在宅勤務制度と職場復帰支援~復職支援プラン作成と運用上の留意点、失敗しない活用方法
在宅勤務制度について、さまざまな企業で職場復帰支援の場で活用されています。ですが、実際の運用については、一つひとつの判断に悩む場面が多いのではないでしょうか。
在宅勤務制度と職場復帰支援について、理解を深め効果的に活用していきましょう。
【目次】
1.法的な側面から在宅勤務制度を考える
2.在宅勤務制度を活用した際の長所・短所
3.在宅勤務制度の実際の運用
4.復職支援プランを作成する際のポイント
5.まとめ
1.法的な側面から在宅勤務制度を考える
在宅勤務と職場復帰支援について、まずは法律的な側面から情報を整理していきましょう。
法律的には、職場復帰の可否について、雇用契約に定められている本来の業務の労務提供ができるかどうかを基準に判断することが適当であり、様々な裁判事例からも相場とされています。雇用契約の本来の労務提供とは、簡単に言うと、休職前に行っていた仕事ができるということですが復職直後に100%できる必要はありません。
雇用契約の範囲内で、異動や配置転換などの業務の種類の変更が可能であれば、検討を行って最終的には会社が判断する、というのが、一般的な職場復帰の考え方となります。
現状では、基本的に職場復帰の際に在宅勤務制度を使うかどうかは、企業が自由に決めて問題はなく、特に法律的な縛りはありません。しかし、この場合も、在宅勤務制度がその人の雇用契約の範囲に入ってくるかどうかというところが重要になります。
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2.在宅勤務制度を活用した際の長所・短所
在宅勤務制度を実際に活用する際に、どのような点にポイントを置いて活用をすればよいでしょうか。
骨折事例とうつ病事例を元に、その長所や短所、そして在宅勤務制度を活用した際の復職可否の判断について具体的に考えていきます。
骨折事例における復職可否の判断
在宅勤務によって骨折が悪化するということは心配しなくても良いでしょう。そのため、両松葉杖をついて、自宅で安全にパソコン作業ができるぐらい回復したら職場復帰できるだろうというところで、足の骨折の場合は、在宅勤務制度をうまく使うと早めに復職できるだろうと考えられます。-
うつ病事例における復職可否の判断
一方で、うつ病事例をもとに、メンタルヘルス不調の場合について考えてみたいと思います。
メンタルヘルス不調の場合は、復職後に再発しないかどうかということが、一番の問題になります。
骨折の場合と違いメンタルヘルス不調の場合は、疲れが溜まってくると症状が悪化して、病気が再発するというのが最大の特徴です。在宅勤務で仕事をしても通勤がないだけで仕事によっては疲れてくるというところはあまり変わらないと思います。出社の場合も在宅勤務の場合も、復職の基準には違いがなく、区別をすることは難しいのではないかと思います。
メンタルヘルス不調では在宅勤務であっても出社する場合であっても、十分に回復したかどうかの確認には、生活記録表を使って、外出の練習を行い、出社の場合と同じ基準を用いて復職の可否を判断する運用が、現状一番安全だと思います。
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3.在宅勤務制度の実際の運用
在宅勤務制度の運用については、職場や職種、在宅勤務制度の利用状況によって必要とされる判断は様々なため、しっかりと手順を踏んで対応していくことが大切です。
在宅勤務を積極的に活用できるケース
在宅勤務にすることで、病状が悪化するリスクが減らせる、治療と就業の両立支援に役立つ場面には、在宅勤務のメリットが存分に活かせると思います。
(例、疲れやすさ・歩きにくさの症状がある例、がん治療の一時的な副作用等)-
メンタルヘルス不調の場合
回復が不十分なうちに復職すると、病状が悪化して再休職してしまうリスクがあります。復職の判断が少し早すぎた場合、その後病状が悪化することで、安全配慮面のリスクもあり、再発することで労働損失が長引くというリスクもあります。
まずは、回復状況の評価について、在宅勤務をする場合でも出社して勤務をする場合でも、出社を前提とした回復の基準で判断をします。
それと並行して、職場復帰支援の復職プラン、復職後の業務内容を調整するという作業も行っていきます。
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4.復職支援プランを作成する際のポイント
復職支援プランを作るポイントは、下記2点があります。
業務調整
主治医の診断書は、あくまで参考意見の1つとなるため、最終的な決定は、社内で対応できる範囲で行うというのが、基本的な考えになります。雇用契約で定めるルールの範囲を超えた配慮を行うときには、具体的な期限を設けて、それを超えたら、自動的に通常のルールに戻しましょう。また、その期限を超えても、通常に働けないという方は、もう1度再休業してもらうというルールにしておくと良いでしょう。フォローアップ
在宅勤務で復職する場合は、社員が自宅にいるので、上司の体調管理がなかなか難しいという場面もあるため、健康管理や業務管理面の工夫をしましょう。
業務開始時、終了時に業務内容や体調を報告してもらう、復職後も継続して生活記録表をつけてもらうといった対応が効果的です。
上記ポイントを押さえたら、主治医に最終チェックを行い、最終的に会社としても復職の判断をしましょう。
この方法は、在宅勤務に限らず、職場復帰の調整や判断が難しいケースでも使える共通のテクニックです。状況に合わせて応用してください。
5.まとめ
在宅勤務制度と職場復帰支援の運用については、今後さまざまな事例やノウハウが溜まってくる部分といえます。それぞれの経験を社内の関係者や他の事業所の産業保健スタッフ、また社外の関係者とも情報共有をしながら、より良い活用方法を探していきましょう。
情報提供者
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
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投稿を表示記事中に「休職前に行っていた仕事ができるということ」とありますが、在宅の有無に関係なく、休復職で問題になる事例ではここをあやふやにして「パフォーマンスが戻り切っていなさそうだけど(在宅だから、主治医の診断書があるから)大丈夫だろう」と復職させたパターンのときが多いのではないかな、と感じています。
在宅勤務には働き方改革の一面もありますが、傷病者の在宅勤務は就業制限の一種として取り扱うと良いのだろう、と最近思っています。
また、在宅勤務は使い方によってはオンラインリワークと競合していくのかな、と思うところもあり、それぞれのメリット・デメリットを比較して知りたいと思いました。
ちなみに先日、「『現場作業員が被災し足をケガした。通勤できない状況だが、頭は元気なので在宅勤務でデスクワークさせた』という事例の場合、休業災害になるのか」と労基署に質問したら、「休業補償給付を受けていないので休業災害にはならない」と回答をもらいました(そういう事故があったわけではありませんが)。もしかしたら、ケガによる休業災害は在宅勤務によって回h・・・減少していく、ということもあるのかもしれません。
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