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運動指導が進まない対象者へのアプローチ法|面談で使える具体例・行動変容テクニック

運動指導が進まない対象者へのアプローチ法|面談で使える具体例・行動変容テクニック

「運動を勧めても行動に移してもらえない」「毎年同じような指導になってしまう」と悩む産業保健職は少なくありません。
身体活動や運動習慣は高血圧や2型糖尿病などの生活習慣病リスクと関連するだけでなく、メンタルヘルスや仕事のパフォーマンスとの関連も指摘されており、健康経営の観点からも重要な課題です。

しかし、単に運動の必要性を伝えるだけでは行動変容は起きません。大切なのは、対象者の「準備状態(行動変容ステージ)」に応じたアプローチです。

▼ 本記事でわかること

  • 指導が空回りする「運動継続率の低さ」の真の原因
  • 対象者のやる気(ステージ)に応じた適切なアプローチ法
  • そのまま面談で使える会話フレーズ&ロールプレイ事例
  • 勤務形態や職種別の指導のコツ
  • 一過性で終わらせないためのフォローアップの仕組み

記事後半では、明日からの面談ですぐに活用できる具体的なトーク例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。


目次

  1. なぜ運動指導は思うように進まないのか
  2. 行動変容ステージ別にみる運動指導の基本
  3. 面談で使える運動指導の実践テクニック
  4. 運動指導のロールプレイ例(現場でそのまま使える会話集)
  5. 職種・勤務形態別の具体的な運動指導
  6. 継続につなげるフォローアップのポイント
  7. まとめ

1. なぜ運動指導は思うように進まないのか?

運動指導が思うように進まない最大の理由は、「指導者が伝える健康リスク」と「対象者が感じる危機感」のあいだにギャップがあるためです。

産業保健スタッフは健診データや将来の疾患リスクを正しく理解していますが、対象者が必ずしも同じ温度感で自分の健康を捉えているとは限りません。

対象者が運動を拒否する3つの理由

特定保健指導や面談の現場において、多くの対象者が運動を実践できない理由は「時間がない」「運動が苦手」「今困っていない」の3つに集約されます。

「時間がない」

働く世代は業務や家庭での責任が大きく、運動は後回しになりやすく、生活の中で優先順位が低くなりがちです。

「運動が苦手・嫌い」

学生時代から運動習慣がない人や苦手意識がある人にとって、「運動=つらいもの・面倒なもの」という認識が強くあります。

「今困っていない」

健診結果に異常があっても自覚症状がない場合、「生活に支障はない」と考え、行動を変える必要性を感じにくい傾向があります。

指導者が陥りやすい2つの落とし穴

運動指導をスムーズに進めるためには、「正しい知識を伝えること」と「行動変容(実際の行動を変えること)を支援すること」は別物であると理解する必要があります。

① 正論や数値目標だけを提示してしまう

「1日8000歩以上歩きましょう」「週60分の運動が必要です」といった説明は、知識としては正解です。しかし、運動習慣がない対象者にとってはハードルが高すぎ、「自分にはとても無理だ」と諦めさせる原因になります。

② 対象者の「準備状態」を無視したアプローチ

運動にまったく興味がない(無関心期)対象者に対して、いきなり具体的な運動量や目標を提示しても行動にはつながりません。目標を提示する前に、まずは通勤や家事など「日常生活の中で身体を動かす機会(日常の身体活動量)」を一緒に探すなど、対象者の意欲(ステージ)に応じた支援が必要です。


2. 行動変容ステージ別にみる運動指導の基本

健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~行動変容ステージモデル

図:厚生労働省|健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~行動変容ステージモデルを基に作成

① 無関心期(6か月以内に始める予定がない)

状態: 運動の必要性を感じていない。
ゴール: 自分ごととして考えてもらう。
関わり方: 強要せず日常の過ごし方に耳を傾ける。「今より10分多く動く(+10)」などの情報を伝え、関心を高める。
声かけ例: 「普段、一番体を動かすのはどんな時ですか?」等。

② 関心期(6か月以内に始めたい)

状態: 必要性は感じているが一歩を踏み出せない。
ゴール: 行動のハードルを下げる。
関わり方: 「それならできそう」と思える最小の行動を一緒に探す。
提案例: 昼休みに5分散歩する。階段を使う。

③ 準備期(1か月以内に始めたい)

状態: 具体的な方法を考え始めている。
ゴール: 具体的な計画を立てて行動を開始する。
関わり方: 「いつ・どこで・何をするか」を明確にし、環境づくりを支援する。
計画例: 水曜と土曜の夜に15分ウォーキングする。

④ 実行期・維持期(実践中〜6か月以上継続)

状態: すでに運動を継続できている。
ゴール: 生活習慣として定着させる。
関わり方: 「継続できている行動」を認め、モチベーション維持をサポートする。
提案例: ごほうびの設定(スポーツウェアの購入)、歩数アプリで数値を見える化する。

【重要】「逆戻り(後戻り)」へのサポート

行動変容のプロセスは、常に順調に進むとは限りません。仕事の多忙や体調不良などをきっかけに、実行期や維持期から前のステージへ戻ってしまう「逆戻り」は誰にでも起こり得る現象です。

指導者は「逆戻り=失敗」と捉えず、「よくあるプロセス」として受け止め、対象者が自己否定に陥らないよう「ここまで取り組めたこと」を肯定しながら、再び無理のないステップから再開できるよう伴走することが大切です。

 リーフレット【運動のメリット】

3. 面談で使える運動指導の実践テクニック

面談で最も大切なのは、「対象者が『これならできる』と思えるレベルまでハードルを下げること」です。指導現場ですぐに活用できる3つの実践テクニックを解説します。

①「運動」ではなく「日常の身体活動(NEAT)」を提案する

「運動をしましょう」と伝えると、ジムに通うことやジョギングなどのハードな活動をイメージし、拒絶反応を示す対象者は少なくありません。

そのため指導では「わざわざ時間を作る運動」ではなく、日常のちょっとした動作で消費カロリーを増やす「身体活動(NEAT:非運動性活動熱産生)」の視点で提案を行います。

日常生活に取り入れやすいNEATの例: 
  • 目的地の駐車場で、少し遠いスペースに車を止める
  • 職場でコピー機や手洗いに立ち寄る際、意図的に遠回りをする
  • 通勤電車やバスの中で座らずに立つ時間を増やす
  • 毎日の歯磨きやテレビ鑑賞の最中に「かかと上げ」をする

「これなら運動嫌いな自分でも無理なくできそう」という感覚を持ってもらうことが、行動変容への第一歩です。

② オープンクエスチョン(開かれた質問)を活用する

「1日10分歩けますか?」といった「はい / いいえ」で答えるクローズドクエスチョン(閉じた質問)は、「無理です」「できません」と回答された時点で会話が停滞しやすくなります。

そこで、対象者自身に解決策を考えてもらうオープンクエスチョン(開かれた質問)への切り替えが効果的です。

問いかけの比較 実際の会話フレーズ例
NG:クローズドクエスチョン 「明日から階段を使えそうですか?」
→「無理です」で終了しやすい
GOOD:オープンクエスチョン 「どんな方法なら、今の生活の中で無理なく体を動かせそうですか?」
「普段のスケジュールの中で、動きをプラスできそうなタイミングはどこでしょうか?」

質問によって自分自身の口から目標を発話させる(コミットメント)ことで、実際の行動に移すことのハードルが下がりやすくなります。

③ 理想よりも「確実にできる小さな目標」から始める

指導者側はつい「毎日8000歩」や「週60分以上の運動」といった健康ガイドラインに基づく理想的な目標を提示しがちですが、行動変容において最も重要なのは「目標の完璧さ」ではなく「確実に実行できること」です。

  • 理想的な目標(挫折のリスク大): 毎日60分のウォーキングを行う
  • 実現可能な目標(継続率が高い): まずは週1回、5分だけ歩いてみる

「こんなに小さな目標で意味があるのか」と感じるレベルであっても、「目標を達成できた」という小さな成功体験(自己効力感)の積み重ねが、次の大きなステップへとつながっていきます。

リーフレット【手軽にできる運動】

4. 運動指導のロールプレイ例(現場でそのまま使える会話集)

面談でよくある「拒否や諦めの言葉」に対して、どのように切り返せば行動につながるのか。NG例とOK例の対比で解説します。

パターン①:「忙しくて時間がない」と言われた場合

「時間がない」と言う対象者に時間を無理やり作らせようとすると、壁を作られて会話が終わってしまいます。「今の生活リズムを崩さない範囲」に視点を変えるのがコツです。

✕ NG例(会話が平行線になりやすい)

  • 保健師👩‍⚕️:「15分くらいなら、なんとか時間を作れませんか?」
  • 対象者🙍:「いや、本当に余裕がなくて難しいです……」(会話終了)

〇 OK例(小さな隙間時間を見つける)

  • 保健師👩‍⚕️:「お忙しいですよね。では今の生活リズムを変えずに、2〜3分だけ歩数を増やすとしたら、どこでできそうですか?」
  • 対象者🙍:「うーん、昼食後にちょっと外を歩くくらいならできるかもしれません。」
  • 保健師👩‍⚕️:「素晴らしいですね!まずは『週2回の昼食後』から試してみましょう。」

パターン②:「運動が嫌い・苦手」と言われた場合

「運動」という言葉に拒絶反応がある人にスポーツを勧めると挫折します。「運動=スポーツや筋トレ」という固定観念を崩し、日常の動作に置き換える提案を行いましょう。

✕ NG例(ハードルが高すぎて拒絶される)

  • 保健師👩‍⚕️:「健康のために、まずは手軽なジョギングから始めましょうか。」
  • 対象者🙍:「昔から走るのは本当に苦手なんです…」

〇 OK例(身体活動の選択肢を広げる)

  • 保健師👩‍⚕️:「走ったりスポーツをしたりしなくても大丈夫ですよ!例えば、テレビを見ながらストレッチや足踏みをするのはいかがですか?」
  • 対象者🙍:「それくらいなら、家で動画を見ながらできそうです。」

パターン③:「頑張っているのに結果が出ない」と言われた場合

体重や血圧などの「数値(結果)」だけに注目するとモチベーションが低下します。指導者は「行動できていること自体」を承認・評価し、継続の自信を持たせることが大切です。

〇 OK例(成果の定義を「数値」から「行動」に変える)

  • 対象者🙍:「毎日歩くようにしたのに、体重が全然減らなくて意味がない気がします。」
  • 保健師👩‍⚕️:「体重の変化も気になりますよね。でも、これまで運動習慣がなかった方が『歩く機会を増やせたこと』自体が、本当に素晴らしい成果ですよ!行動が続いていれば、必ず後から身体の変化がついてきます。」

5. 職種・勤務形態別の具体的な運動指導

職種によって生活パターンや課題が異なるため、画一的な指導は効果的ではありません。

デスクワーカー向け

長時間座位は健康リスクと関連するとされています。

そのため、

  • 1時間ごとの離席
  • デスクストレッチ
  • 階段利用

などを提案します。

特に「1時間に1回立ち上がる」ことは実践しやすく、取り組みやすい行動です。

 リーフレット【座りすぎによる悪影響】

ドライバー向け

長時間運転では身体活動不足だけでなく、腰痛や疲労蓄積も課題になります。

休憩時には、

  • 股関節ストレッチ
  • 肩甲骨の運動
  • 軽いウォーキング

を提案します。

安全運転の観点からも身体をほぐす習慣は有効です。

交替制勤務者向け

交替制勤務者は疲労感や睡眠不足を抱えやすくなります。
そのため、運動量を増やすことだけを目標にしないことが重要です。

疲労が強い場合は、

  • 軽い散歩
  • ストレッチ
  • ラジオ体操

など負担の少ない活動から始めます。

アクティブレスト(積極的休養)の考え方を伝えると受け入れられやすくなります。

ストレッチングの効果

6. 継続につなげるフォローアップのポイント

運動指導は一度の面談で完結するものではありません。行動を一時的な取り組みで終わらせず、習慣化につなげるための3つのポイントを解説します。

  • 「できなかった」を責めず、目標を再調整する

目標が未達成でも失敗と捉えず、「何がハードルだったか」を一緒に確認します。支援者が責める姿勢を見せると次回面談への意欲が低下するため、寄り添う姿勢が大切です。

  • 「ハーフサイズ目標」でハードルを下げる

継続できない場合は、目標設定が高すぎる可能性があります。「毎日20分」が難しいなら「毎日10分」「週3回5分」まで引き下げ、まずは小さな成功体験を積むことを優先します。

  • データ(記録)で見える化して振り返る

歩数アプリやスマートフォンの活動量データを活用し、変化を数値化して確認します。体重などの結果ではなく「行動できたこと」に焦点を当てて評価することが、継続へのモチベーションにつながります。


7. まとめ

運動指導で大切なのは、正論で説得することではなく、相手の状況に合わせた「伴走型の支援」です。

明日からの面談で意識する5つの鉄則

  • 正論より「できそうな方法」を一緒に考える
  • 「運動」ではなく「日常の動き(NEAT)」を提案する
  • 「週1回」「2〜3分」の最小単位(マイクロステップ)から始める
  • デスクワーク・ドライバー・夜勤など「働き方」で提案を変える
  • 結果の数値ではなく「できた行動」をしっかり褒める

「まずは週1回」「まずは2〜3分」と心理的ハードルを極限まで下げることが、一生ものの運動習慣の定着につながります。


■参考


1)厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」|厚生労働省
2)健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~「身体活動・運動」|厚生労働省
3)標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)|厚生労働省
4)厚生労働省|健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット「行動変容ステージモデル」

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