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ストレスチェックの集団分析結果を活用するためのガイド

2015年の労働安全衛生法改正で始まったストレスチェック制度は、メンタルヘルスの予防活動を進める上で重要な転換点となりました。ストレスチェックは、個人が行う「セルフケア」と、職場全体の傾向を把握し職場環境の改善に活用する「集団分析」の2つで構成されます。導入から8年が経過し、現在、努力義務となっている集団分析に取り組む事業者も年々増えてきています。
今回は、集団分析とその活用方法について詳しく解説します。

目次

1.ストレスチェックとは
2.集団分析の現状と重要性
3.集団分析結果の実際
4.職場の環境改善への活用方法
5.まとめ


1.ストレスチェックとは


ストレスチェックは、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止する(一次予防)のために行います。

労働安全衛生法にもとづき、労働者数50名以上の事業場において、年1回のストレスチェック実施が義務付けられています。実施対象は、常時使用する労働者(所定労働時間の4分の3以上)となります。すべての労働者が受検することが望ましいとされていますが、労働者に受検義務は科せられていません。

ストレスチェックは自己記入式の調査票を用いて、下記3つの要素について検査をするものです。
① 職場における心理的な負担の原因に関する項目(職場のストレス要因)
② 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目(心身のストレス反応)
③ 職場における他の労働者による支援の項目(職場の支援)

労働者個人は、ストレスチェックに回答することで自身のストレス状況が把握でき、一次予防としてのセルフケアに役立ちます。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された場合には、医師による面接指導を受けることができます。


ストレスチェック制度の流れと集団分析の流れ
出典:こころの耳(厚生労働省)より作成


2.集団分析の現状と重要性


ストレスチェックを事業場や職場単位で集計することで、平均的な傾向を把握することを集団分析といいます。集団分析を通じて、職場のストレスに関する課題を見つけ、職場環境の改善に取り組むことで、より働きやすい環境を整えることができます。その結果、メンタルヘルス不調を減らし、職場の生産性向上にもつながることが期待されています。

集団分析の実施率は、事業場の規模により大きな違いがみられますが、50名以上の事業場では60%台であり、50名未満の事業場では25%ほどになります。 一方で、ストレスチェックの実施した事業場では、事業場規模に関わらず、70%を超える事業場で集団分析を実施しています。

労働安全衛生規則 第52条の14(検査結果の集団ごとの分析等) 

事業者は、検査を行った場合は、当該検査を行った医師等に、当該検査の結果を当該 事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならない。
2 事業者は、前項の分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならない

集団分析は、ストレスチェック制度の中では、努力義務に位置付けられていますが、より積極的な実施と活用が期待されています。集団分析とその結果を活用した職場環境改善は、ストレスチェックの目的を果たすための重要な手段と言えます。


3.集団分析結果の実際


事業者は、ストレスチェックの実施者に、ストレスチェック結果を一定規模の集団(部、課、グループなど)ごとに集計・分析してもらい、その結果を踏まえて、職場環境の改善を行います。集団ごとに、質問票の項目ごとの平均値を算出し、それら比較することで、どの集団が、どのようなストレス状況なのかを調べます。

【ポイント】

集団ごとの集計・分析結果は、労働者の同意を取らなくても、実施者から事業者に提供して差し支えありません。ただし、分析する集団の回答者数が10人未満の場合は、個人特定されるおそれがあるので、全員の同意がない限り、会社は集計・分析の結果の提供を受けてはいけません。原則、回答者数10人以上の集団を集計の対象としましょう。
(個人の特定につながり得ない方法で実施する場合に限っては、10人未満の単位での集計・分析を行い、労働者の同意なしに集計・分析結果を事業者に提供することは可能です。)

仕事のストレス判定図とは?

集団分析の具体的な方法として、「職業性ストレス簡易調査票」の結果から「仕事のストレス判定図」を作成する方法があります。それにより、職場のストレス要因が従業員に与えるストレスや健康リスクの程度を判定して職場改善に活用します。

「仕事のストレス判定図」を用いると、仕事の4つのストレス要因(量的負担・仕事のコントロール・上司の支援・同僚の支援)について評価することができます。
「量-コントロール判定図」と「職場の支援判定図」の2つを合わせて、「仕事のストレス判定図」といいます。それぞれ全国平均を100として健康リスクを読み取ります。


仕事のストレス図
出典:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(厚生労働省)より作成

「量-コントロール判定図」

量-コントロール判定図では、仕事量(横軸)の負担と仕事のコントロール(縦軸) がプロットされます。一般に仕事量が多いほど、コントロールが低いほど(右下にむかうほど)ストレスが高いと考えられます。また、どの要因が強く影響しているかがわかります。

「職場の支援判定図」

職場の支援判定図では、上司の支援(横軸)と同僚の支援(縦軸)がプロットされます。この場合は、どちらも高い値ほど(右上に向かうほど)ストレスが軽いと考えられます。

量的負担・仕事のコントロール・上司の支援・同僚の支援のうち、ストレス面からどの要因に課題があるのかを見える化し、全国平均値との比較から事業場全体と個別職場の比較などもできます。

総合健康リスク

総合健康リスクは、職場のストレス要因と、職場の支援の評価値を掛け合わせ、どの程度従業員の健康に影響するかを表したものです。
【総合健康リスク=(量-コントロール判定図の値)×(職場の支援判定図の値)/100】
全国平均(値)を100とし、総合健康リスクが高いほど、労働者のメンタルヘルス不調のリスクが高くなることを示しています。

【ポイント】

集団分析では、数値やグラフといった量的な情報が算出されますが、日頃のマネジメントを実施している管理監督者の見解や産業保健スタッフからの意見や情報なども、質的な情報が結果を解釈する上で重要となります。量的な情報と質的な情報を合わせて慎重に結果について検討することが大切です。


4.職場の環境改善への活用方法


事業者は産業医をはじめとする産業保健スタッフと連携しつつ、集団ごとの集計・分析結果を管理監督者向け研修の実施、各職場における業務の改善などに活用していきましょう。

衛生委員会での共有・審議

結果から見える事業場の特徴についてまとめ、衛生委員会で集団分析結果について審議をしましょう。経年変化を見ていくことで、業務内容の変化や管理監督者の交替等、様々な背景が見えてくることがあります。結果が悪化した時を改善の良い機会と捉え、現状のヒアリングを行う等の対応を行い、顕在化する前に課題を洗い出していきましょう。
※集団ごとの集計・分析結果は、経年変化をみて職場のストレスの状況を把握・分析することも重要であることから、事業者が5年間保存することが望ましいとされています。

職場環境改善における産業保健スタッフの役割

産業保健スタッフは、ストレスチェック後の職場環境改善において重要な役割を果たします。
具体的には、ストレスチェックの結果をもとにした組織分析の結果の見方を解説したり、労働者や管理監督者が参加する環境改善活動のファシリテーターを務めることが可能です。専門的な知識を活用し、職場と直接の利害関係がない立場から活動を推進できます。

各部署へのフィードバック

集団分析結果の情報の取り扱いに十分留意し、該当部署の結果をフィードバックします。集団分析結果の読み方や分析についても伝えていくと良いでしょう。外部EAPなどの委託機関を活用し、フィードバックを実施することも有効です。フィードバックの際には、「部署の評価や批判」にならないように十分配慮をしましょう。職場の改善提案として必要な情報を伝えていくことが重要です。


5.まとめ


現在、ストレスチェック制度の多角的な検討がなされており、今後ますますストレスチェック制度や集団分析の積極的な活用が期待されています。集団分析を通じて得られるデータは、職場のストレス要因や健康リスクを可視化し、適切な職場環境改善を導く鍵となります。
ストレスチェック担当者、産業保健スタッフ、管理監督者をはじめとする関係者が連携し、事業場に合った環境改善を実行していきましょう。


■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考資料
厚生労働省|こころの耳_ストレスチェック制度について
厚生労働省|労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル
厚生労働省|ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて
労働者健康安全機構・厚生労働省|これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~
厚生労働省|令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)


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