルフケア教育は、形式だけで終わらせず、従業員の気づきや行動変容を引き出すことが大切です。
本記事では、産業保健スタッフ・衛生管理者の皆さまに向けて、セルフケア研修を効果的に企画・実施するためのポイントと実践例をわかりやすく解説します。


目次

1.セルフケアとは?職場で注目される背景と基本の考え方
2.セルフケア対策の基本的な考え方
3.セルフケア研修の成果を高める!実施と運用のポイント
4.まとめ:セルフケア研修は「やって終わり」にしない


1 セルフケアとは?職場で注目される背景と基本の考え方


セルフケアとは、労働者自らが行うストレスへの気づきとその対処法及び自発的な相談行動、さらにストレスの予防などを含む行動のことです。

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」 によると、心の健康づくりを推進するためには、労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識や方法を身につけ、それを実施することが重要です。
一人ひとりの労働者が「自分の健康は自分で守る」という考え方を理解し、正しい知識を持ち適切な行動をとれるような支援をする必要があります。



2 セルフケア対策の基本的な考え方


参加者のモチベーションに配慮する

職場におけるセルフケア教育は、治療ではなく予防が主な目的です。そのため参加者が「困っていること」を解決するためというよりも、今後経験する可能性がある問題への対処能力を向上させることが主要な目的となるため、必要性を感じていない参加者がいることにも留意しましょう。

また、業務の一環として義務的に参加する場合も、自発的に参加する場合に比べて、必ずしもモチベーションが高くない点にも留意する必要があります。

参加者のニーズが多様であり、「働く人」であるということは念頭におく

職種や勤務形態、業務内容、勤続年数や年齢、健康診断結果やストレスチェックの結果など、職場や参加者についての情報をしっかり収集し、ニーズを把握するよう心がけましょう。
産業保健におけるセルフケア対策は、「働く人」を対象としています。業務のパフォーマンス向上など、日常業務に応用できるという視点を取り入れることが必要です。



3 セルフケア研修の成果を高める!実施と運用のポイント


1)計画・準備

■対象者の選定

全従業員に実施することが理想ですが、難しい場合は優先順位をつけて実施する必要があります。新入社員、異動者、昇格者などは、ストレスが多い状況であるといえるため優先度を高めるとよいでしょう。ストレスチェックなどの結果により、高ストレス者に限定して実施する場合は、参加者自身や周囲に偏見や誤解を与えないような配慮や、参加者の心理的抵抗を少なくするような配慮が必要です。

■到達目標の設定

実施する研修において、参加者にどうなってほしいのか、身に着けてほしい最低限の到達目標を明確にし、参加者に対しても明示するとよいでしょう。

2)実施

■内容

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」には、セルフケアに関する教育研修・情報提供する内容に以下の7項目を盛り込むことが推奨されています。

  • メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
  • ストレスおよびメンタルヘルスケアに関する基礎知識
  • セルフケアの重要性および心の健康問題に対する正しい態度
  • ストレスへの気づき方
  • ストレスの予防、軽減及びストレスへの対処の方法
  • 自発的な相談の有用性
  • 事業場内の相談及び事業場外資源に関する情報

具体例を下記に4つあげます。

例1) 職業性ストレスモデルを用いた説明

ストレス反応は、仕事のストレス要因だけでなく、個人要因やプライベート、周囲の人からのサポートによって影響を受けます。
ストレス要因や、ストレス反応について理解し、正しく対処することで疾病を予防することが必要です。
職業性ストレスモデル参考:厚生労働省 ストレスに気づこう

例2) ストレス反応についての説明

ストレスそのものが有害なわけではなく、適度なストレスは、働きがいなど人生にハリを与えてくれます。 しかし、その程度が大きすぎると、心やからだが適応しきれなくなり(適応障害)、心身にダメージを与えます。 ストレスと上手につきあうためには、自分に過剰なストレスがかかっていることに気づくことが大切です。
ストレス反応として表れやすい症状は下記のようなものがあります。

【こころのサイン】
・不安や緊張が高まって、イライラしたり怒りっぽくなる
・ちょっとしたことで驚いたり、急に泣き出したりする
・気分が落ち込んで、やる気がなくなる
・ 人づきあいが面倒になって避けるようになる

【体のサイン】
・ 肩こりや頭痛、腹痛、腰痛などの痛みが出てくる
・寝つきが悪くなったり、夜中や朝方に目が覚める
・食欲がなくなって食べられなくなったり、逆に食べすぎてしまう
・下痢したり、便秘しやすくなる
・めまいや耳鳴りがする

これらのサインつまり自分の状態を振り返る機会をもつ、自分に意識を向けることは、セルフケアにつながります。

例3) ストレスコーピング

ストレスに対処する行動をストレスコーピングといいます。

ストレスコーピングの分類としては、
・ ストレスそのものに対する働きかけによってストレスをなくしてしまう方法
・ストレスに対して自分自身ならびに周囲の人の協力を得て解決する方法
・ストレスによって発生した自分の不安感や怒りなどの感情を周囲の人たちに聴いてもらうことによって発散する方法
などがあります。

日頃からストレスが発散できるよう、趣味や気軽にできる気分転換、生きがいとなるものをもつことも必要です。また、困ったときに相談できる人や場所を持っておくことは非常に重要です。

例4) 社内での相談先、社外相談窓口の紹介

職場での相談先として、上司や同僚、産業保健スタッフの紹介、社内社外の相談窓口の紹介を合わせて実施するとよいでしょう。メンタルヘルス不調は、恥ずかしいと感じている人も多くいますが、適切に相談行動をとれるということがセルフケアにつながることを伝えるようにしましょう。

■職場環境づくりも合わせて実施する

職場環境改善もあわせて実施することで、セルフケアの効果は高まります。
研修内容にそれらを盛り込み、周知するようにしましょう。
(具体例)
・1on1の定期的な開催
・休養設備の設置
・サークル活動などの実施

3)事後対応

■フォローアップの機会を設ける

研修実施後、研修で得た知識や技術を実施できているかの確認や、日常生活における課題について確認することにより、研修の効果はより高まります。
フォローアップの実施時期としては、研修の実施後3か月程度が目安です。

フォローアップ方法としては、面談、メール、電話などの個別形式を取り入れてもよいでしょう。

参加者へフィードバックする際には、参加者が実施できた点や良かった点などに着目し、参加者の自発的な行動を強化できるようこころがけましょう。


4 まとめ:セルフケア研修は「やって終わり」にしない


職場におけるメンタルヘルス対策において、セルフケア対策は基本であり、不調になってからではなく、未然に防止することが必要です。そのためには従業員がセルフケアについて正しく理解し、日常生活に取り入れ実践することが必要です。

産業看護職には、従業員のニーズを把握し、自発的に取り組めるよう支援することが求められます。分かりやすく効果的な研修を実施することとあわせて、環境づくりにも努めましょう。


■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師


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1 件の返信 (新着順)
MN
2024/09/28 15:03

「例1) 職業性ストレスモデルを用いた説明」の図に「NISOH」とありますが、正しくは「NIOSH」では?


MN様 ご指摘いただきありがとうございます。こちら、おっしゃる通りでございます。「NIOSH」に訂正いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。