感情労働者の心理的ケア~取り組み事例の紹介~
保健師やカウンセラーなどの感情労働者は、感情労働による疲労が蓄積されていきます。そんな感情労働者の心理的ケアはどのように行えばよいのでしょうか。具体例について、当社カウンセラーが行っている心理的ケアを基に説明いたします。
※本記事は次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。動画で見たい方は以下リンクよりご覧ください。
▶②カウンセラーが実践している心理的ケアをご紹介【感情労働者の心理的ケアに関する交流会】
【目次】
1. カウンセラーが取り組んでいる心理的ケア
①スーパーバイズの実施
②小グループの従弟制度
2. 一人職場の場合のおすすめ心理的ケア
①ちょっとしたことを話せる相談先の確保
②専門職としての「ねばならない」という思考に気づく
1.カウンセラーが取り組んでいる心理的ケア
当社アドバンテッジリスクマネジメントのアドバンテッジ相談センターにはカウンセラーが在籍しています。カウンセラーも日々の活動で感情労働に従事し、疲労することがあります。そんな疲労をどのようにケアしているのか、当社の事例を基にご紹介いたします。
①スーパーバイズの実施
スーパーバイザーを中心にケースを検討し、該当のケースについて抽象度を上げ、感情的に巻き込まれにくくする取り組み
当社では、臨床心理学に長けた先生や大学の先生、カウンセラー経験の豊富な方をお招きし、カウンセラーがざっくばらんに相談させていただく場を設けています。
一人でケースを抱えていると、カウンセラーも視野が狭くなってきて、その方との関係に巻き込まれやすくなってしまいます。スーパーバイザーに相談することで、その方の状態や環境の変化、感情の変動について、視座の高いところから意見をもらうことができます。巻き込まれていた状況から一段上の場所に引き上げてもらい、俯瞰して眺められるような対応が可能となってきて、自分の状態の整理にもつながります。
②小グループの従弟制度
ベテランカウンセラーと若手カウンセラーで小グループを作り、緊急的に感情を吐露できる環境づくり
スーパーバイズの実施は効果的ですが、外部の先生をお招きしての実施であるため、いつでも気軽に実施できるものではありません。そのため、ベテランのカウンセラーと若手カウンセラーを3名ずつのグループに分け、適宜自分の中で押し殺してしまった感情を吐き出せるような環境をつくっています。
方法は様々ですが、当社ではビジネスチャットツールでグループを作り、いつでも吐き出せるようにしています。必ずしも何か言わなければいけないというものではなく、重要なのはいつでも吐き出せる環境が整っていることです。また、ベテランから、自分の失敗談や「こんなことがしんどかった」といった内容を発信してもらい、「自分だけじゃないんだ」「先輩でもそんなことがあるんだ」と若手に知ってもらうことで、自分の辛いことも吐き出しやすくなるでしょう。
「カウンセラーだから大変なのは当たり前」「自分が我慢するのはあたり前」と思っている方は多くいます。そうすると、知らない間に自分の中にネガティブな感情が積み重なってしまいます。日々の疲労はそれほど大きくなく、面倒くさがって「まあいいか」となることも多いでしょう。しかし、気づいた時にはそれが大きくなって自分で抱えられるものではなくなってしまっていることがあります。できる限り感情の吐露しやすい状態を作るように心がけることが大事でしょう。
2.一人職場の場合のおすすめ心理的ケア
上記2つの取り組みは、外部の協力や社内のチームなど、どうしても周囲の協力が必要です。しかし、産業保健の現場では専門職が一人しかいないといった状況も多いかと思います。
以前、当社相談センターを利用した保健師からこのような話を聞きました。
「いつもね、一人で対応しているでしょ。心理的なところは専門ではないけれど(私以外誰もいないので)自分が頑張らなきゃ…。『これでいいのかしら…』と心配に思いながらやっているんですよ」
きっとこのような想いや悩みを抱えながら日々対応している方は多いでしょう。やらなければならないというところはありつつ、自分の中の感情を出していかなければ知らないうちに蓄積されてしまいます。一人職場でも取り組める心理的ケアを2つご紹介しますので、ぜひ実践してみてください。
①ちょっとしたことを話せる相談先の確保
抑えた感情に蓋をせず、自分の外に出してあげることが重要です。自分のスーパーバイザーがいれば話してみましょう。相談先を確保するのが難しい場合は、紙に書くだけでも構いません。感情を自分の中から外に出すことが重要です。
②専門職としての「ねばならない」という思考に気づく
「アドバイスをしなければならない」「引っ張る立場でなければならない」という専門職としての「ねばならない」という思考が出てこない方はいないかと思います。しかし、これに気づき対処行動を行うことで、疲労を抑えることができるでしょう。
■「ねばならない」思考の例
・アドバイスをしなければならない
・引っ張る立場でなければならない
・失敗してはならない
・いつも元気でなければならない
・面談で気の利いたことやハッとするようなことを言わなければならない
・良い人でなければならない
・何か必ず答えなければならない
・短期間で成果を出さなければならない
・辛い相談を受けてもこちらがショックを受けて沈んではいけない
・自分のしたいことより優先しなければならない
自分の陥りやすい「ねばならない」の傾向をつかみ、「疲れたなぁ」という感覚を引き金に、「今日は『ねばならない』の発動はなかったかな?」とセルフチェックしてみましょう。その振り返りのタイミングを持つだけで、「今日こんなことがあったから疲れて当然だよな」と労われるようになるでしょう。
感情や疲労は知らないうちに蓄積されていきます。「疲れたな」と感じたら、今回ご紹介した心理的ケアをぜひ実践してみてください。
講師
カウンセラー 酒井真依子(臨床心理士/公認心理師)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
「人」ソリューション部 ゼネラルマネジャー 兼 事業開発部 ゼネラルマネジャー
臨床心理学という学問に展開される理論をベースとし、個人の生産性向上に向けたカウンセリングサービス提供に従事。メンタルヘルス不調だけでなく、個人のライフキャリア全体を見通すカウンセリングまた、管理職層へのメンタルヘルス事例についてのコンサルテーションなどの活動を精力的に行っている。