保健指導とは？効果的な保健指導について、行動変容ステージに基づくアプローチを詳しく解説
保健指導というと、健康診断などの結果に基づいて、医療機関への受診勧奨や生活習慣改善のための指導を行うというイメージあるかもしれません。
産業保健における保健指導とはもう少し幅が広く、健康相談への対応やメンタルヘルスへの対応などを含んだ、産業医や産業看護職との一般的な「面談」全般を指しています。
今回は、保健指導について詳しく説明していきます。
目次
1.保健指導とは
2.産業保健領域における保健指導と、特定保健指導との違い
3.保健指導の流れ
4.効果的な保健指導とは～行動変容ステージに基づくアプローチ
5.まとめ
1 保健指導とは
労働安全衛生法第66条にて、事業者には、努力義務として「健康診断の結果、特に健康保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による指導【保健指導】を行うよう努めなければならない」と定められています。また、労働者においても健康診断結果および保健指導を利用して、その健康の保持に努めることが定められています。
保健指導の目的は、労働者が自らの健康問題を自覚し、自分で改善策を実行できるようになることです。これは、専門家が単に指示を出すだけはなく、労働者が自分自身の生活習慣を見直し、健康的な選択をするよう動機づけることを意味します。つまり、労働者がみずから行動できるような支援が求められます。
2 産業保健領域における保健指導と、特定保健指導との違い
産業保健領域における一般的な保健指導と、特定保健指導の違いについても理解しておく必要があります。産業保健領域における一般的な保健指導は、労働安全衛生法に基づいて企業が実施するものです。一方、特定保健指導とは、高齢者医療確保法に基づき、保険者（健康保険組合など）が実施するもので、メタボリックシンドロームに着目した特定健康診査（特定健診）の結果に基づき、生活習慣病の発症リスクが高い加入者に対して、生活習慣の自主的改善を促すものです。
3 保健指導の流れ
保健指導を行う上での心構えとして、以下の3つの基本姿勢を持つことが大切です。
| （1）労働者自身に健康課題を解決する力があるという基本的な考え方をもつ （2）どのような面談であっても、まずはしっかりと話を聴くことに徹し、労働者との信頼関係を気付くことを大切にする （3）労働者の立場で理解することに努め、労働者自身が意思決定できるよう支援する 参考：五十嵐千代. 必携 産業保健看護学－基礎から応用・実践まで
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保健指導を実施する際には、産業保健スタッフの価値観で健康問題を指摘し、一方的に改善策を指示するような面談にならないよう注意が必要です。労働者との信頼関係を築き、面談の主役は労働者であることを常に意識しましょう。
それでは、一般的な保健指導の流れについてお伝えしていきます。
①対象者の選定
事業所の目的に合わせ、産業医の意見を基に判断します。健診結果、ストレスチェックの結果、入社年次、年代、職場のその他の課題や問題に基づき、必要な対象者を迅速に対応出来るよう、あらかじめ事業所内で判断基準や方法を決めておくと良いでしょう。
②保健指導の準備
健康診断結果や問診票の結果などがある場合には、それらの結果を面談前に読み解いた上で、保健指導の目的（受診勧奨、生活改善、減量など）を明確にしましょう。あまり時間をかけられないことも多いので、面談直前にさっと目を通す程度でも構いません。
ただし、あらかじめ想定していた健康課題と、労働者が抱えている健康課題とが異なることもよくあります。面談の中で保健指導の主題が変わることもあるため、柔軟に対応していきましょう。例えば、健康診断結果についての面談が、家族の健康についての相談や、メンタルヘルスに関する相談に発展することもあります。
③面談実施
まずはあいさつと簡単な自己紹介をした後で、今回の面談の目的や、プライバシーの保護（守秘義務）などについて簡単に説明します。
面談では、まず、労働者の話を傾聴することを心がけましょう。効果的な傾聴をすることで、信頼関係の構築や、目標設定などに役立ちます。面談を実施する上でのポイントは下記となります。
健康診断結果に基づく面談であっても、健診結果をいきなり説明するのではなく、健診結果を見てどうだったか（どう感じたか）、どんなことを課題に感じているかなど、オープンクエスチョンを使って、労働者自身に話をするように促すと良いでしょう。
面談を進める中で、労働者が自覚している健康課題、あまり自覚していない健康課題、生活スタイルや行動パターンの問題などについて、情報を収集しましょう。
対象者の準備段階や理解力、意欲の確認をしながら、健康課題との関連が理解できるように説明しましょう。一方的に説明をするだけではなく、健康診断結果についてどう感じるか、どんな仕事や生活スタイルをしているかなど、従業員に積極的に質問しましょう。
産業保健領域の面談では、仕事の内容や職場の状況について確認することは必須です。健康課題に関連した職場や仕事の問題がある場合や、健康確保のために就業制限などを検討する必要がある場合は、産業医に報告して、産業医の意見書などを発行する必要があるかどうかを判断してもらうと良いでしょう。
相談内容に応じて、社内の相談窓口や関係部署の窓口、社外や公的機関の相談窓口やサポート窓口なども案内しましょう。
目標設定をする際は、専門職からの提示ではなく、自己決定ができるようサポートします。目標は具体的な方法や達成期間も設定しておくと良いでしょう。
④記録
保健指導の実施後は、面談で得られた情報やアセスメント、目標設定、今後の対応計画など、記録をしっかり残しておき、次回の保健指導に役立てるように事例を蓄積していきましょう。
保健指導は、一回で終了する場合もあれば、必要に応じてフォローアップを行うこともあります。
⑤個別評価（3～6か月後）
生活習慣の改善や、病院の受診・治療結果を確認する必要がある場合には、労働者に状況を確認したり、あらためて面談を実施したりして、目標達成度や健診・採血データの変化などのほか、保健指導を実施してみてどうだったか、取り組みの満足度などを確認しましょう。
⑥施策としての評価
個々の評価に加え、次年度の健診結果の推移や満足度、保健指導の参加率など施策としての評価も重要です。課題があれば次年度に活かせるように改善していきます。
4 効果的な保健指導とは～行動変容ステージに基づくアプローチ
保健指導を受ける対象者が「自らの健康問題を自覚し、自分で改善策を実行できるようになる」ために、産業保健スタッフには効果的なアプローチが求められています。
効果的な保健指導の実施方法として、「行動変容ステージモデル」を用いたアプローチが効果的です。行動変容ステージモデルとは、1980年代前半に禁煙の研究から導かれたモデルですが、その後食事や運動をはじめ、いろいろな健康に関する行動について幅広く研究と実践が進められています。
生活習慣を改善しようとする意図と行動の状況により、「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」のいずれかのステージに評価されます。
無関心期：6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない
関心期：6ヶ月以内に行動を変えようと思っている
準備期：1ヶ月以内に行動を変えようと思っている
実行期：明確な行動変容が観察されるが、行動を変えて6ヶ月未満である
維持期：明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期
それぞれの行動変容ステージには特徴があり、それらを評価することで、対象者の特徴を理論的に把握することが出来ます。 また、行動変容の流れは、常に「無関心期」から「維持期」に順調に進むとは限りません。いったん「実行期」や「維持期」に入ったのに、その後行動変容する前のステージに戻ってしまう「逆戻り」という現象も起こり得ます。
。生活習慣の行動変容が一定期間継続し、順調に成果に現れるまでには時間を要します。効果的な保健指導の実践のためには、今、目の前にいる対象となる従業員が、どこのステージなのか、こまめにチェックすることが重要です。
産業保健スタッフには、ステージごとに支援方法を変え、ステージが改善していけるように支援することが求められています。そして、保健指導に必要な支援技術として、７つの技術があげられます。保健指導行う際には、これらの技術を統合させ、実践に活かすことが求められています。
| （1）コミュニケーション技術 （2）カウンセリング技術 （3）アセスメント技術 （4）コーチング技術 （5）ティーチング技術 （6）自己効力感を高める技術 （7）グループワークを支援する技術 |
5 まとめ
健康経営が推奨される今、従業員が健康的に働ける環境を提供することは、企業にとって重要な課題の一つです。従業員の健康は、生産性やモチベーションに大きく関わり、企業経営にも影響があります。効果的な保健指導を実践し、評価を継続的に行っていくことで従業員の健康を守っていきましょう。
■執筆：さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修：難波 克行 産業医
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■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践！ 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
岡庭 豊（2019）職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営．医療情報科学研究所．
五十嵐 千代（2023）必携 産業保健看護学－基礎から応用・実践まで．公益社団法人日本産業衛生学会．
厚生労働省｜生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット.
厚生労働省｜標準的な健診・保健指導プログラム（令和６年度版） .
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