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啓発活動~ヘルスリテラシーを高める個人・組織へのアプローチ

啓発活動

職域で行う健康教育や健康管理に関する情報提供、すなわち「啓発活動」は多岐にわたる取り組みです。
職域における啓発活動は、産業保健活動の一環として労働者個人および組織のヘルスリテラシーを向上させる上で重要です。ヘルスリテラシーを高めることは、職場の生産性を向上させるためにも非常に有益です。
今回は「啓発活動」について理解を深めていきましょう。


目次

1.啓発活動とは、その目的
2.ヘルスリテラシーを高めるとは
3.健康行動~行動変容を促す
4.産業保健活動における啓発活動
5.まとめ


1 啓発活動とは、その目的


啓発とは「人々の気がつかないような物事について、教え、わからせること」を意味します。
事業場における啓発行動は多岐にわたります。その目的は、安全と健康の確保のために、労働者そして組織に対して、「気付き」を提供し、「正しい知識」をもって行動してもらうことにあります。
ただし、専門家が一方的に情報を提供するだけでは、効果的な啓発活動とは言えません。提供された情報や知識を、労働者が自らの経験と結びつけて理解し、自分事としてとらえることで、健康と安全に対する意識や行動が変化していきます。



2 ヘルスリテラシーを高めるとは


ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手して、理解して活用する能力のことです。ヘルスリテラシーを高めることは、病気の予防や健康寿命の延伸にもつながるとして、日本全体で重要視されています。職域における啓発活動は、ヘルスリテラシーの向上とも直結しています。

ヘルスリテラシーが高い人の行動の特徴

(具体例)

  • TVやインターネットの情報から、正確な情報や信頼できる情報を見分けられる
  • 健康的なライフスタイル、行動習慣を実践している
  • 適切ながん検診を受診し、異常所見があれば必要な検査を受ける
  • ストレスに対処するために、積極的に問題解決を図り、他者からの支援を求めることができる

ヘルスリテラシーが低い人の行動の特徴

(具体例)

  • TVやインターネットの健康情報に流されやすい
  • がん検診を受診したことがない
  • 健康診断で高血圧を指摘されているが病院を受診せず放置している
  • 薬を飲みたくないので糖尿病の治療を自己中断している
  • 周囲の人や専門家に自分の健康に関する心配事を伝えにくい



3 健康行動~行動変容を促す


啓発活動の目的は、労働者本人に気づきを促し、健康的な行動を実践してもらうことです。しかし、行動変容を促すことは簡単ではなく、頭を悩ますことが多いのではないでしょうか。

ここでは、実践の場で活かすことができる健康行動理論を2つご紹介します。

1. 健康信念モデル(Health Belief Model)

健康信念モデルは、アメリカの心理学者ローゼンストック(Rosenstock IM)やベッカー(Becker MH)らによって提唱されたもので、人が健康に良い行動をとるために必要な条件を示しています。啓発活動を行う際は、これらの条件を意識すると行動変容につながる効果的な内容となります。

(条件1)脅威・危機感の認識

  • 罹患性の認識: このままでは病気や合併症にかかる可能性が高いと感じること
  • 重大性の認識: 病気や合併症の影響が重大であると感じること(健康面・経済面・社会面等)

(条件2)メリットとデメリットのバランス

  • 健康的な行動によるメリットが、デメリットより大きいと感じること

2. 自己効力感(Self Efficacy)

自己効力感は、カナダの心理学者バンデューラ(Bandura A)によって提唱された社会的認知理論です。「ある行動をうまく行うことができる」という自信を指します。人は、ある行動が望ましい結果をもたらすと信じ、その行動をうまく行える自信があるときに、その行動を取る可能性が高まります。

自己効力感を高めるためのポイントは以下の4つです。
(1)成功経験: 過去に同様の行動をうまくできた経験があること
(2)代理的経験: 他人の行動を見聞きして、自分でもやれると思えること
(3)言語的説得:他者から「あなたならできる」と励まされること
(4)生理的・情動的状態: 心身をリラックスさせて落ち着いた状況になること

自信がない、やっても意味がない、と考えたときは、その行動をとらない傾向があります。産業保健専門職は、自己効力感を高め、労働者が健康行動を実践するよう効果的にアプローチすることが求められています。



4 産業保健活動における啓発活動


産業保健活動における啓発活動の具体例として、健康教育の展開方法について説明します。健康教育の展開方法

① 対象者

まず、対象者を十分に把握し、理解することが重要です。対象者の特徴(年齢層、性別、職位、労働状況、生活習慣など)を確認し、価値観、健康観、自己管理能力なども把握しましょう。すでに知っていることを説明するよりも、対象者のニーズに合わせた内容を提供します。

② テーマ・目的

テーマと目的は、対象者を十分に理解した上で事業場の健康課題と照らし合わせて決定していきましょう。情報の分析には下記データが役立ちます。

  • 健康診断データ
  • 健康相談、保健指導等の産業保健活動を通して得られる情報
  • 職場環境に関する報告書等

目的は、具体的かつ現実的に測定が可能なものに設定し、対象者が主体的に達成できるようにします。
テーマの設定は、季節ごとの健康問題や、事業場内のイベント、全国の啓発週間のタイミングなどに合わせると効果的です。テーマについて、産業保健専門職の意見と事業場のニーズが異なる場合もあるため、十分に意見交換を行なって方向性を整えていきましょう。

③ 方法

健康教育には様々な方法があります。個別教育としては、健康相談や保健指導、ストレスチェック後の面接指導の機会を利用する方法があります。
集団教育では、新人研修、管理職研修、そのほか、特定の健康課題に関する集合教育などの方法があります。また、社内報、リーフレット、ポスターなどを活用することで、多数の人を対象として実施することもできます。
費用がかかる場合には、利用できる予算があるかどうか事前に確認しておきましょう。また、翌年度の活動のために予算を申請しておくことも重要です。

④ 時期

対象者のモチベーションを高めるためにも、健康教育の時期については適切に設定していきましょう。繁忙期を避け、健康診断やストレスチェックの時期に合わせて実施すると効果的です。年間の事業場の活動計画やイベントの時期を考慮し、適切なタイミングで実施しましょう。

⑤ 評価

設定した目的・目標が妥当であったか、実施内容が効果的であったかを評価します。健康教育を1回行うだけでなく、実施後に、学んだ技術や知識を振り返る機会を設けることも効果的です。



5 まとめ


私たちの周りには、さまざまな健康情報があふれています。労働者のヘルスリテラシーを向上させるためには、対象者に合ったわかりやすい情報を提供することが重要です。産業保健専門職が日常的に使っている専門用語は、労働者には理解しにくいことがあります。さらに、近年増加している外国人労働者への多言語対応も重要です。

事業場には健康情報に関する認識や関心の度合いが異なる労働者が混在しています。事業場のニーズを把握し、効果的に啓発活動を実施することで、事業場全体のヘルスリテラシーを向上させ、健康度や生産性の向上に貢献していきましょう。

■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医


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■監修医師のご紹介


産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』


■参考文献


五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.
森晃爾(2010)看護職のための産業保健入門. 株式会保健文化社
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット_ヘルスビリーフモデル
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット_セルフ・エフィカシーを高めるポイント

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