発達障害を抱える人を職場でサポートするために必要なこととは~活用できる社会資源も紹介~
発達障害を抱える人は、その症状や特性は人それぞれ異なります。
大人になるまで特性に気づかなかった人も、仕事をするようになると自分のペースで行動しにくくなり、仕事そのものや職場での人間関係につまずいて悩み、初めて特性に気づくケースも多くあります。
また、その特性によるつまずきをきっかけに適応障害などを引き起こし、二次障害となる場合も少なくありません。
本記事では、発達障害について最低限知っておきたい知識や、発達障害を抱える人が働きやすい職場となるための、本人や組織に対する働きかけについて、ポイントを解説します。
目次
1.発達障害とは
2.発達障害を抱える人が職場で直面する課題とサポート方法
3.発達障害を抱える人の就労において活用できる社会資源
4.まとめ
1. 発達障害とは
発達障害は、脳機能の発達が関係する障害です。
発達障害には、知的障害、自閉スペクトラム症などの広範性発達障害、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)、協調性運動症、チック症、吃音などが含まれます。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、他の発達障害や精神疾患を併せもつこともあります。
広範性発達障害
コミュニケーション能力や社会性に困難を抱えている発達障害の総称です。自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群のほか、トゥレット症候群などがあります。
自閉症スペクトラム
言葉の発達の遅れ、コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、パターン化した行動やこだわりなどの特徴を持つ障害です。
アスペルガー症候群(ASD)
広い意味での自閉症に含まれる1つのタイプで、コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、パターン化した行動、興味・関心の偏りがあります。自閉症のように、幼児期に言葉の発達の遅れがないため、大人になってから職場にうまく適応できず障害がわかるケースも多くあります。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
集中できない、じっとしていられない、考えるよりも先に動くなどを特徴とする発達障害です。アスペルガー症候群と同様に、幼児期に言葉の発達の遅れや知的な遅れがないため、大人になってから職場にうまく適応できず障害がわかるケースもあります。
学習障害(LD)
全般的な知的発達に遅れはないのに、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の学習のみに著しい困難を示す様々な状態があります。
をいいます。
トゥレット症候群
多種類の運動チック(突然に起こる素早い運動の繰り返し)と、一つ以上の音声チックが1年以上続く重症なチック障害です。
吃音
吃音とは、一般的に「どもる」と言われる話し方の障害です。幼児・児童期に症状が出現するタイプがほとんどですが、青年・成人期まで持続する場合もあります。
また、青年期から目立つ人や電話で話せないなどで悩む方もいます。
2. 発達障害を抱える人が職場で直面する課題とサポート方法
合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮のことです。
2024年4月、障害者差別解消法の改正に伴い、事業者に対して合理的配慮の提供が義務化されました。
職場における合理的配慮は、雇用契約における職務においてパフォーマンスを発揮するために必要かつ合理的な配慮といえます。
合理的配慮を実施する際のポイント
本人の特性についてまずは情報を収集します。
本人が特性を理解している場合は本人から、本人の理解が乏しいなど必要時は、主治医や支援機関、家族などと連携して確認するようにしましょう。
その際に確認した情報は、書面に残すようにしましょう。
社外の人と連絡を取る場合は、必ず本人に同意を得たうえで、人事担当者とも連携するようにしましょう。
特性を確認したうえで必要な配慮事項を、人事担当者、上司などの職場の担当者、産業保健スタッフなどの関係者で調整します。苦手なことだけでなく得意なことについても情報収集し、本人の特性が活かせる工夫をするようにしましょう。
これらを調整する際には、関係者間で建設的な対話を重ねることが非常に重要です。
合理的配慮の具体例
具体的な困りごとや特性による行動と、それに対する合理的配慮の例をご紹介します。
(困りごと)
曖昧な指示に対応できない
(合理的配慮の例)
・指示は具体的、肯定的に伝える
・視覚的に伝えると伝わることがあるため、書面にしたり、図にしたりしてマニュアルを作成する
(困りごと)
マルチタスクに対応できない
(合理的配慮の例)
・仕事の指示を出す人を限定する
・1つの作業が終わったら声をかけるようにする
(困りごと)
感覚過敏がある
※感覚過敏とは、聴覚、触覚、視覚、嗅覚などの感覚が過敏になる症状のこと
(合理的配慮の例)
イヤーマフを活用する、人とぶつからないように居場所をつい立てなどで区切る
(困りごと)
忘れ物をしたり、スケジュールを忘れたりする
(合理的配慮の例)
リマインド機能を活用する
(困りごと)
集中できない
(合理的配慮の例)
・机のうえを整理整頓したり、他の気が散らないような環境を工夫する
・時間を区切って仕事ができるよう調整する
(困りごと)
職場のルールやマナーなどが守れていない
(合理的配慮の例)
・威圧的にならないようにしながら声をかける
・ルールなどを説明したうえで、望ましい対応について具体的な提案をする
・仕事の指示を出す人から、具体的な提案をしてもらう
(困りごと)
・体の動かし方の不器用さや、チック症状、吃音などの症状がある
(合理的配慮の例)
・動きを笑ったりしない
・日常的な動作として受け入れ、見守る
・時間をかけて待つ
(特性による行動)
休憩時間などにいつも一人でいる
(合理的配慮の例)
・もしよかったら、という前提で輪に加わることについて声をかけたうえで、本人の主体性を尊重する
・可能な限り、本人の希望に沿って声をかけたり、かけないようにしたりする
発達障害を抱えている人は、その特性から困難さを抱えるゆえに、できていないことなどについての傷つき体験をしていることも多くあります。
ストレスケアとして、定期的に産業保健スタッフと面談するなど相談できる環境を作ったり、セルフケア方法を伝えるなども必要です。
3. 発達障害を抱える人の就労において活用できる社会資源
障害者トライアル雇用事業
障害者を原則3か月間試行雇用することで適性や能力を見極め、継続雇用のきっかけとすることを目的とした制度です。
事業者にとっては、労働者の適性を確認したうえで継続雇用へ移行することができ、障害者雇用への不安を解消することができますし、労働者にとっても、自分にあった仕事内容か、働き続けやすい職場か、見極めることができます。
この期間中に、産業保健スタッフも交えて特性についての情報収集や配慮事項を検討することで、事業者と労働者双方にとって働きやすい環境を整えられるか考えることができます。
精神・発達障害者雇用サポーター
ハローワークに「精神・発達障害者雇用サポーター」を配置し、精神障害や発達障害等のある求職者に、専門的な就職支援や職場定着支援を実施しています。
事業者に対しても、精神・発達障者等の雇用に係る課題解決のための相談支援も行っています。
ジョブコーチ支援
障害者が職場に適応できるようにするために、職場にジョブコーチを派遣する制度です。配置型、訪問型、企業在籍型、などがあります。
ジョブコーチが行う障害者に対する支援は、事業所の上司や同僚による支援にスムーズに移行していくことを目指しており、労働者本人だけでなく、事業所に対するサポートや相談にも対応しています。
地域障害者職業センター
障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業者に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助を実施しています。
休職者に対するリワーク支援や、ジョブコーチ派遣なども実施しており、労働者本人だけでなく、事業所に対するサポートや相談にも対応しています。
障害者就業・生活支援センター
障害者の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行います。関係機関との連携、職場適応支援や、環境改善等についての助言などを実施しています。
4. まとめ
発達障害を抱える人の特性はひとりひとり違っています。その特性に寄り添うことと同時に、周囲にいる人にとっても働きやすい環境や配慮を実施することが必要です。
産業保健スタッフは、対象となる労働者の特性を理解し、職場で起こる可能性のあることや、対処方法などについて共に考えることで、労働者本人はもちろん、周囲の人からの相談にも応じて調整役となることが求められます。
発達障害を抱える人が働きやすいよう配慮された職場は、障害の有無に関係なく誰もが働きやすい職場環境につながります。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考文献
厚生労働省|発達障害者の就労支援
政府広報オンライン| 発達障害って、なんだろう?