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効果を見える化!事後措置で叶える労働災害予防

効果を見える化!事後措置で叶える労働災害予防
健康施策の成果は短期間では見えにくく、経営層への説明が難しいのが現状です。2025年9月18日に実施されたさんぽLABウェビナー「効果を見える化!事後措置で叶える労働災害予防」では、事後措置などの健康施策が労働災害の予防にどのように役立つのか、またその効果をどのように“見える化”できるのかが紹介されました。

本記事では、ウェビナーで取り上げられたポイントをもとに、転倒災害の予防に事後措置がどのように役立つのか、そしてその効果を経営層にどのように見える化して伝えるのかを、実際の事例を交えてお伝えします。

ウェビナー動画はこちら


山本誠先生(産業医)

目次

1.健康管理の効果の可視化と経営への貢献
2.労災防止と健康管理の先行研究
3.某製造業の場合での転倒災害比較
4.20年前から事後措置徹底した介入群
5.分散型事業所での事後措置
6.さいごに
7.まとめ


1. 健康管理の効果の可視化と経営への貢献


健康診断の事後措置を起点とした健康施策の効果を可視化し、労災予防につなげることは非常に重要です。製造業では、しばしば安全委員会での議論が安全管理に偏り、健康管理については十分に扱われないことがあります。また、業績悪化や不景気の際には健康管理に関する予算が削られがちですが、安全予算は比較的維持されることが多いという傾向も見られます。こうした状況を踏まえ、健康管理をどのように経営や安全管理に役立てるかが課題となります。


2. 労災防止と健康管理の先行研究


労働災害の傾向

2023年の労働災害件数では、死亡者数は全体として減少しています。一方で、休業4日以上の死傷者数は長期的には減少傾向にあるものの、一部では横ばい、あるいは増加傾向も見られます。2024年のデータでも同様の傾向が続いています。
厚生労働省のデータによると、死亡者数は全体として減少していますが、休業4日以上の死傷者数は増加しています。特に増えているのは、「無理な反動動作」「転倒」「墜落・転落」といった事故です。死亡事故の原因となる転落・墜落は減少傾向にある一方で、休業4日以上の死傷者数は増加しています。

転倒災害の傾向

日本における転倒による労災件数は右肩上がりで増加しています。転倒による労災件数の増加は、特に50歳以上の女性です。骨粗鬆症や筋力の低さなどの身体的要因に加え、女性の社会進出に伴い高齢でも働く人が増えていることも背景にあります。生産年齢人口の減少により高齢者の就業が増えることで、転倒による労災件数も増加するということがトレンドとして言われています。
一方で、年齢調整発生率(年齢構成の違いによる影響を取り除いた発生率)で比較するとほぼ横ばいで、十万人あたり約50人となっています。
さらに、転倒の約50%は、室内の平坦な床で発生していることが指摘されています。整理整頓が不十分な場所で転倒することはもちろんありますが、きちんと整理され、フラットな床であっても転倒は起きるといわれています。

転倒の原因

転倒の原因には主に三つの要因があります。①年齢、②作業環境、③生活習慣です。年齢は変えられませんが、作業環境では床を滑りにくくしたり、通路を明るくしたり、凸凹を減らしたり、滑りにくい靴を着用するなどの対策が有効です。しかし、作業環境の改善だけでは転倒を完全に防ぐことは難しく、生活習慣の改善も併せて行うことが、転倒リスクをさらに減らすうえで重要です。

先行研究からみる転倒と生活習慣の関係

転倒と生活習慣の関係を裏付ける先行研究¹)があります。これは、日本全国で行われたライフスタイルと転倒に関するウェブ調査で、過去1年間に職場で発生した転倒件数や、転倒による骨折の有無を確認したものです。また、喫煙の有無(過去・現在、紙巻き・加熱式)、睡眠、血圧、血糖、コレステロール、アルコール摂取、BMI、服薬状況、社会的要因なども併せて調査されました。

喫煙や睡眠と転倒

この研究では、タバコを吸っている人は、紙巻きタバコで約1.36倍、加熱式タバコで約1.78倍、両方を使用している場合は約1.64倍、転倒リスクが高いことが報告されています。
また、睡眠時間が5時間未満の人は、6時間以上の人と比べて1年間に転倒するリスクが約1.78倍高いことも示されています。性別、年齢、教育歴、職業、収入、業種、職位、企業規模、プレゼンティズム、その他の生活習慣を調整しても、有意差が残ったことから、これらの要因が転倒リスクに影響することが確認されています。

血糖・糖尿病・脂質異常症と転倒

さらに、血圧、糖尿病、コレステロールなどの疾患を持つ人は、持たない人と比べて転倒リスクが高く、血圧で約1.6倍、糖尿病で約1.7倍、コレステロールで約1.3倍と報告されています。性別、年齢、教育歴などを調整しても有意差が残ることから、生活習慣改善が不十分な場合、転倒リスクは依然として高いままであることが示されています。

別先行研究:喫煙と労災(怪我)

さらに、別の先行研究²)でも、非喫煙者と比べて喫煙者は労災による怪我の発生率が約1.7倍高いことが報告されています。特に安全意識の高い企業では、このようなデータを示すことで健康管理の重要性が理解されやすく、知っておくと有益です。

なぜ血圧や糖尿病で転倒?

血圧や血糖が高いと転倒リスクが増える理由については、詳細なメカニズムはまだ明らかではありません。しかし、いくつかの先行研究でも同様の結果が報告されており、論文のディスカッションでは、血液循環や深部感覚、筋力低下などが影響している可能性が指摘されています。

労災予防と健康管理の先行研究まとめ

先行研究からも、企業が重視する労災対策において、健康管理が非常に重要な役割を果たしていることがわかります。特に50歳以上の女性は転倒災害のリスクが高く、職場環境の改善だけでは不十分であり、生活習慣の改善や健康管理の実施が不可欠です。
では、保健指導等の健診事後措置を徹底したら転倒災害は減らせるのでしょうか?某製造業の結果をみてみましょう。


3. 某製造業の場合での転倒災害比較


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講師|山本 誠 先生

産業医科大学産業生態科学研究所労働衛生工学非常勤講師 日本医師会認定産業医
医学博士 労働衛生コンサルタント

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