職場復帰可否の判断~生活記録表「見る」ポイント~
職場復帰支援において、職場復帰の可否の判断は非常に重要であり、迷う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、職場復帰の可否の判断について、復職後の再発を防ぐための業務調整の方法とあわせてご説明いたします。
※本記事は2022年10月20日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶①職場復帰の可否を判断する【職場復帰支援勉強会】
【目次】
1.職場復帰が可能となる回復の時期とは
2.復職の可否の判断材料
3.生活記録表を用いた事例の検討
1.職場復帰が可能となる回復の時期とは
メンタルヘルス不調は、症状が良くなったり悪くなったりという波を繰り返しながら、徐々に回復していくのが一般的です。
休職している従業員が、症状が落ち着いて家の中で普通に過ごせるようになってきたり、少し外出ができるようになってくる状態(日常生活レベルの回復)になると、「早く復職しなければ」という焦りが強くなり、復職可の診断書を提出してくることがあります。しかし、この状態で復職してしまうと再発の原因になってしまうことがあります。
そのため、復職できる状態かどうか、回復の段階はどこか、しっかりと見極めることが重要です。
そこで本記事では、回復の時期を見極めるために、生活記録表を用いた復職可否の判断のポイントをご説明します。復職後の業務計画をどのように作っておくと良いのか、職場復帰の時によく問題になる環境調整の方法も合わせてご紹介いたします。
2.復職の可否の判断材料
復職の可否の判断は難しく、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
厚生労働省の『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』には、「復職の意欲があるか」「日常生活が落ち着いてるか」「安全に通勤できるか」など様々なポイントが書かれています。
しかし、実際の現場ではどのように判断すれば良いのかは多くの方が悩んでいるのではないでしょうか。
例えば、「見た目が元気そうでやる気がありそう」というのはあまり当てにはならないことが多くあります。
面談する1日だけ頑張って元気そうに振る舞い、次の日には疲れてしまうといったケースは多く、症状の回復状況を見極めるには、数回の面談だけでは判断が難しいものです。
業務遂行能力についての見極めも必要ですが、休職中の人つまり仕事をしてない環境にいる人では、その見極めは難しいでしょう。
主治医の診断書は本人の意向をかなり加味したものとなっていることがほとんどです。そのため、それだけを頼りに復職の可否を判断するのは難しいと言わざるを得ません。
では、何を判断材料としてこれらを見極めていくのか、下記の事例で検討したいと思います。
3.生活記録表を用いた事例の検討
【Q1】情報は下記のみです。あなたが産業医なら、復職可と判断しますか?それとも復職はまだ早いと判断するでしょうか?
復職の可否を判断するとか、職場復帰の対応を進めていくにあたっては、どの段階まで回復しているかを見極めて対応することが必要です。
休職中の従業員が、病状が回復し日常生活を送れるようになってきたら、焦りから復職可の診断書を持参し、復職を申し出るという場面は多く遭遇します。
しかし、この時点(日常生活レベルでの回復)で復職してしまうと回復は十分といえず、再発するリスクは高い状況です。
具体的には、毎日出社する体力や生活リズムの回復が不十分であるケースが多くあります。
そこで、回復の状態を見極めるために、休職中の従業員に日中の過ごし方や生活リズムを記録してもらったもの(生活記録表)を、復職の判断材料にしようとする取り組みが多くの事業場で行われています。
生活記録表の書式は様々ですが、見るポイントは、睡眠と日中の過ごし方(外出)の2つです。
(睡眠)
・出社に間に合う時間に起床しているか
・平日の睡眠と起床のリズムが整っているか
・日中に昼寝をしたり、朝起きてから二度寝をしていないか
(日中の過ごし方)
・家の中で過ごしているか外出しているか
・出社を模した生活の練習のため、日中はなるべく外出して過ごすことを意識してもらい、それが週のうち何日できているか、どのくらいの時間継続しているか
上記のようなポイントで、週5日間の出社を想定した生活リズムでの生活が2~3週間続けられているかという点も評価のポイントとなります。
1週間程度であれば、頑張ってリズムを整えてくるケースもありますが、それを持続できるかどうかは非常に重要な視点です。
【Q2】事例の従業員が、下記(場面2)の生活記録表を持参しました。復職の可否をどう判断しますか?
起床時間にはばらつきがありますし、昼寝をしている日も週に何回かあるようです。
外出に注目すると、午後から短時間で週に1~2回程度です。
この生活記録表からは、日常生活レベルの回復はしているものの、出社可能レベルの回復とは言いづらいと思われるので、多くの方が出社不可と判断されるのではないでしょうか。
【Q3】事例の従業員が、下記(場面3)の生活記録表を持参しました。復職の可否をどう判断しますか?
回復が進んできた印象を受けますが、『図書館に頑張って行ってるが毎日ではない』『月曜から金曜まで続けて生活するところはまだできていない』『昼寝する日は疲れて寝ていた、つまり頑張って活動した翌日は疲れて寝てしまっている印象がある』ということが読み取れます。
回復は確実に進んでいますが、復職可とするには、まだ不安が残ります。
【Q4】事例の従業員が、下記(場面4)の生活記録表を持参しました。復職の可否をどう判断しますか?
平日の起床時間は7時で、出社に間に合うように過ごしています。午前中から午後3時頃まで図書館に行ったり、通院したり買い物をしたりという生活が月曜から金曜まで週5日継続しています。
そして、それが2週間継続しており、疲れがたまっている様子もなく、生活リズムも安定してきたような状況がうかがえます。
出社可能なレベルの回復の段階となっており、『復職可』と判断できるといえるのではないでしょうか。
生活記録表を使ったときの一番の課題は、『担当者によって判断が異なる』という点です。次回は、それらの課題を解決し、生活記録表をうまく活用するためのポイントについてご説明します。
是非ご覧ください。
▶復職支援 生活記録表を活用するためのポイント
講師
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』