「産業カウンセラー」とは? 産業保健師が取得するメリットと活かし方【体験談あり】
近年、メンタルヘルスケアやキャリア支援への関心が高まっています。その中で、産業保健師としての専門性をさらに高める資格として注目されているのが「産業カウンセラー」です。本記事では、資格取得メリットに加え、実際に資格を取得した産業保健師の体験談も交えて、現場での活かし方やキャリアへの影響について詳しくご紹介します。これから取得を検討している方にとって、理解を深める具体的なヒントをお届けします。
<目次>
1.産業カウンセラーとは?
2.精神障害労災から考えるメンタルヘルス支援の重要性
3.産業カウンセラーの資格概要
4.産業保健師が産業カウンセラーを取得するメリット
5.体験談:産業保健職が語る「資格取得のリアル」
6.まとめ
1.産業カウンセラーとは?
産業カウンセラーは働く人の充実した職業人生(QWL:Quality of Working Life)の実現を支援し、産業社会の発展に寄与する民間資格の専門家です。
仕事上のストレスや人間関係の課題に対応するだけでなく、職業生涯を通じた自己実現や能力開発の支援も行います。また、カウンセリングの考え方やマインドの普及・啓発活動など幅広く携わり、働く人が自らの力で課題を解決しより良い職場環境を作り出すことをサポートします。
さんぽLABが2025年に産業保健職201名を対象に実施したアンケートでは、産業看護職(保健師・看護師)が持っている資格の第1位、今後取りたい資格の第2位に挙げられており、産業保健の現場でも非常に興味関心が高い資格であることが伺えます。
2.精神障害労災から考えるメンタルヘルス支援の重要性
近年、職場におけるメンタルヘルスへの問題は深刻化しています。
厚生労働省が発表した令和6年度「過労死等の労災補償状況」の調査によると、労災請求件数は3,780件(前年度比+205件)、そのうち支給決定件数は1055件(前年度比+172件)と初めて1000名を超え、年々増加傾向にあります。さらに、未遂を含む自殺件数も88件(前年度比+9件)と増加、いずれも前年度を上回る結果であり、職場における予防的な支援や、メンタル不調者の早期発見の重要性がますます高まっていることを示しています。こうした状況を踏まえると、産業保健師には、これまで以上に高度で専門的なメンタルヘルス支援が求められています。
3.産業カウンセラーの資格概要
産業カウンセラーは、一定の条件を満たした後、試験に合格する必要があります。
受験資格は主に以下の4つです。各項目により必要な科目や単位数が定められています。また、2~4の受験資格を得る為には「受験資格判定申請(書面審査)」の提出が必要です。
※必要な単位等、詳細は産業カウンセラー協会ホームページを参照ください。
1. 協会が行う「産業カウンセラー養成講座」を終了した者 2. 大学院で心理学・人間科学系の修士課程修了者 3. 上記修士課程修了かつ職業経験3年以上 4. 4年制大学で指定科目を履修した学士 |
産業カウンセラー養成講座
講座には、e-learningで理論学習と、面接の体験学習(会場やオンライン)があり、体系的・実践的に学べるようになっております。
気になる方は無料の講座説明会や体験講座もありますので、ぜひ参加してみるとよいでしょう。
講座期間
・6ヶ月コース
・10か月コース
受講料
352,000円(教材費を含む・税込)
※講座は一般教育訓練給付制度指定講座です。条件を満たせば雇用保険から費用の一部が支給されます。
講座内容 ※2025年9月現在
- 面接の体験学習:104時間(15~16日)、短時間コースは26~35日
- 課題学習:6課題、28時間相当
- 講義動画視聴:34時間相当
- 理解度確認テスト:13時間相当
4.産業保健師が産業カウンセラーを取得するメリット
産業保健師が産業カウンセラーの知識や資格を持つことで、より専門的なメンタルヘルス支援や職場改善への対応力が向上します。具体的には以下のようなメリットがあります。
・メンタルヘルス対応への専門性向上
産業保健師としてのメンタルヘルスへの相談や面談スキルに加え、カウンセリング技術を活用することで、ストレスや心理的負担を抱える労働者へよりきめ細やかで効果的な支援が可能になります。傾聴や対話を通して労働者の心の整理や自己理解、行動変容により、職場での自己管理能力や心理的安全性の向上にも寄与されます。
・職場環境改善への支援
産業カウンセリングは個別対応にとどまらず、予防的・開発的アプローチとして労働者が働きやすい環境づくりに寄与します。職場の心理的安全性や労働者の満足度向上にもつながるため、結果として産業保健師としての役割や影響力をさらに広げることができます。
・キャリア形成への支援
労働者の就業意識の変化や働き方の多様化により、労働市場での人材の移動はますます活発化しています。そのため、企業内で通用する能力だけでなく、企業外でも活かせる職業能力が、労働者に一層求められるようになっています。
こうした状況に対応するため、産業保健師がキャリア形成支援の知識やスキルを持つことで、労働者が自分の強みや適性を理解し、将来のキャリアを主体的に設計できるよう支援することが可能です。
5.体験談:産業保健職が語る「資格取得のリアル」
実際に産業カウンセラーを取得した産業保健専門職へ資格取得のリアルを伺いましたので共有いたします。
※一部抜粋・修正をしております。
Q1.なぜその資格を取ったのですか?
● 傾聴スキルを上げたいと思ったから
● 新入社員の離職者がおり、相談を受けることで思いとどまってくれるかもしれないと考えた
● 職場推薦があった
● 傾聴のなかでも把握するポイントをつかむため
● 保健師業務に傾聴の力が必要だと思った
● クライアントの気持ちをきちんと聴くこと、クライアントが答えを見つけていく伴走をするためにカウンセリングの基礎を学びたいと考えたから
● 自身の面談能力を評価してもらえる機会がなく、本当にこのやり方でいいのか?我流になっていないか?社員のためになっているのかと疑問に感じ、先輩保健師に相談したところ、産業カウンセラー資格取得を勧められたため
Q2.資格を取得して、実際の仕事やキャリアにどのように役立っていますか?
● 机上だけでなく実際のロールプレイを繰り返し行うことでのスキルアップに繋がり、面談対応に生かすことが出来ている。また、自分自身を振り返ることにもなり、今後どんなキャリアを積んでいきたいか、どんな形で仕事をしていきたいのかを考えることにもなった
● 傾聴のスキルは身についたと思います
● 自分の知識に役立てている
● 相手の訴えるポイント、深堀するポイント、内省に促すポイント、距離を置くポイントなどがわかった。自己理解も深まり、実務に役立っていると感じています
● 相談対応業務に役立ってると思う。資格そのものは会社の給料に反映されるなど無いため、キャリアに役立ってるとは思えていない
● 沈黙の大事さが理解できた
● 「おそらくこうだろう」と思ってもその考えを抜きにしてクライアントの思いを聴くことができるようになったと感じている
● 職場の待遇は何も変わっていないが、産業カウンセラーの講習を受けるようになって数か月した頃、クライアントに「いつもと違うかかわり方になっている」と言われたことがあり、学びは自分の中に根付いてきているのが実感できた
● 信頼構築がスムーズになったと感じる
● 指導を全面に出さず、傾聴をベースにした面談ができるようになることで、社員も納得感を持った上で自走できるように促せるようになった
Q3.今後のキャリアにどう役立つと考えていますか?
● 専門性を生かした自分らしい仕事の仕方に繋がると考えている
● 社内の臨床心理士と共同して支援ができるようになりたい
● 給料が良い会社へ転職したいと考えている
● 特に役立つとは考えてない
● 産業保健の中でメンタル相談やキャリア相談は増えてくると考えられるため、今後仕事を続けるにあたって必要とされる業務と考えている
● 新しい情報を取り入れ、協会の研修に参加するなど少しずつでも学び続けていきたい
● 開業保健師をめざしており、その中の必要なスキル、見せれる資格(顧客に安心感を与えられる)としては、非常に有効だと感じる
6.まとめ
産業カウンセラーは、単なる資格取得にとどまらず日々の相談業務や保健師面談等の実務に直結する実践的スキルを体系的に学ぶことができる資格です。養成講座では、特に、傾聴を基本としたカウンセリング技術を、体験学習やロールプレイを通じて身に着けることができます。労働者の心のケアはもちろん、キャリア形成や職場環境改善といった広い視野で職場におけるメンタルヘルス課題に対応する力を養うことができます。
また、保健師として労働者や組織のメンタルヘルスを支えるだけでなく、自身のスキルアップやキャリア形成にも繋がる学びとなるので、産業保健の現場でより専門性を高めたい方や面談力・傾聴力を磨きたい方にとって有益な資格となるでしょう。
<参考>
1)過労死等に関する労災・公務災害の補償状況|厚生労働省
2)産業カウンセラーとは|一般社団法人日本産業カウンセラー協会
3)教育訓練給付金|厚生労働省