産業医は衛生委員会への出席義務あり?産業保健スタッフが衛生委員会に出席するメリットと効果的な活用方法
衛生委員会は、一定の条件をもとに労働安全衛生法によって設置が義務付けられています。そのため、毎月、単なるルーティンとして実施しており、本来の目的である健康障害の防止や健康の保持増進などにつながっているのか、効果を感じにくいという事業場も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、産業保健活動を推進するために、毎月必ず実施しなければいけない『衛生委員会』に産業保健スタッフが参加するメリットと、有効活用するための方法をご紹介します。
目次
1.衛生委員会とは
2.産業保健スタッフが衛生委員会に出席するメリット
3.産業保健スタッフから衛生委員会で報告すべきこと
4.衛生委員会は従業員の意見を取り入れる絶好の機会
5.まとめ
1. 衛生委員会とは
衛生委員会は、労働災害の防止のための取り組みについて、労使が一体となり審議する場です。
ここでいう労使とは、『一般従業員(労働者)』と『人事権をもつ管理職以上(使用者)』です。
衛生委員会の審議内容には、単純に『労働災害』を予防するためだけではなく、心身の健康の保持増進や衛生教育等も含まれています。
よく耳にする衛生委員会におけるお悩みのひとつとして、『何かを審議する場ではなく、単なる報告会になっている』という事が挙げられます。
労働災害防止の取り組みや健康の保持増進に取り組む主体は、労使ともにあるべきです。
衛生委員会は、労使が対等に意見を言い合い、さまざまな立場から議論できる場である、ということを、出席者全員が意識することは、衛生委員会の活性化につながります。
2. 産業保健スタッフが衛生委員会に出席するメリット
法令によって、衛生管理者と産業医は衛生委員会の構成員にならなければなりません。ただ、委員会への出席義務までは法令には記載されていないため、産業医については、議事の概要を報告して意見をもらう事で出席の代用とする運用が行われているケースもあります。
保健師等の産業看護職についても、法令上は衛生委員会への関与は明記されていませんが、衛生委員会の目的、産業看護職の役割を考えると、出席することが好ましいと言えます。
① 課題の共有
衛生委員会は、産業医や産業看護職などが感じている課題や意見を事業場や従業員に伝えるチャンスですし、また、事業場側の意見、従業員を代表する立場からの意見をきけるチャンスです。
② 活動内容の共有や周知
産業保健活動を知ってもらい、関心を持ってもらうこと、さらに意見をもらうことで、事業場や従業員のニーズに応じた産業保健活動を実施することにつながります。衛生委員会において、産業医や産業保健スタッフが専門的な立場からの積極的な意見や提案をすることはとても大切なことです。
しかし、産業医や産業保健スタッフはあくまでも意見や提案を行う立場であり、提議や最終決定をするのは事業場であるということは念頭に置いておく必要があります。
そのためには、単なる報告だけでなく、出席者に分かりやすく説明することや質問できるように配慮するといった工夫をすることが大切です。
3. 産業保健スタッフから衛生委員会で報告すべきこと
①定期的な活動報告
産業保健スタッフの活動内容を定期的に報告することで、産業保健スタッフの役割を知ってもらうことにつながります。また、それらの件数の推移も伝えることで、メンタル不調者が増加傾向であるなど、職場の現状を伝えることができます。
さらに、その目的や重要性を伝えることで、面談の勧奨や日程調整等、事業場側の理解を得ることにもつながります。
(例)
・産業医面談件数(長時間労働、ストレスチェック、定期健康診断、海外赴任、その他)
・保健指導件数
・相談件数や相談内容の傾向
・休職者や復職者の対応件数
・実施した研修や活動の報告 等
②時期のもの
健康診断やストレスチェックなど、年1回実施することが定められている内容についてその目的や結果をフィードバックすることは、事業場のおける課題を伝え、健康施策を立案するために必要です。
目的を理解してもらうことで、受診率を上昇させるための協力を仰ぐなど、効果的な実施につながります。
さらに、その後の健康施策の立案、その年度の施策の振り返りを共に審議することで事業場側にも従業員側にも、当事者意識をもって取り組んでもらうことにつながります。
(例)
・健康診断の分析結果、全体の総評
・再検査や精密検査の受診率
・未受診者の対応方法
・健診後保健指導の実施率、受診率等
・ストレスチェック結果、全体の総評 等
4. 衛生委員会は従業員の意見を取り入れる絶好の機会
産業保健活動の報告だけで終わらないために、事例検討や事例紹介等も効果的です。
例えば、復職者への対応での成功事例や、困難であった事例を検討・共有することで、現場への教育の機会にもなります。
また、従業員と一緒に事例検討することで、産業保健スタッフや事業場が気づけない問題点や課題に気づくこともあるでしょう。ただし、社員の個人情報の取り扱いには留意し、社員本人の同意を得るか、個人が特定されないよう情報を加工して取り扱うようにしましょう。
さらに、各種マニュアル(復職支援プログラムや両立支援等)の作成や見直しについても衛生委員会の機会を利用して審議決定のうえ作成することで、従業員の意見を取り入れた産業保健活動の実施につなげることができます。
5. まとめ
衛生委員会は、事業場側、従業員側が対等に『健康で働きやすい職場づくり』について審議することができる場です。
その中では、それぞれの役割を認識・確認しながら、同じ目標に向かって活動を進めていくという意識づくりが重要です。
専門職である産業保健スタッフは、そのコーディネーター的な役割も重要となります。
課題を共有し、さらに専門的な知識や意見も伝えたうえで、連携して活動に取り組むために、衛生委員会を効果的に活用しましょう!
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■作成:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医