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HPVワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み~産業保健スタッフにできること~

子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染することが原因であり、予防が可能ながんです。
HPVワクチンについて、日本では様々な課題があります。
本記事では、子宮頸がんワクチンについての日本における問題と今後、世界の動き、産業保健スタッフとしてできることについて説明します。

※本記事は2023年8月23日(水)に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
③HPVワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組みとまとめ【女性が活躍できる職場づくり 産業医にできる支援とは?】


【目次】
1.ワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み
2.日本での子宮頸がんワクチンの副反応問題
3.子宮頸がん排除に向けての世界の動き
4.日本における今後のワクチン接種について
5.職域においてワクチン接種勧奨のために産業保健スタッフができること


1.ワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み



HPVワクチン接種による子宮頸がん排除の取り組み

子宮頸がんは、女性がなるがんのなかで、世界的には2番目に多いがんです。
世界中で、子宮頸がんを排除するための取り組みとしてHPVワクチン接種が勧められています。

子宮頸がんの大部分は、HPVウイルスが子宮頸部に感染することが原因とされており、性交渉の経験のある女性のほとんどが感染するといわれている身近なウイルスです。

世界的には、2007年からHPVワクチンの接種が開始され、現在は100か国以上で定期接種ワクチンとなっています。HPVワクチンを積極的に接種している国では、ワクチン接種を受けた世代の女性において子宮頸がんの発生率が90%減少しており、非常に効果があるワクチンといえます。



2.日本での子宮頸がんワクチンの副反応問題

日本では、世界から6年ほど遅れて2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されましたが、接種部位以外の体の広い範囲で持続する疼痛等が報告され、その疼痛についてメディアが積極的に報じたことで、厚生労働省がHPVワクチン接種の積極的な勧奨をやめてしまいました。

現在は、定期接種とはせず希望者には無料で接種できるようになっています。ただ、積極的な勧奨はしないため、市町村からクーポンを配布するといったようなことは実施しなくなりました。

2015年には、名古屋大学がHPVワクチンと副反応の因果関係について大規模な調査を実施し、因果関係なしという結果が出ていますがこれについてはメディアはほとんど報告しませんでした。

日本では積極的な勧奨を控えて約10年たちましたが、子宮頸がんに年間1万人が罹患して3000人近くが死亡しています。
このような因果関係がないといったデータが出ても、積極的な勧奨を再開するにはかなりの時間を要しているのが現状です。


社会・文化的性差としての課題

日本での定期接種の再開において、一番課題となっているのがWHOが提唱しているワクチン接種ストレス関連反応といわれる概念です。

ワクチン接種ストレス関連反応とは、接種前、接種時、接種直後にみられる急性反応接種後の遅発性反応があります。

【急性反応】
頻脈、息切れ、口渇、手足のしびれ、めまい、過換気、失神等

【遅発性反応】
脱力、麻痺、異常な動き、不規則な歩行、言語障害等の解離性神経症状的反応

ワクチン接種後においては、ワクチン接種が直接的な原因ではない事象(有害事象)と副反応を区別して評価することが重要です。

厚生労働省祖父江班による全国疫学調査において、「多様な症状」がHPVワクチンを接種していない女子にも認められることが明らかとなっています。
さらに名古屋スタディーにおいても、多様な症状が、接種者が非接種者と比べて多いわけではないということを示しています。
つまり、HPVワクチンの成分と多様な症状の因果関係は証明されていません。



3.子宮頸がん排除に向けての世界の動き



子宮頸がん排除のせかいの動き

2019年に、子宮頸がん排除に向けた世界戦略をWHO事務局が策定するという大きな動きがありました。
そしてこのWHO事務局が策定する決定を70か国以上が支持しています。

つまり、子宮頸がんは排除できるものであるということです。

子宮頸がんの罹患率は、地域によって罹患率が大きく異なり公衆衛生において脅威とされています。下記は、子宮頸がんの全年齢に対する年齢罹患率の推計です。
先進国でも、早くワクチン接種が国費で実施されるようになった国は、10万人あたりの罹患率がかなり少ないことがわかっています。それに比べて日本は、先進国にも関わらず罹患率が高い状況です。




下記は、世界各地・各国の子宮頸がん罹患率の違いです。




日本は、14.7%となっています。
欧米はかなり少なくなっており、先進国としては悲しい結果と言わざるを得ません。

WHOは、すでに子宮頸がんがない世界を思い描いていて、子宮頸がん排除のための構造が確立されています。




WHOは、2030年の介入目標を立てています。
少女が15歳までに既定のHPVワクチン接種を90%にするとされていますが、日本は積極的勧奨をやめたあとのワクチン接種率は数%です。今後、90%まであげていくためには、今後の活動が非常に重要となります。



4.日本における今後のワクチン接種について

日本では、2022年4月に積極的勧奨が再開されています。
今まで情報が届かなかった可能性がある方へ、キャッチアップ無料接種制度も設けられました。
2023年4月には、9価HPVワクチンの定期接種化と図中にある対象年齢の女性に対して無料キャッチアップ接種も開始されました。9価のほうが、今まで認可されていた2価と4価と比べてカバーできる範囲は広いことが知られています。


積極的接種勧奨の再開

5.職域においてワクチン接種勧奨のために産業保健スタッフができること

ワクチン接種勧奨のために、専門職としてできることとして、実際に行われた4つの事例をご紹介します。

  • 入社時の健康診断で子宮頸がんワクチンの接種歴を確認し、接種歴のない方に産業保健スタッフが個別に勧奨する
  • ワクチン接種対象者の子供をもつ社員と産業保健スタッフで座談会を開催して、社内イントラでアップして考える機会を提供する
  • 健康保険組合とタイアップして対象年齢の女性従業員を集めた衛生講話を社内で実施し、近隣の接種可能な医療機関を紹介する
  • 労働組合と産業保健部門がタイアップして従業員に対するHPVワクチンの情報提供・接種勧奨を実施する

これらの活動は、誰かがやろうと思わないと動きません。
ご自身の事業所でできることを考えていただき、実施していただけたらと思います。





講師


大津真弓先生

産業医科大学卒業(2002年)
双子の妊娠・出産を機に独立
北関東で産業保健サービスを展開中
自治医科大学大学院 医学研究科 博士課程修了(2017年)


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