特殊健康診断とは~健康に有害な業務に従事する労働者のケアについてご紹介
健康に有害な業務に従事する労働者に、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断として、特殊健康診断が挙げられます。事業場における化学物質管理は、従来の法令準拠型から、自律管理型へと大きく変換され、事業場だけでなく、労働者一人ひとりのヘルスリテラシーの向上が求められています。労働者自身が、取り扱う物質や実施する業務の危険性・有害性を理解し、安全かつ健康に業務をすることが必要であり、そのためにも啓発活動が重要です。
今回は、健康に有害な業務に従事する労働者のケアについてご紹介いたします。
【目次】
1.特殊健康診断とは?目的、一般健康診断との違い
2.現場でのお困りごと~特殊健康診断対象者の把握
3.取り扱う物質の危険性や有害性を知る~啓発活動
1.特殊健康診断とは?目的、一般健康診断との違い
特殊健康診断とは、健康に有害な業務に従事する労働者に、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断のことです。
目的
特殊健康診断は、下記の3つの目的で実施されます。
① 職業性疾患を早期発見して早期治療に結び付けること
② 有害要因へのばく露の程度を評価し、健康障害リスクを低減させるために作業環境や作業方法の改善に活かすこと
③ 個別の労働者について、就業場所の変更、作業の転換、労働時間等の短縮を講ずること
一般健康診断との違い
すべての労働者が実施対象となる一般健康診断とは異なり、特殊健康診断は、健康に有害な影響のある特定の業務に従事している労働者が対象となります。
特殊健康診断は、法令に基づくものと、行政指導によるもの、そして事業者が自主的に行うもの があります。
特殊健康診断の健診項目
特殊健康診断の実施においては、医学的な診察や検査を行うだけでなく、労働者毎の暴露情報を把握する ことも重要です。健康診断の実施において、業務歴の調査、作業条件・作業状況の調査、生物学的モニタリングや個人ばく露測定、作業環境測定の結果などを把握しておきましょう。
特殊健康診断の検査項目は、その作業の種類ごとに、健康影響の有無を把握できる診察項目・検査項目などが法令によって定められています。
リスクアセスメント健康診断
リスクアセスメント健康診断とは、事業者による自律的な化学物質管理の一環として、 リスクアセスメントの結果などに基づき、健康障害発生リスクが高いと判断された労働者に対して、事業者の判断で実施するものです。健康診断の要否・健康診断の対象者・健康診断項目・健康診断の頻度なども、それぞれの事業者が、医師の意見を参考にして、自ら判断・決定する必要があります。
化学物質の自律的管理が段階的に進められ、事業者の責任で実施する対応が大幅に増えてきました。それぞれの事業場内で盤石な管理体制を構築することがさらに重要になってきます。
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2.現場でのお困りごと~特殊健康診断対象者の把握
特殊健康診断を実施する上で、健診対象者の把握に困ることはありませんか?
対象化学物質の把握や使用量の把握等、作業状況の管理が煩雑になり、対象者の把握が難しく、その選定に悩まれることが多いと思います。
さんぽLABには「お困りごとQ&A」というコミュニティがあります。
産業保健を実践する上で、日々のお悩みやお困りごとについて、ご質問いただける場となっております。今回は、特殊健康診断を実施する上での、実際の現場でのお困り事と、いただいたご回答例についてご紹介します。
特殊健康診断対象者の把握について(質問例より一部抜粋)
特殊健診対象者の把握は、ほかの事業所ではどのようにしているのか知りたいです。 「常時従事する労働者」とありますが、調べると、従事する時間や頻度が少なくても、定期的に反復される作業であれば対象とするとあります。 「常時」のとらえ方がまちまちなので、1回/月に少量1mlでも対象者とするのか、その基準はだれが、どのように決めているのか知りたいです。 |
回答例より一部抜粋
特殊健康診断の「常時従事する労働者」とは、業務に継続的に従事する労働者を指し、業務が定期的に繰り返される場合も含まれますが、公的な基準はなく、実際には事業所ごとに運用上の基準を設けていることが多いです。
厚生労働省によると、特殊健康診断において「常時従事する労働者」とは以下のように記載されています。
常時従事する労働者とは、「継続して当該業務に従事する労働者」のほか、「一定期間ごとに継続的に行われる業務であってもそれが定期的に反復される場合」も該当します。ただし、作業の常時性については、作業頻度のみならず、個々の作業内容や取扱量等を踏まえて個別に判断する必要があります。
社内で基準を決めるのが一般的
ただし、これに関する具体的な基準はなく、どの程度の期間や頻度で「常時」に該当するのかは示されていません。事業所ごとに、事業者の判断で基準を設けているのが一般的です。産業医・衛生管理者・化学物質管理者などが現場の状況を踏まえて議論した上で、安全衛生委員会にて審議して決定するプロセスを踏むと良いでしょう。理想的には、作業場所ごとにリスク評価を行い、科学的な知見を参考に基準を設けることが望ましいです。
リスクアセスメント結果に基づく化学物質管理が重要
有害業務の管理・化学物質の管理においては、労働者の暴露状況についてリスク評価を行った上で、暴露を防ぐための必要な対応をとる、という考え方が基本です。「特殊健康診断を実施しているから大丈夫」という考え方に頼ることなく、労働者の暴露状況についてリスク評価を行い、労働者が基準濃度を超えて暴露する可能性がある場合には、作業環境や作業方法の改善を行うことが重要です。
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3.取り扱う物質の危険性や有害性を知る~啓発活動
職場における化学物質管理は、従来の法令準拠型から、自律管理型へと大きく変換しました。
事業場には、安全衛生教育の拡充や強化が求められていますが、化学物質を取り扱う労働者には、その危険性や有害性を正しく把握し、適切に対応することが求められています。化学物質による健康障害を予防するためにも、効果的な啓発活動を実施することが重要です。
啓発とは「人々の気がつかないような物事について、教え、わからせること」を意味し、その目的は、安全と健康の確保のために、労働者そして組織に対して、「気付き」を提供し、「正しい知識」をもって行動してもらうことにあります。
ヘルスリテラシーを高める
ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手して、理解して活用する能力のことです。ヘルスリテラシーを高めることは、病気の予防や健康寿命の延伸にもつながるとして、日本全体で重要視されています。職域における啓発活動は、ヘルスリテラシーの向上とも直結しています。
健康行動~行動変容を促す
啓発活動の目的は、労働者本人に気づきを促し、健康的な行動を実践してもらうことです。産業保健の実践の場で活かすことができる健康行動理論として、下記が挙げられます。
【 健康信念モデル(Health Belief Model)】
健康信念モデルは、アメリカの心理学者ローゼンストック(Rosenstock IM)やベッカー(Becker MH)らによって提唱されたもので、人が健康に良い行動をとるために必要な条件を示しています。啓発活動を行う際は、これらの条件を意識すると行動変容につながる効果的な内容となります。
条件1:脅威・危機感の認識
罹患性の認識: このままでは病気や合併症にかかる可能性が高いと感じること
重大性の認識: 病気や合併症の影響が重大であると感じること(健康面・経済面・社会面等)条件2:メリットとデメリットのバランス
健康的な行動によるメリットが、デメリットより大きいと感じること
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