はじめに
近年、産業保健の現場では求められる役割が広がり続けています。
健康診断後のフォローやメンタルヘルス対応だけでなく、職場環境改善、健康経営の推進、多職種連携など、さまざまな場面で専門性が期待されるようになりました。
そのため、「今後どのようなスキルを伸ばしていきたいか」を考えることは、日々の実践だけでなく、キャリア形成の観点からも重要なテーマといえるかもしれません。
今回は、さんぽLAB会員を対象に実施した「【投票結果】産業保健業務を進めるうえで、今後特に強化していきたいスキルはどれですか?」というアンケート結果をもとに、産業保健スタッフが今後伸ばしたいと考えているスキルの傾向や、現場での活かし方のヒントを整理します。
投票結果(概要)
期間:2026年4月18日~5月1日
投票数:62票
結果
- 組織への働きかけ・介入する力(職場改善など):30.6%
- 面談・カウンセリングの対応力(個別対応・傾聴など):25.8%
- データ活用・分析力(健診・ストレスチェックの結果活用など):17.7%
- 法令・制度の理解(労働安全衛生法・健康経営など):17.7%
- 社内調整・関係構築力(専門職・人事・現場との連携など):8.1%
各項目の傾向と対応のヒント
組織への働きかけ・介入する力(職場改善など)30.6%
最も多かったのは、「組織への働きかけや介入する力」でした。
従来の産業保健活動は個別支援が中心でしたが、近年は職場全体の課題に目を向け、病気や課題の再発防止や環境改善につなげることを期待される場面が増えているようです。
ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場改善や、健康課題を踏まえた組織への提案などは、その代表例といえるでしょう。
対応のヒント
- 面談や職場巡視で見つかった課題について、個人への支援で解決できる問題なのか、職場全体の仕組みや環境の問題なのかを整理して考える
- ストレスチェックの集団分析結果や休職者数の推移、他社事例などを活用しながら、職場改善の必要性や具体策を提案する
- 会議時間の見直しや休憩取得の促進など、取り組みやすい改善から始め、成果を積み重ねながら組織全体の改善につなげる
面談・カウンセリングの対応力(個別対応・傾聴など)25.8%
約4人に1人が選んだのが、「面談・カウンセリングの対応力」です。
従業員の健康相談や保健指導、復職支援など、個別対応は産業保健活動の基盤ともいえる業務です。近年はメンタルヘルスに関する相談も増えており、傾聴や信頼関係構築の重要性を感じている方も多いのではないでしょうか。
対応のヒント
- 相手が安心して話せるよう、不安や困りごとの背景も含めて丁寧に聴くことを意識する
- すぐに解決策を提示するのではなく、相手自身が状況を整理できるよう質問や対話を重ねる
- 面談ロールプレイや傾聴、動機付け面接などの研修を活用し、実践的な面談スキルを磨く
データ活用・分析力(健診・ストレスチェックの結果活用など)17.7%
同率で選ばれたのが、「データ活用・分析力」です。
健康診断結果やストレスチェック結果、休職・復職データなどを活用し、職場の健康課題を可視化する取り組みが注目されています。
感覚だけではなく、客観的なデータをもとに施策を検討することが求められる機会も増えているようです。
対応のヒント
- 健診結果やストレスチェック結果を年ごと・部署ごとに比較し、リスクが高まっている傾向がないか確認する
- 有所見率や高ストレス者率、受診率などをグラフ化し、経年変化や部署間の違いを見える化する
- 分析結果をもとに、受診勧奨の強化や職場改善、健康教育の実施など具体的な施策につなげる
法令・制度の理解(労働安全衛生法・健康経営など)17.7%
「法令・制度の理解」も多くの支持を集めました。
産業保健業務は、労働安全衛生法をはじめとする法令に基づいて実施されます。また、健康経営や両立支援など、新しい取り組みへの関心も高まっています。
制度改正やガイドラインの更新に対応するため、継続的な情報収集が重要になっていると考えられます。
対応のヒント
- 労働安全衛生法や厚生労働省のガイドライン改正情報を定期的に確認し、自社の運用に影響がないか確認する
- 法改正や健康経営、両立支援などをテーマにした研修会や勉強会へ参加し、最新情報を収集する
- 長時間労働者への面接指導やストレスチェック、復職支援などの日常業務と法令上の根拠を結び付けて理解する
社内調整・関係構築力(専門職・人事・現場との連携など)8.1%
割合としては最も少なかったものの、産業保健活動を円滑に進めるうえで欠かせないスキルといえるでしょう。
産業医、保健師、人事労務担当者、衛生管理者、管理職など、多様な関係者との連携が必要となるため、専門知識だけでは解決できない場面も少なくありません。
対応のヒント
- 産業医、人事労務担当者、管理職など、それぞれの立場や求められている役割を理解したうえでコミュニケーションを取る
- 従業員の健康保持増進や安全配慮などの共通目標を確認しながら、関係者との認識をすり合わせる
- 衛生委員会や定例ミーティングなどを活用し、日頃から相談や情報共有がしやすい関係を築く
今後の展望
今回の結果からは、個別支援に必要な面談スキルだけではなく、組織への働きかけやデータ活用など、より広い視点で産業保健活動に取り組みたいと考えている方がいらっしゃる様子がうかがえました。
一方で、どのスキルにも優劣があるわけではありません。現場で直面する課題や担当業務によって、必要となる力は変わることがあります。
大切なのは、
- 自分の強みを知ること
- 今後伸ばしたいスキルを明確にすること
- 学びを実践につなげること
ではないでしょうか。
産業保健を取り巻く環境は今後も変化していく可能性があります。自身の専門性を磨きながら、新しい知識やスキルを取り入れることで、従業員や組織に対してより良い支援ができるようになるかもしれません。






