面談の基本~EAPカウンセラーが面談のポイントを伝授
メンタルヘルス不調者の対応に不安を抱えている産業保健スタッフは、少なくないのではないでしょうか。心理の専門家であるEAPカウンセラーがそのお悩みを解決すべく、面談対応の基本について解説します。今回は、EAPカウンセラーの視点から、面談のポイントや面談記録の書き方について、詳しくご紹介しております。
※本記事は、2024年1月26日に実施された勉強会の内容を元に、次の動画の一部を編集して作成しています。
▶ARMのカウンセラーが面談のポイントを伝授!
【目次】
1.EAPカウンセラーの立場と役割
2.面談の基本~傾聴の姿勢は必須
3.面談記録のポイント
4.対象者に何を聞く?
1.EAPカウンセラーの立場と役割
本日は面談の基本についてお話いたします。特にEAPカウンセラーとして、どのような視点で対応しているかについてお伝えいたします。
産業看護職の皆様とは、状況や立場が異なるかと思っておりますが、従業員の皆様への対応にお役立ていただけるようなエッセンスやヒントについてご紹介できればと思います。
最初に、弊社、アドバンテッジリスクマネジメントのEAPカウンセラーとしての立場と役割についてお伝えいたします。
弊社のカウンセリングは、短期問題解決型のカウンセリングです。基本は、1つのテーマで5回までとし、各面談1回50分で、解決が出来そうなことを取り扱っております。
認知行動療法的アプローチがベースとなっており、EAPとして長期的なカウンセリングや治療的なカウンセリングはしない、ということが前提です。職場の問題が相談の場合、外部のカウンセリング機関となるため、職場への直接的な介入はしないという立場です。
役割としては、企業契約を結んでいる企業・組織の従業員のメンタルケアとなりますので、従業員の精神的な不調や身体的な不調のケア、ストレスや不調感を軽減するための支援を行っています。このようなメンタルヘルス不調といったダウンサイドだけではなく、個人の問題を解決することで、仕事の生産性を向上するというアップサイドのご支援もしております。
2.面談の基本~傾聴の姿勢は必須
■傾聴の姿勢
面談の基本についてお伝えいたします。基本の基にはなりますが、やはり、傾聴の姿勢が必要です。傾聴には、言語、非言語のコミュニケーションがありますが「耳を傾けて聴いていますよ」という姿勢が大切です。大事なことは「あなたに興味があって、あなたの話を聞かせていただきます」という雰囲気であると考えています。
時には、ネガティブな発言や言いにくいこと、またリスクの高い内容があります。例えば「もう死にたい」と言われた時に「どうしよう…」と感じることがあるかと思います。ですが、対象者の方は、おそらく勇気を持って話していることと思います。こちらが不安になってしまうと「言わなければよかった…」と感じさせてしまうことになります。
「そう思っていらっしゃるのですね」「教えてくださってありがとうございます」という風に、慌てずに、教えていただいたことに感謝するような形でお話を伺います。そこから、徐々に話の内容を深掘りしていきます。
傾聴のポイントとしては「耳を傾ける姿勢」と、適切なタイミングで「教えていただいてありがとうございます」という気持ちを伝えることが出来る、ということが大切です。
■初回面談のポイント
次に、初回面談の際に対象者の方へ説明すべきポイントについてお伝えします。カウンセリングでは、枠組みの設定が大事になります。様々な相談者がいらっしゃいますが、私の立場は「ご相談者様の状況を理解して、一緒に考える立場です」ということをお伝えしています。
診断はしない、アドバイスはするが、指示はしない
病気の診断についてよく聞かれることもあります。そのような際は、一般的な見解をお伝えします。例えば「寝れない」「食べれない」「もう涙が止まりません」といった身体症状についてのお話があれば「症状が続いていますので、速やかに医療機関を受診してください」というようなお伝えをします。あくまでもカウンセラーですので、断言をするようなことや、診断に関わるようなことは、決して言わないようにしております。
「どうしたら治りますか」というようなご相談もあります。もちろんアドバイスはしますが「こうしたら治ります」と言い切るような、指示的なカウンセリングはいたしません。
その理由としては、会社でも「こうして欲しい」と言われ、でも出来ていない、医師にも相談し「こうした方がいいよ」と言われたけれど、出来ない、もう仕方がなくて、藁にもすがる気持ちでカウンセリングにいらっしゃる人も多いことが挙げられます。ですので、なるべくカウンセラーは指示的にならないように、どうしたらいいのかを一緒に考えるような姿勢を保っております。1人1人、カスタマイズしながらご相談を受けます。
守秘義務~例外の説明
初回面談では、必ず守秘義務の説明をしております。「お話いただくことは、決して外部に行かない」ので安心いただきたい点と、「もし命に危険があるような場合は、例外になります」という点をお伝えしてます。
ゴールの設定~問題解決を目指す
ゴール設定についても、予めお話し「ここでは問題解決を目指すんだ」という意識を持っていただいております。
3.面談記録のポイント
次に、面接記録を記載する際のポイントについてお伝えします。
■面談記録の5つのポイント
- S(subjective data):Cl.の会話内容などの主観的な情報
- O(objective data):Cl.の精神症状や行動などの客観的な情報
- A(assessment):生じている問題に対するCo.の分析、見立て、評価
- I(intervention):Co.の介入
- P(plan):Cl.に対するカウンセリング計画
※ CI::クライアント、Co:カウンセラー
皆様も、面談に伴い記録を書いていらっしゃるかと思いますが、カウンセラーは、上記のような形式で記載をしております。
従業員の方が、カウンセリングを受けていただき、ご自分のことを話しに来た、まずそのことだけで、やはり勇気がいる行動だと思っております。そのため「来ていただいてありがとうございます」の姿勢をこちらでも大事にしております。
初回面談は、問題の整理することが多く、大体2回目、3回目あたりで相談者の癖や傾向、パターンが見えてくることが多いです。出来ないことにばかりに焦点を当てられる方が多いため、カウンセラーとして、出来ているところを積極的にお伝えし、褒めるようにしています。
ご本人の持つ能力を尊重し「こんなことが出来ているのですね」「これが出来るのだったらこちらも出来るのではないですか」という形で、個人のやる気を引き出し、期待を込めるようにしております。また、カウンセラーは心理の専門家ですが、専門外のご相談いただくこともあります。そのような際は、適切な専門家に紹介をするようにしています。
4.対象者に何を聞く?
次に、面談の際に、対象者の方に聞く内容についてお伝えします。主訴や、どうしてカウンセリングに来てくださったか、というところについて聞いていきます。
まずは、主訴についてです。いつから、その頻度やその深さについての周辺情報を聞いていきます。
また、過去情報として、そのことが起こる以前は、どのような生活を送っていたのか聞くようにしています。そして、同じような困ったことが以前起きたことがあるのか、その場合に、どのように乗り換えてきたのか対処方法(コーピングスキル)についても聞くようにしています。
次回の記事では、例を挙げながらメンタル不調に関するカウンセリングについて解説いたします。
▶記事を読む メンタルヘルス不調者へのカウンセリング~情報共有やリスクアセスメントのポイントについて解説
講師
中野 亜結(公認心理師/臨床心理士/産業カウンセラー)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント所属
EAPの経験年数は14年。これまでに1200名を超える従業員のカウンセリングを実施。
小学校のスクールカウンセラーやパニック障害専門機関のカウンセラーとしても従事。