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復職支援において在宅勤務制度を活用した際の長所・短所について

職場復帰支援の場で活用されている在宅勤務制度。実際に活用をする際に、どのような点にポイントを置いて活用をすればよいでしょうか。今回は、骨折事例とうつ病事例を元に、在宅勤務制度を活用した際の復職可否の判断について具体的に考えていきます。また、メンタルヘルス不調の場合に、在宅勤務制度を活用する際のポイントについても理解を深めていきます。

※本記事は2022年11月24日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
②在宅勤務制度を活用した際の長所・短所について【職場復帰支援勉強会】



【目次】
1.骨折事例における復職可否の判断
2.うつ病事例における復職可否の判断
3.在宅勤務制度のメリット・デメリット



1.骨折事例における復職可否の判断

メンタルヘルス不調の話をする前に、わかりやすい事例として骨折の事例について考えてみようと思います。
足の骨を骨折した方は、どのように回復していくでしょうか。最初は歩けないところから治療が始まり、だんだん骨がくっついてくると、両松葉杖で移動ができるようになってきます。更に、骨折が治ってくると少し体重をかけてもよいということで、松葉杖が1本外れて片松葉杖になります。最終的には、松葉杖なしでも歩けるようになってきます。
このような具合で回復をしていくのが足の骨折です。では、どの段階から職場復帰を認めるかどうかについて考えてみます。

まず、出社して勤務をする場合は、安全に通勤でき、事業所内でも安全に勤務ができる状態でないと復職は難しいです。通常は、電車などで安全に通勤できるように両松葉杖のところまでは、復職は見送りましょう。片松葉杖になったら公共交通機関を使って通勤しても大丈夫でしょう。このように片松葉杖から復職可、といった基準がよく用いられています。

一方で、在宅勤務が利用できる場合のことを考えてみます。在宅勤務によって骨折が悪化する、もう1回骨を折るということは心配しなくても良いでしょう。そのため、両松葉杖をついて、自宅で安全にパソコン作業ができるぐらい回復したら職場復帰できるだろうというところで、足の骨折の場合は、在宅勤務制度をうまく使うと早めに復職できるだろうと考えられます。

骨折事例

骨折した人は歩行が不安定になるので、転倒しないように気をつけなければいけません。そのため職場復帰の際には通勤中や業務中の安全確保、転倒しないようにすることがポイントです。在宅勤務を使うか使わないかで復職の基準が全く違うため、非常にわかりやすいといえます。
松葉杖の数、家の中で移動できるといった評価ができ、少々無理をして在宅勤務をしたとしても骨折が悪化することもないため、復職の判断については都合が良いでしょう。

2.うつ病事例における復職可否の判断

ここからは、メンタルヘルス不調の場合について考えてみたいと思います。
例えば、うつ病で会社を休んでいる人が職場復帰する場面を考えてみましょう。メンタルヘルス不調の場合は、復職後に再発しないかどうかということが、一番の問題になります。

メンタル不調の回復過程

メンタルヘルス不調の回復の様子というのは、辛い状況が少しずつ落ち着いてきて、家の中でゆっくり過ごせるようになり、外に出ても疲れにくくなる、その後、日中に外出する練習ができるようになっていきます。そこで復職をして、その後は仕事をしても徐々に疲れにくくなり、集中力や判断力も回復していくという順番で回復をしていきます。

出社して仕事をする場合には、睡眠のリズムが整う、毎日外出ができるかという部分を、生活記録表で評価をして職場復帰の判断をしていきます。
在宅勤務をする場合には、在宅勤務をしても病状が悪化せず、病気の回復にもさほど影響がなく、仕事もちゃんとできるという部分をどうやって確認すればよいでしょうか。骨折のケースと対比させながら考えていこうと思います。

骨折の場合と違いメンタルヘルス不調の場合は、疲れが溜まってくると症状が悪化して、病気が再発するというのが最大の特徴です。また、出社をして復職をする場合と、在宅勤務で復職をする場合において、業務の難易度や負担自体はそう変わらないといえます。
そのため、在宅勤務で仕事をしても通勤がないだけで仕事によっては疲れてくるというところはあまり変わらないと思います。毎日仕事をすることも変わりません。仕事をして疲労が蓄積し、病状が悪化しないかどうかというところを、出社の場合も在宅勤務の場合も、復職の基準には違いがなく、区別をすることは難しいのではないかと思います。

安易に復職させてしまう、要は、病気が十分に回復しないうちに復職をさせてしまうと、病状が悪化するリスクもあるというのは皆さんご存知の通りかと思います。そのため、より慎重に判断が必要となります。

骨折とメンタル不調の比較

では、実際にどうすればよいのかという話をしていきます。皆さんのご意見もいろいろあるところかと思いますが、私たちの経験上、メンタルヘルス不調では在宅勤務であっても出社する場合であっても、十分に回復したかどうかの確認には外出練習がやっぱり必要だと思います。
全く外出練習をしないで復職の判断をしようとすると、実はまだ十分に体調が回復していない人が復職してしまうということが発生します。そうすると、在宅勤務であっても復職後しばらくして体調が悪くなり出社できなくなってしまったり、症状がぶり返してしまうということを、やはり何件か経験しています。

現時点では、生活記録表を使って、外出の練習を行って、出社の場合と同じ基準を用いて復職の可否を判断する運用が、現状一番安全だと思います。今後このあたりについては、少し良い方法が発見されたりすると変わってくるかもしれませんが、今のところは、こちらが一番おすすめの方法だといえます。

3.在宅勤務制度のメリット・デメリット

ここまで、在宅勤務の場合と出社の場合の復職の可否の判断についてお話をしましたがここで違った話題として、メンタルヘルス不調の場合、在宅勤務を使って職場復帰すると際の、メリットデメリットどちらが大きいかという話を考えていきます。

  • 仕事の進め方
  • 通勤や職場の環境
  • ストレス
  • 健康管理

まずは、仕事の進め方から考えていきます。

仕事の進め方


在宅勤務のメリットとしては、自分のペースでできる仕事であれば在宅勤務であっても問題なく行えるというのがメリットの一つです。
一方でデメリットとしては、上司や同僚の連絡にメールや電話、チャットWeb会議等、色々なツールを使わなければならず、人によっては苦労する場合もあります。
例えば、そういったツールに慣れてない場合、また、異動や入社をしてきたばかりの場合は、連絡に困ることがあります。在宅勤務では時間管理や業務管理が本人任せになりやすいので、自分で計画的に仕事を進めていくことが苦手な方にとっては、少々負担が大きいという場面も見られます。

次に、通勤や職場の環境について考えてみましょう。

通勤や職場の環境

在宅勤務では通勤がなく、オフィスよりも静かな環境で集中して仕事ができるというようなメリットがあります。また、家事や育児、介護との両立について、在宅勤務の方が行いやすいという声もありますが、その一方で、業務に集中できる環境を家の中に作れない人にとっては少し仕事がしづらいといえます。
仕事をする場所の問題として、例えば、椅子や机の問題もあります。また、決まった時間に出社をするということがないので生活リズムが乱れやすい方も中にはいらっしゃいます。
こちらは、職場にもよりますが、出社している人たちと在宅勤務をしている人たちで、業務の配分や情報共有がうまくいかず、やりづらくなる職場もあります。

次に、ストレスについて考えてみましょう。

健康管理


ストレスの面から言うと、在宅勤務は通勤の負担もなく、職場の雑音もないという意味で、ストレスやプレッシャーから解放される方もいらっしゃいます。ですが、業務のそのものの難易度は変わらないため、在宅勤務だからといって、仕事が楽になるというわけではないと思います。
また、コミュニケーションを取るのが大変だという人もいます。孤立感や孤独感を感じる人もいるため、在宅勤務の方がストレスがより大きいという方もいらっしゃいます。

最後に、健康管理面について考えていきます。

健康管理

在宅勤務を行うことで、体調に影響する要因がうまく調整できれば病状の安定や回復に役立つ場合が大きいと思います。
その一方で、メンタルヘルス不調の場合は、復職した後の体調の変化や業務の状況について、上司に目を配ってもらう必要があります。ですが、在宅勤務の場合では上司の目の前にいないという問題があるので、少しその辺が見えづらくなることはデメリットといえます。
人によっては勤務時間とプライベートの線引きが曖昧になり、長時間労働になりやすいといった部分が、体調に影響する人もいらっしゃいます。また、安易に在宅勤務で復職を許可すると、その後、病状が悪化した場合に、企業にとっては安全配慮上のリスクになる可能性もあるということも指摘をされています。

在宅勤務には、メリットとデメリット、様々な両面があります。当たり前の話かもしれませんが、こういった部分は個人差が大きいという特徴があります。これまでお伝えしたことが全部の事例に当てはまるわけではありません。個々のケース毎にメリットデメリットを考えていく必要があるということを、皆さんもお感じになられているかと思います。

次の記事では、在宅勤務制度を職場復帰支援時に活用する際の具体的な方法についてご紹介します。
是非ご覧ください。
▶記事を読む 在宅勤務制度を職場復帰支援時に活用する具体的な方法


講師


難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』




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