産業保健スタッフが知っておきたい「ワーカーウェルビーイング」とは? 〜測定と実践への活用方法を解説〜
近年、官民問わず注目が高まる「ウェルビーイング」。特に働く人に焦点を当てた「ワーカーウェルビーイング」は、職場の健康づくりや人材戦略に欠かせない視点です。本記事では、学術論文の要点をもとに、ワーカーウェルビーイングの定義・測定方法・実務への応用について、産業保健スタッフ向けに分かりやすく解説します。
1. ワーカーウェルビーイングとは? 〜3つの枠組みで理解する〜
ワーカーウェルビーイングとは、働く人の健康や満足度、成長実感といった要素を総合的に捉える概念です。以下の3つの枠組みを中心に構成されています。
- 主観的ウェルビーイング:生活満足度やポジティブな感情など、幸福感に関する主観的評価。
- 心理的ウェルビーイング:自己受容や人生の目的など、個人の発達や内面的な充足感に関する側面(例:Ryffの6因子モデル)。
- 職場ウェルビーイング:仕事への満足度、能力発揮の実感など、働くことに関する感情や評価。
このように、ワーカーウェルビーイングは単なる「気分の良さ」ではなく、心理的充実や職務体験も含んだ多面的な概念です。
さらに、ウェルビーイングの哲学的な枠組みとして以下の2つがあり、測定・評価においても参考になります。
- ヘドニック・アプローチ:快楽や幸福感などの「心地よさ」を重視。
- ユーダイモニック・アプローチ:自己実現や人生の意義など、「人間らしい成長」に重きを置く。
論文では、心理的ウェルビーイングやワークエンゲージメントをユーダイモニック、それ以外をヘドニックに分類しています。
2. どうやって測る? ワーカーウェルビーイングの評価方法
ウェルビーイングを測定するには、以下の観点から指標を選定する必要があります。
◯ 測定の「邪魔さ」で分類
- 邪魔にならない指標:SNS投稿や公開映像など、自然に収集できるデータ。
- 反応ベース指標:アンケート等、本人の自己報告に基づくもの。
- 観察ベース指標:第三者評価や生理データ(血圧・唾液・ウェアラブル端末など)を用いるもの。
◯ データの種類で分類
- クローズド質問:選択肢形式のアンケートなど。
- 言語データ:自由記述や発言内容。
- 行動データ:勤怠や業務ログなどの行動記録。
- 生理データ:心拍数やストレスホルモン測定など。
実務では、対象者の負担感や取得しやすさを踏まえて、目的に合った方法を組み合わせて活用するのが現実的です。
3. 測定指標を選ぶときの注意点
ワーカーウェルビーイングの測定においては、研究的視点だけでなく、現場での実用性も重要です。指標選定に関するチェックリストから、特に産業保健の現場で役立つポイントを抜粋します。
■企業としての戦略的な目的と連動しているか
ウェルビーイング向上が経営方針と結びついていると、社内導入がスムーズになります。
■調査のタイミングに配慮する
組織変革期や評価制度の見直し時など、効果的なタイミングで実施すると、施策との連携がしやすくなります。
■対象者の納得と同意を得る
「何のために測るのか?」を明確に伝え、納得した上で同意を得ることが、データの信頼性向上につながります。
■直感的に理解できる指標を選ぶ
複雑な内容であっても、丁寧な説明や説明会の実施が重要です。
■モニタリング方法の透明性を確保する
対象者が「監視されている」と感じないよう、取得方法の明示とプライバシー保護に留意しましょう。
4. まとめ:ウェルビーイング測定は実務にも活かせる
ワーカーウェルビーイングは、従来のストレスチェックや満足度調査とも重なる要素を持ち、多くの企業ですでに活用可能な知見が蓄積されています。
産業保健スタッフとしては、エビデンスに基づく健康施策を進めるうえで、ウェルビーイングの概念と測定方法を理解することが重要です。対象者への配慮を忘れず、組織の目的に合った指標を選定・活用していきましょう。
出典
アドバンテッジJOURNAL
働く人のウェルビーイング研究の現在:ワーカーウェルビーイングとは?【論文解説(全訳付き)】
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