言葉遣いと敬語。今更聞けない産業看護職のためのビジネスマナー
産業保健活動の目的は「職場で労働者が健康で安心して働ける環境を整えること」です。この目的を達成するためには企業や事業場全体の協力が必要であり、産業看護職にはこうしたプロセスを推進するためのコミュニケーション能力が求められます。
産業保健活動は、事業場や労働者を支援する職種であり、円滑に進めるためには信頼関係が何よりも重要です。
事業場や労働者のニーズをくみ取り、必要な支援を実施するために、ビジネスマナーは役立ちます。
本記事では、言葉遣いや敬語表現を中心に説明します。
目次
1.ビジネスマナーの根源にあるもの
2.敬意表現と敬語
3.話し方と伝え方、伝わり方
4.まとめ
1 ビジネスマナーの根源にあるもの
■相手の立場に立つ
相手の心に寄り添い気遣いを怠らないことが、信頼関係を築く第一歩となります。言葉だけでなく、相手の表情や反応にも注意をし、相手の話に耳を傾けることが重要です。
ビジネスの場面において、相手を尊重しているということを示す方法がビジネスマナーの根源にあります。
■敬意表現と言葉の配慮
敬意表現とは、コミュニケーションにおいて、相互尊重の精神に基づき、相手や場面に配慮して使い分ける言葉遣いのことです。
相手や場面に配慮し、目的に応じて自ら適切な表現を選ぶということが重要です。
言葉は、相手を癒し助けることもあれば、傷つける凶器にもなり得ます。
正しいビジネスマナーの知識や活用が重要であることはもちろん、相手の思いやり、相手に興味をもつ、そのうえで自分の意見を述べるというお互いを大切にする、ということが何よりも重要です。
2 敬意表現と敬語
■敬語
敬語は、人と人との相互尊重を基盤としており、人間関係・社会関係についての気持ちの在り方を表現します。気持ちの在り方とは、立場や役割の違い、年齢や経験の違いなどに基づく「敬い」や「へりくだり」などの気持ちです。
つまり敬語は、話し手が、相手との関係性をどのようにとらえているかを表現する働きも持ちます。そのため、話し手自身が意図しているかどうかにかかわらず、敬語の表現する人間関係が表現されるため、その使い方には注意が必要です。
「自分の意見や気持ちを表現するためには どんな敬語が適切か」「こういう敬語を使うと,人間関係や場面についてどんな気持ちが表現できるか」「この敬語を使うと(あるいは,この敬語を使わないと)どのような気持ちが表現されることになるか」自ら判断し、選べるようにするためには、敬語やその使い方についての知識を身につけることが重要です。
■敬語の仕組み
平成19年に文化庁から発表された「敬語の指針」において、敬語は下記の3種類、5種類に分類されています。
<敬語の5種類・3種類>
■よく使う敬語表現
尊敬語と謙譲語は、主語で使い分けます。相手が主語の場合は尊敬語、自分が主語の場合は謙譲語を使用します。
■間違えやすい敬語表現
<尊敬語と謙譲語の混同・混用>
×健診結果をご持参ください
〇健診結果をお持ちください
※「持参する」は謙譲語なので、相手が主語の場合は使用しない
×A様はおられますか?
〇A様はいらっしゃいますか?
※「おる」、「いる」は謙譲語なので、相手が主語の場合は使用しない
×A様はどちらにいたしますか?
〇A様はどちらになさいますか?
※「いたす」は謙譲語なので、相手が主語の場合は使用しない
<二重敬語に注意する>
×A様がおいでになられました
〇A様がおいでになりました
×何時にお戻りになられますか?
〇何時にお戻りになりますか?
×部長がおっしゃられました
〇部長がおっしゃいました
×拝見させていただいてもよろしいでしょうか?
〇拝見してもよろしいでしょうか?
×部長にご指摘していただいた
〇部長にご指摘いただいた
〇部長に指摘いただいた
<よく聞く間違った表現>
×(社内の者)にお伝えします
〇 Aに申し伝えます
×本日、Aはお休みを頂いております
×本日、Aはお休みを頂戴しております
〇Aは本日、休みを取っております(休んでおります)
〇昨日から休暇をとっておりまして、明日は出社いたします
×お名前を頂戴できますか?(頂けますか?)
〇お名前を教えていただけますか
〇お名前をお聞かせ願えませんでしょうか
×お求めやすい
〇お求めになりやすい
×御社の〇〇様を存じています
〇御社の〇〇様を存じ上げております
※人に関することは、「存じ上げています」を使用する
×その件は存じ上げています
〇その件は存じています
※物事に関することは、存じるを用いる
×お体ご自愛ください
〇どうぞ、ご自愛ください
※「自愛」には、体を大事にするという意味が含まれるので重複表現となる
■目上の人に使うと失礼にあたる、間違えやすいビジネス敬語
了解/了解しました
→かしこまりました/承知しました(承知いたしました)
※「了解」は、同僚や普段から親しい間柄に使う表現となるため注意が必要
ご苦労さまです
→お疲れ様です/お疲れ様でした/お疲れ様でございました
※ご苦労様は、上の立場の人が目下の人をねぎらう言葉
お分かりいただけましたでしょうか/ご理解いただけましたか
→ご不明な点はございませんか
※相手の能力をはかるような言い方となる場合があるため注意が必要
健診結果の意味をお教えします
→健診結果の意味をご説明します
※「教える」は上から目線の印象を与えるため注意が必要
3 話し方と伝え方、伝わり方
話し方、聞き方ひとつで会話の雰囲気は変わります。相手と自分の立場をわきまえて、その場にふさわしい言葉を選び、会話をすることが重要です。
また、同じことを話しても、相手との関係性が良くない場合は、言葉が素直に受け取られず、伝わりにくいということが多くあります。信頼関係が築けていない相手には特に、言葉を選び誠意を尽くす必要があるといえます。もちろん関係が良好な相手にも、言葉の配慮や誠意は大切です。
産業看護職が、労働者や関係者と話す際には下記のような点に注意しましょう。
- 相手との距離感をつかむ
- 相手が主役であることを伝え、自分はお手伝いできることはしたいという姿勢を示す
- 相手と自分の職場での立場を確認し、それにあった言葉遣いをするように心がける
- 専門用語は使用しない
- 相手の話を聴き、相手の思いを知ろうとする。そのうえで自分の意見を伝える
- 話すスピードに気を配る
- 相談してくださってありがとうございます、という姿勢をみせる
- 「伝えた」自己満足より、相手が理解して「伝わったか」を確認するようにする
産業保健活動を実施する際には、産業看護職として労働者や事業者などに対して言いづらいことを言わなければならない場面もあります。
例えば、お願い、お断り、注意などがあります。これらを伝えなければならない場面では、ストレートな伝え方をしてしまうと誤解や摩擦を生む原因となることもあります。
そのようなときには、言葉を言い換えたり、クッション言葉を添えたりして、言葉に配慮を込めて伝えるようにしましょう。相手を大切に思っていることを示したうえで、伝えるようにするとよいでしょう。
また、曖昧な表現や濁した表現を用いると相手に違った意味で伝わることもあるため、相手がどのように受け取ったか確認することも重要です。
4 まとめ
産業看護職が事業場内で効果的な産業保健活動を展開するためには、多様な関係者とコミュニケーションをとり、信頼関係を構築することが必要であり、ビジネスマナーや敬語についての知識はこれらに役立ちます。
言葉は、相手を癒し助けることもあれば、傷つける凶器にもなり得ます。
またその表現方法によっては、話し手が意図していない気持ちとして相手に伝わってしまうことや誤解を生むこともあります。
正しい敬語や知識を身に着けることはもちろん、言葉の使い方に配慮することはとても重要です。
産業看護職が「相談したい人」になるためには、自身が支援者であるということを伝え、相手を理解しようとする姿勢や誠意、言葉への配慮は必要不可欠です。
ビジネスマナーや敬語の根源にあるものを理解したうえで、正しい知識や使い方を身につけることが求められます。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医
一緒に見たいコンテンツ
■参考文献
田巻華月(2022)安心と自信を手に入れる!ビジネスマナー講座. 同文館出版株式会社
文化庁 敬語の指針