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ポジティブ心理学の定義とは~科学的にウェルビーイングを高める

ポジティブ心理学はどのように広がってきたのでしょうか。働く人の人生を充実した楽しいものにするために、ポジティブ心理学を活用することができます。
本記事では、ポジティブ心理学の定義について、その歴史的経緯から理解を深めていきましょう。

※本記事は2023年2月22日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
②ポジティブ心理学の定義について【ポジティブ心理学勉強会】



【目次】
1.ポジティブ心理学の定義~歴史的経緯
2.学習性無力感からポジティブ心理学へ



1.ポジティブ心理学の定義~歴史的経緯

ポジティブ心理学の定義についてみていきましょう。
心理学の論文のデータベースであるPsycINFOに、2003年に初めてその定義が載せられました。

「精神病理や障害に焦点を絞るのではなく、楽観主義やポジティブな人間の機能を強調する心理学の取り組み(PsycINFO, 2003)​」

歴史的には、マーティン・セリグマン(Martin E.P. Seligman)が、アメリカ心理学会の会長就任挨拶を行った際に、これから心理学が目指すところは、人間の優れた機能を形成することに力を注ごう、ということで初めて講演をしました。
心理学が忘れてきた使命、というサブタイトルが付いた講演で、これを機に一気にポジティブ心理学が広がっていきました。

ポジティブ心理学の歴史的経緯

それと同時にセリグマンとチクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)が、これからポジティブ心理学をどう発展させていくか、これからのポジティブ心理学の概要を2人が編集し、アメリカの心理学会にて論文に掲載しました。

日本では、島井哲志先生が、2006年に「ポジティブ心理学:21世紀の可能性」といういう本を出しております。その後の発展については、色々本で書かれておりますが、堀毛一也先生たちが翻訳された「ポジティブ心理学研究の転換点:ポジティブ心理学のこれまでとこれから」に詳しく書かれてあります。

2.学習性無力感からポジティブ心理学へ

ポジティブ心理学の前に、セリグマンがどういう人かについて説明していきます。
学習性無力感という今現在も心理学の中でもいろいろな領域で使われている概念があります。なぜセリグマンは、この「学習性無力感」の研究から「ポジティブ心理学」の研究に移ったのか、ということを話していきます。私もこの概念を日本に紹介した一人として、セリグマンを追跡してきました。

彼は、オーバーマイヤー(Overmier, JB)という研究者と一緒に次の実験をしました。
「嫌悪刺激に対するコントロール不可能性の経験が、後の適応的学習を阻害する」という非常に基礎的な動物実験で、学習理論心理学の教科書に載っている逃避回避学習です。

イヌの逃避-回避学習における反応潜時測定

①明かりが消えると、ハードルで区切られた左側に置かれた犬に10秒後に電気ショックが与えられる
②犬はうろうろして、やがてはハードルを超えて電撃から逃れるという逃避反応を学習する
③何回か繰り返していてるうちに、明かりが消えたら電流が来るという不安が動因となる
④電気ショックを受ける前にハードルを超える

これが回避反応で、適応的な反応として、嫌なところから逃れるという学習を、通常は学習するわけです。

彼らは、この学習の前に、ハンモックに犬を吊るして、足に電流を与えました。
明かりが消えた後に電流という恐怖条件付けを先に学習しておけば逃避回避学習が早く起こるだろうという意図で実験をしました。

結果は、通常の電気刺激があった犬は、すぐに学習をして嫌な体験からのが得ることが出来たのですが、先行電撃があった犬は、ずっとうずくまってしまい、学習性無力感(learned helplessness)の三大兆候と呼ばれている「動機づけの障害・負の認知セット・情動障害」、無力感を呈し、全く仮説と違う結果になってしまいました。

すぐにこの反応は電気刺激を前日に受けたから動かなくなった、つまり、電撃そのものの影響ではないか、という批判が起こりました。

ハンモックに吊られたイヌに逃避不可能 vs.コントロール可能電撃を提示する実験情景

ですが、彼らはそうではなくて同じように電流を与えても、コントロール可能な電撃を与えた犬だとそうならないということを示しました。
そのことによって、電撃それ自体の影響ではなく同じ電撃を受けても、コントロールができるという学習をすることによってより適応的な学習が促進したということ示しました。

これらの研究から、結局何をやってもダメな心理(学習性無力感)ではなく、電撃をコントロールしたというストレス対処・経験、つまり自己効力感という概念を対比させて、無力感と逆の学習性楽観主義(Learnged Optimism)が学習できるということを、研究しようということになったわけです。

典型的な学習性無力感実験の結果

それが、病理モデルから幸福モデルという、学習性無力感からなぜポジティブ心理学に彼が移ったかということのきっかけです。

働く人の人生を実りある充実した楽しいものにするために、科学的にウェルビーイングを高める心理学としてのポジティブ心理学があります。つまり、心のポジティブな面に着目する視点が重要です。
ただ単に幸せになるということではなく、幸せをデータに基づいた実証科学として、ポジティブ心理学をしていこうと、世界の心理学者がセリグマンの心理学研究に追従していきました。

次の記事では、ウェルビーイングについてご紹介します。
是非ご覧ください。
▶記事を読む ポジティブ心理学の中核となる概念~ウェルビーイングとは


講師


津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)

【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。
2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)




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