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年間計画の立て方。PDCAサイクルを確実に回すとは?計画立案から評価まで解説

年間計画の立て方とPDCA!

産業保健活動を効果的に進めていく上で、年間の活動計画を立てることはとても重要です。
年間計画は「◯月にこれをする」という1年間の予定や進捗を管理するためだけのものではなく、事業所ごとの健康課題に応じた取り組みを毎年少しずつレベルアップさせていくための有効なツールです。
産業保健専門職が年間計画の作成に関わり、目標設定や活動の評価などにも参画することで、より労働者の健康ニーズに沿った計画を進めていけるでしょう。
今回は、年間計画について詳しく説明していきます。


目次

1.ニーズの把握と見える化、予算確保の重要性
2.効果的な計画立案に必要なPDCA
3.年間計画の立て方
4.年間計画の評価のあり方
5.産業保健専門職の役割
6.まとめ


1 ニーズの把握と見える化、予算確保の重要性


職場環境は事業所によって大きく異なります。そのため、産業保健活動を効果的に行うには、事業所の業種や働き方などに応じた取組みを行う必要があります。
産業保健活動を推進する主体は「労使」、つまり、労働者と事業者です。産業保健専門職には、事業者と労働者が積極的に参加しやすい環境をサポートすることが求められます。

効果的な取り組みを実施するには、まず、組織内の産業保健活動に対するニーズを正確に理解することが欠かせません。具体的なデータに基づく評価を行い、適切な計画を立てることが重要です。
また、これらのニーズ、計画の内容、そして取り組みの成果を明確に示し、事業者と労働者が理解しやすい形にまとめることも大切です。
このプロセスを通じて、事業者と労働者の積極的な関わりを促し、産業保健活動をさらに発展させることができます。関心を高め、より多くの関わりを引き出すためには、活動に必要な予算を確保することも有効です。予算をかけた活動には、その成果に対する注目度も自然と高まります。



2 効果的な計画立案に必要なPDCA


PDCAとは、Plan、Do、Check、Actの4つのプロセスを繰り返し、目標達成や業務改善を行うことをさします。日本語では「計画、実施、評価、改善」と訳されています。

  • P(計画): 方針・計画・手順、評価の方法や評価の基準(目標)を作成すること
  • D(実施): 計画や手順に基づき、実行すること
  • C(評価): 計画や手順に基づき実施した活動や仕組みを評価すること
  • A(改善): 結果に基づき改善計画をつくること

    PDCA

PDCA サイクルを実践する際に、PとDだけを重視し、CやAがいい加減になってしまうことも少なくありません。しかし、健康経営の観点からも、産業保健活動の結果を振り返り、定量的に評価をした上で、次年度の対策につなげることが重要視されるようになっています。
CとAのステップを確実に行うためには、評価方法を後から考えるのではなく、計画立案の段階で評価方法や評価基準をあらかじめ決めておくようにします。



3 年間計画の立て方


産業保健の計画は、事業所の課題や年間予定に応じて策定します。例えば、定期健康診断やストレスチェックの時期などに合わせて健康づくりの活動を行うことで、従業員の関心を得やすくなります。
また、事業所の活動スケジュール(予算策定の時期や、翌年度の計画策定の時期、上期レビューや下期レビューの時期など)に合わせた計画とすることで、翌年度に向けたPDCAサイクルを回しやすくなります。

計画は、長期から短期までの各期間にわたり、目指すべき方向性を明示することが大切です。中長期の計画や方針の立て方は、会社や事業所によってやり方や文化が異なりますので、事業所の手法や書式に合わせることで、関係者に伝えやすくなります。

複数の活動に取り組む場合には、それぞれの活動状況に応じて優先順位をつけることも必要です。チームメンバーの間でも、取り組みの優先順位が異なってくることが想定されます。活動の状況や達成状況などを、チームメンバーや関係者と定期的に共有することで足並みを揃えやすくなります。



4 年間計画の評価のあり方


産業保健活動の評価方法には、以下のように様々なやり方があります。取り組みの種類に応じて、どんな方法で評価を行うか、また、目標をどうするか、計画策定時に決めておきましょう
複数年度にわたる取り組みの場合は、同じ方法で評価を行うことで、各年度の取り組みを比較しやすくなります。

評価方法例)

  • 「計画通りに実施できたかどうか」、「実施にむけた準備や体制、予算、実施方法、連携などに問題はなかったか」という活動の進め方を振り返る方法
  • 受診者数(受診率)・参加者数(参加率)・実施者数(実施率)などを指標として評価する方法
  • アンケート調査や聞き取り調査を行なって、活動の認知度、参加者の満足度や理解度、活動の質についてのフィードバックを受ける方法
  • 肥満度や血液検査の結果の変化、有病者数の変化、行動の変化、ストレスやプレゼンティーズム、アブセンティーズム(休業)の変化などを分析する方法

産業保健活動の多くは、労働者の健康度の向上を目標に行われるものです。しかし、最終的に有病者数・重症者数・検査結果が改善するまでは、何年もかかります。その手前の指標として、受診率、治療率、生活習慣の改善状況、継続率などを把握しておくとよいでしょう。もちろん、活動の効果を高めるためには「参加者数」や「参加率」に注目することも必要です。

また、活動の種類によっては、「広く参加してもらう方が良いのか」、「リスクの高い人に対策を集中させるのか」など、それぞれの目的が異なるため、目的に応じて評価方法も変わってきます。例えば、特定保健指導は実際に生活習慣を改善して肥満や検査値などを改善することを目指す取り組みですが、全労働者を対象としたeラーニングの取り組みなどは、社内サービスの認知度の向上やヘルスリテラシーの向上などが目的となります。

ポイント

PDCAサイクルにおいては、実施した施策をやりっぱなしにせず、評価をすることが必要となります。PDCAサイクルを確実に回すことによって、産業保健の取り組みを徐々にレベルアップさせていくことができます。企業や、部署全体として、目標として掲げた指標が改善されているか評価を行い、計画の見直しをはかっていくことが重要です。

年間の活動を振り返る際に、目標を達成できたら「◯」、未達の場合は「×」を記入した一覧表を作成することがあります。しかし、活動の結果を単純に「◯か×か」で判断することはそれほど重要ではありません。評価を行う目的は、活動を振り返って課題を見つけ、次に向けて改善すること、そして、最終的には労働者の健康度や労働生産性の向上につなげることです。
「目標未達」は失敗ではなく、「その計画ではうまく実行できないことが分かった」、「その方法では効果が得られないことが分かった」という貴重なデータなのです。これらを改善の材料として、事業所の産業保健活動をレベルアップさせましょう。 



5 産業保健専門職の役割


産業保健計画を適切に展開する上で、産業保健専門職は、重要な役割を担っています。産業保健専門職や健康管理部門だけで活動を進めていくのではなく、労働者と事業者を巻き込み、連携して行っていくことが重要です。
健康や安全に関する社内の部門や、安全衛生委員会などと連携を取り、事業所として、計画を評価・査定し、共有する必要があります。産業保健専門職が、主体的に計画作成に参加することで、事業所の中での信頼関係の構築にも役立ちます。


6 まとめ


効果的な産業保健活動を展開するためには、健康管理部門だけで活動を進めるのではなく、労働者や事業者が目的意識をもって、主体的に参加できる環境の整備が重要です。
そのためには、個々の活動と、事業所の年間の活動のそれぞれのPDCAサイクル(計画・実施・評価・改善)を意識し、継続的な改善に取り組むことが必要です。個々の活動のレベルアップだけでなく、年間計画の立て方、評価の仕方、労働者や事業者の巻き込み方、予算のとり方など、産業保健活動の取り組み自体のプロセスも、段階的にレベルアップしていきましょう。

■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医


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■監修医師のご紹介


産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』


■参考文献


岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.
五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.
森晃爾(2010)看護職のための産業保健入門. 株式会保健文化社

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