さんぽLAB

記事

健康情報の取扱いと現場での実践ポイント~情報開示や法定外項目について解説

企業における健康経営への関心が高まり、産業保健の現場では、法定項目にとどまらず、様々な健康情報を取り扱う機会が増えています。しかし、健康情報の取扱いを誤ると、従業員に不利益を与えたり、企業と従業員間の信頼関係に影響を与えるリスクがあります。
今回は、健康情報の取扱いに欠かせない健康情報取扱規程の策定や、産業保健の現場で実際に起こる疑問や課題、その解決案について具体的にご紹介します。



【目次】
1.健康情報の取扱い~正しく出来ていますか?
2.就業配慮が必要?でも従業員の同意が得られない
3.法定項目外の項目に関する受診勧奨はどこまで実施する?


1.健康情報の取扱い~正しく出来ていますか?

多くの企業が健康経営に積極的に取り組むようになり、産業保健の現場では、法令で定められた情報だけでなく、法定外の健康情報も多く扱われるようになっています。

積極的に産業保健活動を行うと、私たちは様々な健康情報を収集することになります。しかし、従業員の健康情報は、扱い方によっては従業員に不利益を生じさせることがあります。また、それに伴い従業員と企業側、産業保健スタッフ間の信頼関係が壊れた際には、健康情報の取扱いが係争対象となってしまう場合もあります。

健康情報取扱規程とは?

2019年4月、働き方改革関連法の施行に伴い労働安全衛生法が改正されました。改正104条「心身の状態に関する情報の取扱い」という規程が新設されたことにより、企業では従業員の健康を管理するために「健康情報取扱規程」を策定することが義務づけられています。

取扱規程に定めるべき事項は、厚労省が発行する「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」基づき、原則として下記9点があげられています。

(1)健康情報等を取り扱う目的及び取扱方法
(2)健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲
(3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得
(4)健康情報等の適正管理の方法
(5)健康情報等の開示、訂正等の方法
(6)健康情報等の第三者提供の方法
(7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
(8)健康情報等の取扱いに関する苦情処理
(9)取扱規程の労働者への周知の方法

健康情報は、目的に沿った適切な取扱いが重要です。従業員が不安を抱くことなく、安心して自身の健康情報を提供できるよう、環境を整備することが求められています。

▼もっと詳しく知りたい方はこちら▼



2.就業配慮が必要?でも従業員の同意が得られない

産業保健スタッフが、従業員の健康情報を企業側に伝える際には、事前に従業員本人の同意を得た上で、情報連携を取ることが必要です。

就業上、何らかの配慮が必要とされたケースで、当事者となる従業員の方から、企業側への情報共有について同意が得られない場合があります。このようなケースには、どのようなポイントを押さえることが重要でしょうか。
さんぽLABの「お困りごとQ&A」コミュニティにいただいたご質問とご回答例をご紹介します。

同意が得られない健康情報の取扱い(質問例より一部抜粋)

安全配慮義務上、メンタル不調や低血糖のリスク、後遺症等により、職場環境の配慮が必要な場合があります。社員の健康情報を産業保健スタッフから上長などへ連携したいが、社員の抵抗感があり情報共有の同意が得られない場合、どのように対応されていますか?

回答例から一部抜粋

健康情報を第三者に提供する際

厚生労働省が公開している「事業場における労働者のための健康情報等の取扱規定を策定するための手引き」によると、労働者の健康情報を第三者に提供する際は、原則として、労働者本人の同意が必要です。
ただし、法令に基づく場合や、人の生命、身体および財産の保護が必要で、同意を得ることが難しい場合など例外も認められています。これは、個人情報保護法の運用と同じ考え方です。

本人や他の人の健康に危害が及ぶ可能性

質問にあるような、メンタル不調、低血糖のリスク、後遺症等においては、職場での適切な対応や就業上の措置が実施されない場合、本人や他の人の健康に危害が及ぶ可能性がある場合も考えられます。
例えば、自傷他害のリスクや、意識消失によって作業中の事故や災害が発生するリスク、高所での作業中の転落リスクなどが考えられます。そのような場面では、本人からの同意が得られない場合でも、健康と安全の確保のために情報提供を検討することが必要です。


▼お困りごとQ&Aはこちらをご覧ください▼ ※閲覧・投稿には会員登録が必要となります。



3.法定項目外の項目に関する受診勧奨はどこまで実施する?

健康診断は、実施をするだけでも、受診をするだけでもその効果は得られません。効果的な事後措置を実施することが従業員の就労を支援する上で重要です。事後措置として、法定項目だけでなく、法定外の項目についても、従業員へ受診勧奨を実施する場面があります。法定外項目の結果を企業が受け取った場合にも、安全配慮義務の観点から適切な事後措置が必要です。
ですが、実際の現場では、その情報をどのように取り扱ったら良いのか、迷う場面があります。法定項目外の受診勧奨に関して、さんぽLABの「お困りごとQ&A」コミュニティにいただいたご質問とご回答例をご紹介します。

法定項目外の受診勧奨(質問例より一部抜粋)

法定項目外の項目に関する受診勧奨はどこまで追っていますか?
弊社では、健康診断の結果、産業医の判断にて保健師から受診勧奨を行っています。今年から通常の受診勧奨に加えて、受診完了まで継続的に追う対象者についても産業医に依頼し選定いただくこととなりました。現状、産業医に選定いただいた「受診完了まで追う対象者」の多くが、法定項目外の内容が多い状況です。
皆様の事業所では、法定外項目においても受診が完了するまで継続して追うことはありますでしょうか?

回答例から一部抜粋

定期健康診断に法定外の項目を追加して実施する際、その結果の取扱いには以下の2つの方法があります。

会社が検査結果を受け取らない場合

もし会社が法定外の検査の結果を受け取らない場合、会社にはその結果に基づいた対応をする義務はありません。つまり、通常の健康診断後に行うような医師による結果の確認や、就業上の措置を行う必要はないということです。

会社が検査結果を受け取る場合

会社が法定外の検査の結果を受け取った場合、その情報に関する安全配慮義務が生じるため、社員の健康を守るための事後措置を行う必要があります。これは、法定の健康診断の結果と同じように、医師の意見を確認したり、必要に応じて受診を勧めたり、就業制限を行うことを含みます。また、検査結果を受け取る前に、その情報をどのように使うのかを社員に説明し、同意を得ることが大切です。

健診後の事後措置の対応については、法定の項目と法定外の項目で区別せず、社員の健康状態や仕事に与える影響を考慮して判断することが重要です。これらの対応については、産業医や産業看護職、衛生管理者、人事担当者と相談しながら、職場に合った方法を決めていくと良いでしょう。


▼お困りごとQ&Aはこちらをご覧ください▼ ※閲覧・投稿には会員登録が必要となります。






アドバンテッジお役立ちサービス


コメントする