女性労働者の健康課題と男性の家事・育児参加
少子高齢化が進む日本において、女性が働きやすい職場をつくることは労働力の確保という観点からも非常に重要です。
女性の社会進出が国でも推進されており、産業保健の現場においても女性の健康管理、女性が働きやすい職場づくりが求められています。
本記事では、日本における女性労働者に関する歴史、女性労働者の健康課題と男性の家事育児参加についてご説明します。
※本記事は2023年8月23日(水)に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
▶①女性労働者の健康課題と男性の家事・育児参加【女性が活躍できる職場づくり 産業医にできる支援とは?】
【目次】
1.女性労働者に関連する法規制の歴史
2.リプロダクティブヘルスとは
3.女性の就業継続と男性の家事育児参加の関係
1.女性労働者に関連する法規制の歴史
1972年は大きな節目であり、1947年に制定された労働基準法第5章が分離独立して労働安全衛生法が制定された年です。この年に勤労婦人福祉法というものが制定施行されました。
当時は、女性保護という名目で女性が就けない仕事が多くありました。
1985年には男女雇用機会均等法が成立し大きな変化が訪れます。
これ以前は、残業については女性は全員原則1日2時間週6時間まで、深夜業は不可という規定がありました。
看護師や保育士は女性保護の例外として深夜業をしていたのですが、この保護規定がなくなったことによりあらゆる職種で女性の深夜労働が広がったことになります。また、母性保護以外の危険有害業務規制を大幅に解除したことにより、職業選択の自由が拡大しました。
このような歴史的背景を経て、労働基準法や安衛法だけではなく、男女雇用機会均等法、育児休業法、男女共同参画社会基本法といったものが成立しています。
さらに2015年には女性活躍推進法という名前の法律まで登場しています。
これは2025年度までとなっておりますが、現代は女性が働かないと労働力が確保できない時代となっており、女性保護として守るよりも、ひとりひとりの個別の事情に合わせた就業配慮が求められる時代になってきています。
2.リプロダクティブヘルスとは
リプロダクティブヘルス(Reproductive Health and Rights)とは、1994年のカイロ国際人口・開発会議で採択されたものです。
日本語で直訳すると『性と生殖に関する健康・権利』となり、日本国際保健医療学会の国際保健用語において、『人間の生殖システム及びその機能と活動過程の全ての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあること』を指します。
年代ごとに健康課題が変化しますので、リプロダクティブヘルスも変化していくことが特徴であり、仕事への影響への大きさも課題に応じて異なります。
なかでも、母性健康管理は労働への影響が一番大きく、その次に生殖影響のある有害作業があります。月経障害については、表面化していない問題も多くあり、労働者意欲や労働効率を下げることがわかっています。
また、更年期や生活習慣病の問題ももちろんありますが、性感染症や性行動などの問題については産業医として関わることはあまりないかと思いますが、そのようなカテゴリーがあるということはぜひ知っておいていただきたく思います。
乳がんや子宮頸がんなどの女性特有のがんは、労働の相互作用は大きくはありませんが、産業医としては関与しなければならないことといえます。
男女ともに長期休業の原因疾患としては、メンタル疾患がトップになるのですが、次に多いのは新生物つまり、がんです。
女性においては、妊娠、分娩、産褥による長期休業が14%もあることはぜひ知っておいていただきたいと思います。
こちらは、国立がん研究センターのがん対策情報センターから発表されているデータですが、女性は40代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多く、高齢になるほど消化器系のがん、肺がんの割合が増えていくのですが、就業年齢においてはがんの罹患が男性よりも女性のほうが圧倒的に多いことが特徴です。
定年退職後は男性のほうが格段にがんの罹患者数が増えていきますが、働く世代としては、女性のがんの罹患率が高くなる特徴があり、女性のがん対策は産業保健において重要な課題といえます。
3.女性の就業継続と男性の家事育児参加の関係
日本の女性の就業率は、先進国に比べるとM字カーブの傾向が顕著であるといわれていますが近年は少しずつ緩和されています。
日本よりもM字カーブが明らかなのは韓国で、合計特殊出生率も非常に低いのがわかります。
日本や韓国と欧米諸国を比べると、女性の社会進出が進んでいる国ほど合計特殊出生率が高い傾向にあることがよくわかります。
女性の就業継続と出産後の男性の家事育児参加の関係を示したグラフが下記です。
日本の男性は6歳未満の子供をもつ場合の家事育児関連時間は1時間程度であり、国際的にかなり低水準であるといわれています。育児時間だけをみると日本とフランスはほとんど同じですが、家事時間が圧倒的に異なることがよくわかります。
日本においても夫の家事育児時間が長いほど、第1子出産前後の妻の就業継続割合が高いのがわかります。
男性が家事や育児をしなくても46%の人が仕事を続けていますが、夫が長時間家事育児を担うことでその就業率が格段にあがるというデータがあります。
また、家事育児時間が長い夫がいる夫婦の第2子の出生の割合が高くなるというデータもあります。
このような背景から、日本では2022年4月に改正された育児介護休業法で、いわゆる産後パパ育休が新設されました。
これは男性の育児休暇を促進して女性の仕事と育児の両立を支援することを目的とされています。2020年度の男性の育休取得率が12.6%となり初めて1割を超え、法律の効果は非常に大きいといえます。
男性の家事育児参加率と出生率は相関関係にあり、男性に育休制度があるということは日本の少子化問題においてはとても重要です。
ただし、実際の企業では権利ばかりを主張し、育休を長期間とるとその後の人間関係などの問題になるというような事例も経験しています。職場でコミュニケーションをよくとり、男性が休みを取りやすい時期に分割して育児時間をとるなどといった行動が積極的にできるようになると社会もよくなるのではと感じています。
講師
大津真弓先生
産業医科大学卒業(2002年)
双子の妊娠・出産を機に独立
北関東で産業保健サービスを展開中
自治医科大学大学院 医学研究科 博士課程修了(2017年)