メンタルヘルス不調者へのカウンセリング~情報共有やリスクアセスメントのポイントについて解説
メンタルヘルス不調者の対応をする中で、ネガティブな発言をされた時、その対応に戸惑ってしまう場面はありませんか?相手の立場に立った対応が重要であると理解はしているものの、どのような対応をすることが良いのか、皆さま、判断に迷う経験をされているのではないでしょうか。
今回は、メンタルヘルス不調者へのカウンセリングについて実際の相談例から、情報共有や自殺・他害のリスクアセスメントについて、心理の専門家であるEAPカウンセラーが詳しくご紹介します。
※本記事は、2024年1月26日に実施された勉強会の内容を元に、次の動画の一部を編集して作成しています。
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【目次】
1.具体的な相談例~気分が落ち込んでやる気が出ない
2.周囲との情報共有で気を付けるポイント
3.自殺・他害のリスクアセスメント
1.具体的な相談例~気分が落ち込んでやる気が出ない
メンタルヘルス不調に関するカウンセリングの場合「気分が落ち込んでやる気が出ない」といったご相談をいただくことがあります。その際の対応のポイントは、やはり興味を持って具体的に聞いていくことが重要だと思っています。
■相談者にとっての意味を想像し、理解する
困っていることを感じ取らなければならない、というようなプレッシャーを感じたり、聞き返すことが難しい時もあるかと思います。例えば、がっかりされたくない、という思いがあり、躊躇うこともあるのではないでしょうか。しかし、よくわからないまま話を聞いていると、やはり理解ができないと感じています。そのため「これを聞くことは、相談者の理解のために必要」と思いながらお話を伺います。
深掘りをしながら、様々な角度から、話を聞くことで、カウンセラーはこういう人だ、カウンセリングというのはこういうものなんだ、という風に、相談者が学習してくださいます。
相談者への「教えてくれてありがとうございます」というやり取りを自然に行っていくことで、関係が強化され、相談者の方からどんどん話してくれるようになります。
初回面接では、色々な情報をいただくので、ジグソーパズルのピースを一緒に集めているような感覚に似ていると思っております。ピースが集まってきて、段々その人が見ている景色が見えてくる感覚があります。対象者の方へ「おっしゃっていることはこんな感じなんですかね」とお伝えし、自分が見えている景色と、ご本人が見えているものと、答え合わせをしています。
■相談者の視点に立つ
「どうしたら良くなりますか?」「どうしたらいいんでしょう」という質問をよく受けることがあります。その際に、私がよくお伝えするのは、自分のことはご自分が1番よく分かると思うので「あなたはどんなことしたら今より少し良くなりそうですか」「どんな風な考え方を持てればこの状況を乗り切れそうな気持ちになりますか」というように、相談者の視点でどんな考えがあるのかということを聞いていきます。
2.周囲との情報共有で気を付けるポイント
弊社(株式会社アドバンテッジリスクマネジメント)では、自主利用といわれる、ご自身で予約するカウンセリングと、もう1つ、情報開示を伴うカウンセリングがあります。後者に関しては、私共は、ハラスメントの行為者向けの行動変容プログラムや休職者向けの再発防止のカウンセリングの2種類がございます。これまでお伝えしてきたカウンセリングは、自主利用のカウンセリングの話をしておりました。
では、どのようにして、情報共有をしていくのか、いくつかポイントをお話しします。
■自主利用の場合
基本的に社内で、私たちがカウンセラー同士で、情報共有をしたり、外部に情報が行くことはありません。ただし、命の危険があるような高リスクの場合は、下記のような対応を取ります。
- カウンセラー間でのフォロー体制を整える必要があり、認識を揃え、誰が対応をしても、同じ対応が出来るようにする
- 本人経由で、主治医相談するように繋ぐ
- 企業・組織に対しても守秘義務を解除して、大変危険な状況であるということを共有する
- 家族に支援をいただけそうな方がいらっしゃる場合は、見守りや受診の付き添いをお願いする
■情報開示を伴うカウンセリング
本人の同意がすでに取れている、情報開示を伴うタイプのカウンセリングの場合は、面談内容について、企業・組織の担当者の方へ、速やかに連絡します。
■訪問先でのカウンセリング
弊社では、訪問スタイルのカウンセリングも提供しております。こちらの場合は、集団守秘義務をベースとして、ご相談の全体像や課題感を人事担当者や産業保健スタッフへ共有します。
3.自殺・他害のリスクアセスメント
最後に、カウンセリングの対象者の発言で、気をつけた方が良いことについてお伝えします。
■自殺リスクのアセスメント
やはり、希死念慮や自殺念慮の発言は非常にリスクが高いと思っています。例えば、「もうずっと死ぬこと考えています」「自殺のためにこんなものを用意しています」という発言です。
ここで、「え、どうしよう…」となるのではなくて、しっかり状況の確認をしています。
- どんな方法を考えているのか
- 今どこにいるのか
- ここ最近、1か月間にどのくらいそのことを考えていたのか
- 過去にも自殺を試みたことがあるのか
安全確保から今後の対応まで考え、確認をしながらヒアリングをします。高リスクの場合は、守秘義務を解除して、介入させていただきます。
■他害リスクのアセスメント
他害の場合、情報開示をすることが、本人にとってメリットがないことがあります。例えば、「誰でもいいから殺したい」という発言を、企業に伝える場合です。本人のデメリットが大きいと言えるので、ここは慎重に判断しております。
ただし、本人や周囲が危険な場合、例えば、「職場の〇〇さんを殺します」「具体的な方法を思いついている」そのような場合は、危険度が非常に高いと思われますので、本人の同意を取り付けて、開示をするようにしています。
また、本人には、開示することのメリットをお伝えしています。例えば、「〇〇さんが嫌で、その人を見たらすぐ攻撃してしまいそうです。」というような状況です。この場合は、会社へ状況をお伝えし、危険であることをお伝えした上で、会社の方で職場調整していただくよう、私の方からもお願いしてみる、という形で、本人に同意をいただくことがあります。このように、双方のリスクを減らすような提案をします。
他者を傷つけるような行為は、メンタル不調が原因の場合がとても多く、医療機関に繋げることが非常に大事だと思っております。カウンセラー同士で共有しながら、フォローアップしていく形をとっています。
講師
中野 亜結(公認心理師/臨床心理士/産業カウンセラー)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント所属
EAPの経験年数は14年。これまでに1200名を超える従業員のカウンセリングを実施。
小学校のスクールカウンセラーやパニック障害専門機関のカウンセラーとしても従事。