視覚障害者の就労支援 視覚の多様性と合理的配慮
2016年に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が2021年に改正され、事業者による障害者への「合理的配慮」の提供が義務化されました。
法定雇用率は段階的に引き上げられ、誰もが働きやすい環境を整える重要性がますます高まっています。
本記事では、視覚障害についての知識と、視覚障害を抱える人が働きやすい職場となるための、本人や組織に対する働きかけについて、ポイントを解説します。
目次
1. 視覚障害とは
視覚障害者は全国に約30万人いるといわれています。
視覚障害といっても、その原因や見えにくさは様々です。
視覚は、視力、視野(ものが見える範囲)、色覚(色の識別機能)、光覚(光の程度を感じる機能)に分けられます。
身体障害者福祉法においては、このうち視力と視野について障害があり、眼鏡やコンタクトを着用しても一定レベル以上の視力がでなかったり、視野が狭くなる状態を視覚障害といいます。現在は障害者手帳交付の対象とはなっていませんが、色覚や光覚の障害もあり、就労するうえで何らかの困りごとを抱えている方も多くいます。
また、視覚障害の多くは先天的ではなく、何らかの怪我や疾病などによって視覚障害となる中途視覚障害者が多く、視覚障害者の約70%が、65歳以上の高齢者だといわれています。
視覚障害とひとことでいっても、その見え方や見えにくさは様々です。見えにくさの要因がひとつだけのことも、複数持っていることもあり、その見え方や困りごとは人によって異なります。
2)視覚障害の種類
■視力の障害
眼鏡やコンタクトレンズ等を利用しても、一定以上の視力がでない状態をいいます。
■視野の障害
視野の障害には、全体的に見える範囲が狭まる「視野狭窄」、部分的に見えないところがある「暗点」、視野の半分が欠ける「半盲」などがあります。
■色覚の障害
色覚の異常は、多くの人と見え方が異なる状態をいいます。特定の色を識別しにくいことがあります。人によって、色の見え方は異なっており「色覚の多様性」と呼ばれることもあります。
■光覚の異常
光に過敏になりまぶしさが強くなったり、暗いところで見えにくい夜盲症などがあります。
これらのほか、視機能に問題を生ずるものとしては、眼球が揺れる眼球震盪や、ものが二重に見える複視、画像や文字がゆがんだり大きく(小さく)みえる変視症などがあります。
2)全盲と弱視(ロービジョン)
全盲とは、医学的には光も感じない状態のことです。
弱視(ロービジョン)とは、全盲ではない視覚障害全般を指します。何等かの原因により視覚に障害をうけ、「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲がせまくて歩きにくい」などの日常生活での不自由さをきたしている状態です。
■社会的弱視(教育的弱視)
現在の治療手段で改善が期待できない視覚機能の障害があるために、長期にわたり日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態のことです。
■医学的弱視
視力の発達が障害されておきた低視力のことであり、眼鏡をかけてもよく見えない状態のことをいます。早期発見ができれば治療により視力の改善が期待できます。
視覚障害というと、「全盲」をイメージする人が多い傾向にありますが、視覚障害者のうち、全盲よりも弱視の人のほうが多く、その見え方は様々です。
視覚に障害がある人に対し、視覚に障害がない人のことを、晴眼者(せいがんしゃ)といいます。
2. 視覚障害者の特性と合理的配慮の具体例
1)合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮のことです。
2024年4月、障害者差別解消法の改正に伴い、事業者に対して合理的配慮の提供が義務化されました。
職場における合理的配慮は、雇用契約における職務においてパフォーマンスを発揮するために必要かつ合理的な配慮といえます。
2)合理的配慮を実施する際のポイント
本人の特性についてまずは情報を収集します。
本人が特性を理解している場合は本人から、本人の理解が乏しいなど必要時は、主治医や支援機関、家族などと連携して確認するようにしましょう。その際に確認した情報は、書面に残すようにしましょう。
社外の人と連絡を取る場合は、必ず本人に同意を得たうえで、人事担当者とも連携するようにしましょう。
特性を確認したうえで必要な配慮事項を、人事担当者、上司などの職場の担当者、産業保健スタッフなどの関係者で調整します。苦手なことだけでなく得意なことについても情報収集し、本人の特性が活かせる工夫をするようにしましょう。
これらを調整する際には、関係者間で建設的な対話を重ねることが非常に重要です。
3)合理的配慮の具体例
人によって、見え方や困りごとは異なるため必要な配慮も異なります。最も重要なことは、本人と相談して、本人が必要な情報を入手できる環境を整えることや、気軽に質問や相談ができる雰囲気づくりをすることです。
※1 アクセシビリティ(accessibility)は、近づきやすさ、利用しやすさ、便利であることなどという意味です。情報通信機器が広く活用される現代において、障害者や高齢者を含め、すべての人が円滑に機器やサービスを利用できる情報アクセシビリティが求められています。 ※2 ユニバーサルデザインの考え方に基づき、年齢、性別、障がいなどに関係なくできるだけ多くの人が快適に利用できるように作られているフォントです。アクセシビリティの観点から、その積極的な活用が推奨されています。 ※3 公平性、単純性、自由度、わかりやすさ、安全性、体への負担の少なさ、スペースの確保などの7原則に基づいて、年齢や障害の有無、国籍に限らず社会で生活するいろいろな人によって使いやすいように、施設や物などをデザインしようという考え方です。 |
3. 社会資源の活用
1)ロービジョンケアとの連携
視覚障害があっても、視機能が少し保持されているケースは多くあります。ロービジョンケアとは、その保持されている視機能を最大限に活用し、できるだけ快適な生活を送れるようにするための全ての支援の総称です。医療的なケアから、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的ケアまで広い範囲にわたる支援を意味しています。
その人の状態にあったケアが受けられるように、主治医を通じて必要な支援機関の情報提供を受けることも重要です。産業保健スタッフは、対象となる労働者や職場のニーズを把握し、主治医と連携する役割を担います。
2)リハビリテーションの活用
視覚障害を抱えた方が休職から復職したり、異動したりする際に、通勤訓練や歩行訓練を活用している事業場もあります。
生活訓練以外にも職業訓練を実施している職業訓練機関もあります。
勤務している従業員が、視覚に異常をきたし、今までの業務の遂行が困難になった場合に利用できる在職者を対象にしたコースや、新規採用者のために研修として職業訓練を活用している事業場もあります。
主治医を通じて必要な支援機関につながれるよう、産業保健スタッフがサポートすることも重要です。
3)支援機関の活用
本人からの相談はもちろん、必要な配慮を実施するために、事業場の相談にも応じてくれます。機器の貸し出しやリハビリ、訓練などについても情報を得ることができます。
- 高齢・障害・休職者雇用支援機構(JEED)
- 地域障害者職業センター
- 生活支援施設、各種医療機関
- 点字図書館、点字出版書
その他、一定の条件を満たす場合、障害者雇用を促進するための助成金や制度などを活用できます。
4. まとめ
視覚障害とひとことで言っても、見え方や困りごとはそれぞれです。障害者認定を受けていない方も多くいらっしゃいます。
少子高齢化が進む日本において、多様な人材が働きやすい職場を作ることは企業にとって必要不可欠といえます。
産業保健スタッフには、障害の有無にかかわらず、誰もが働きやすい環境を整えていくために、事業場や労働者を支援していくことが求められます。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考資料
1) 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構|視覚障害者の職場定着推進マニュアル
2) 函館視力障害センター|視覚障害支援ハンドブック
3) 国立障害者リハビリテーションセンター|視覚障害者の理解のために
4) 川崎市総務局|公文書作成におけるカラーUDデザイン
5) 日本老年医学会雑誌 2014;51:336―341|高齢者の視覚障害への対応,ロービジョンケア