復職支援において生活記録表をうまく『活用』するためのポイント
本記事では、復職支援において、生活記録表を取り入れる際や活用する場面での注意点、復職後の再発を防ぐための業務調整の方法とあわせてご説明いたします。
※本記事は2022年10月20日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶②生活記録表を活用するためのポイント【職場復帰支援勉強会】
【目次】
1.生活記録表を用いた判定基準の統一
2.生活記録表を活用する場面での注意点
3.生活記録表を取り入れる際の注意点
4.復職プランの作成
1.生活記録表を用いた判定基準の統一
休職している従業員の復職が円滑に進むためには、関係者が共通の認識をもち、足並みを揃えることが必要です。担当者によって判断が異なると、生活記録表を取り入れてもうまく活用することができません。
そのため、復職可否の判断に生活記録表を事業場として取り入れる際には、あらかじめ判定基準を決めておくことが重要です。さらに、その判定基準を全てのケースで適用することが大切です。
(基準の具体例)
・平日は出勤に間に合う時間に起床できる
・平日の9時から15時までは外出できる
・就業を模した生活が2週間以上継続できる
事業場として決定した基準は、産業医に共有し、復職可否の判断の際には、その基準で判断してもらうよう依頼しておくことが必要です。
2.生活記録表を活用する場面での注意点
①生活記録表を付け始めるタイミング
休職中の従業員(本人)が生活記録表を付け始める時期は、主治医が「そろそろ復職にむけて練習をはじめましょう」と指導したタイミングがよいでしょう。
前回の記事で、復職の判断には回復の状況を把握することが大切であるとお伝えしました。
回復の状況や主治医からの意見を確認するために、定期的に連絡をとったり面談を実施するようにしましょう。これらの機会で、主治医からの意見を確認するようにすると、生活記録表を付け始めるタイミングを見極めることができます。
症状が回復していない段階で生活記録表をつけてしまうと、書くという行為が負担になってしまったり、思ったよりも自分の状況が悪いことを実感してショックを受ける、といったリスクがあります。
これらのリスクを避けるために、「会社から生活記録表をつけるように言われたけど大丈夫か」といったことについて、本人から主治医に確認してもらい、主治医から許可をもらうようにするとさらに安心です。
②復職の基準についての説明
生活記録表を使用するタイミングで、本人にも復職の基準を説明しておくことが大切です。
どうなったら復職できるかわからない、ということは生活記録表をつけている本人にとっても不安要素となります。
また、この基準を上司にも共有しておくとよいでしょう。
産業医や看護職、人事担当者はもちろんですが、本人や上司が復職の基準を共有しておくことで、復職時はもちろん、復職後も足並みが揃いやすくなります。
3.生活記録表を取り入れる際の注意点
生活記録表を復職の判断を取り入れようとすると、主治医から復職可の診断書が出ているにも関わらず、事業場として復職不可と判断することに対する不安の声が関係者から出てくることがあります。
復職の可否については、事業場が最終判断を実施するということは大前提です。とはいえ、その不安が拭えないというのは多くの事業場の現状だと思います。
そのようなときには、主治医は医学的な観点から復職の可否をおおまかに判断をする、復職のタイミングは、生活記録表を活用して具体的に決めていくといったように説明するのはいかがでしょうか。
生活記録表を活用した復職判定について、主治医の復職判定を覆すもの、十分に回復していない人を復職させないようにするためのものといった印象を持たせてしまうと、復職が円滑に進まない可能性があります。
『生活記録表は復職に向かって一緒に取り組んでいくためのツールである』という共通認識はを持つことができると、生活記録表をうまく活用することにつながります。
4.復職プランの作成
復職を円滑にすすめるためには、復職可否の判断と同時期に、復職後のプラン(復職支援プラン/復職プラン)を作成しておくことが必要です。
職場復帰はゴールではありません。復職したばかりの時期は、体力や集中力、業務遂行能力は十分に回復しておらず業務負担の軽減が必要です。復職した後にそれらは徐々に回復していきます。回復のペースにあわせた業務の調整は、再発を防ぐために事業場として必要な措置となります。
実際に、復職して1~2週間は出社して帰宅するということ続けるだけで疲れるという方が大半です。復職後の回復は、下記のように経過することがほとんどです。
回復の状況を超えた業務負荷がかかると、疲労が蓄積してしまいます。疲労の蓄積は、メンタルヘルス不調の症状が再燃するきっかけとなりますので、本人の回復の状況にあわせた業務負荷にすることが大切です。
休職以前の業務負荷に戻すまでは、だいたい半年間くらいといわれています。
この期間の業務負荷の調整を検討するためのものが、復職プランや復職支援プランと呼ばれるもので、書面で作成することが重要です。書面で作成することにより、本人や上司と共有することが可能になります。
業務の負荷について先の見通しが立つことは、本人の焦りの軽減や安心にもつながりますし、上司や職場も調整しやすくなります。
期間とその適応する就業制限内容(残業なしなど)とあわせて、上司にも確認して業務内容等も記載し、それを復職前に準備しておくとよいでしょう。
このような書類を作成することで、上司と意見交換をすることができますし、本人への説明を実施しやすくなります。関係者間で共通の認識を持つことができます。
また、必要に修正が可能であり、修正内容の情報共有もしやすくなります。
事業場側としても、これらの書類を作成し続けていると、次に同職種の人が復職する際に参考にすることができます。つまり、事業場内のノウハウとして蓄積することができます。
次回は、復職時の業務調整や環境調整の方法、復職後のフォローアップについてご説明します。
ぜひご覧ください。
▶復職時の業務調整のポイントと復職後のフォローアップ
講師
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』