ポジティブ心理学とは~概念や発展の歴史。SOCを高めるとは
皆さんはポジティブ心理学という言葉をご存知ですか?
ポジティブ心理学の概念やどのような発展を遂げてきたかについて知り、心理学的な視点から理解を深めていきましょう。
本記事では、ポジティブ心理学の歴史について学ぶことができます。
※本記事は2023年2月22日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶①ポジティブ心理学の歴史を学ぶ【ポジティブ心理学勉強会】
【目次】
1.ポジティブ心理学とは~背景や経緯について
2.ポジティブ心理学以前の研究~SOCを高める
1.ポジティブ心理学とは~背景や経緯について
今回のテーマは、産業保健組織に関する心理的支援に対するポジティブアプローチということで、ポジティブ心理学の概念やどのように発展して今日に至っているのかについてお話していきます。
日頃の現場の中で、心理社会的な支援をポジティブ心理学から学んでいただければと思います。
ポジティブ心理学は2000年に入ってペンシルベニア大学のセリグマン教授たちを中心に発展してきた心理学のニューウェーブ運動と捉えられていたものが、今はすっかり学問としての地位を確立しております。
人間の病理を見つけ出し、それを直そうとすることのみに、これまでの心理学は力を注いできました。そのことを反省し、ネガティブよりポジティブな側面、例えば期待や楽観性、寛容性、そういうものに目を向けてウェルビーイングを最大限発揮することを目指します。
ウェルビーイングという概念も、分かったようで、なかなか統一した概念や定義がないので、分かりづらいですが、実は、このポジティブ心理学がここまで発展する前に、すでに似たような考え方を、社会心理学者のアントノフスキーが提唱していました。
2.ポジティブ心理学以前の研究~SOCを高める
アントノフスキーは、健康生成的アプローチと言って、同じリスクに曝されながらも健康を維持、増進させる要因で、逆境に出会った時に、同じような状況にあっても、健康であり続けることができる人がいるのはどうしてか、そこに着目しました。
Sense of Coherence(SOC)という、あまりなじみがない言葉ですが、自己一貫性、首尾一貫性の感覚という概念です。
理解がその状況にできる(理解可能感)、あるいは対応が可能である(対応可能感)、有意味感というものをその状況に見いだすことができる、そういう人に、ストレス対象能力があるということでポジティブ心理学と同じような考え方がすでに出ていました。
初めてこの概念をアントノフスキーがどんな風にして見つけたのでしょうか。
アントノフスキーは、イスラエルの女性たちで、第二次世界大戦中に、強制収容所体験した大勢の人が過酷な状況に長期間さらされて、非常に健康状態が悪いということがわかっていました。
強制収容所経験があり、健康状態が非常に悪かった人が71%ということで、強制収容経験が、健康損ねたのだろうとこれまで考えていました。
ですが、アントノフスキーは逆に、そういった過酷な状況でも、健康であり続けることできた約30%の女性たちがどうしてかということに着目をしました。そこから、SOCと言われる概念を見つけたわけです。
私たちは、色々な育児不安、ストレスを抱えてる女性たちを元気にしようということでSOCに焦点を当て、いろんなワークをしてもらいました。
参加したお母さんたちに、展望地図、自分の過去・現在・未来について、いろんな切り貼りして表してもらうというワークをしました。
コラージュを作成してもらった時に、SOCの高いお母さんと、そうでないお母さん、つまりストレス対象能力があると思われるお母さんのコラージュに非常に違いが出ました。
左の方はすごく一見、華やかそうには見えますが、バラエティに乏し、そして自分というものがこの中に現れていません。そういうお母さんは、非常に子育て不安も高く、SOCが低かったのです。
逆に、この右側の自分が貼られている、あるいは家族の写真があるというのは高い自己一貫性の感覚、つまり、何が起ころうと私は私であり続けることができるという力を持った人ということでSOCを確認できました。
このような研究がポジティブ心理学の以前に行われていたということです。
次の記事では、ポジティブ心理学の定義についてご紹介します。
是非ご覧ください。
▶記事を読む ポジティブ心理学の定義とは~科学的にウェルビーイングを高める
講師
津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)
【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。
2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)