
近年の猛暑の常態化により、企業における熱中症対策は重要な安全衛生課題となっています。とくに実務担当者にとっては、「対策を検討すること」に加え、「企業として現場で確実に実行される状態をどうつくるか」が求められる段階に入っています。
2026年4月15日にさんぽLABで実施したウェビナー「職場での実践的な熱中症対策」の申込時アンケートにて、産業医や保健師等の産業保健職の皆さんへ「現在力を入れている熱中症対策」と「現状の課題」について伺いました。そこから見えてきたのは、多くの企業がすでに対策を講じている一方で、運用や行動面に課題が集中している実態です。
アンケート結果から、産業保健の現場で力を入れている熱中症対策と課題についてお伝えします。
目次
1. 現場で力を入れている主な熱中症対策?
現場で力を入れている主な熱中症対策
まず、現在多くの企業が実施している熱中症対策は以下の通りです。
■ 基本的な予防対策
・水分補給・塩分摂取の徹底
・塩タブレットや経口補水の活用
・こまめな休憩の設定
・作業前の体調確認
■ 環境・設備面の対策
・空調設備・スポットクーラーの導入
・空調服・ファン付きウェアの活用
・工場内の遮熱対策
・クーリングルームの設置
■ 管理・ルール整備
・WBGT(暑さ指数)による作業時間管理
・発生時の連絡体制・対応フロー整備
・ポスターや社内報による注意喚起
■ 近年増えている取り組み
・暑熱順化の推進
・プレクーリングの実施
・アイススラリーの導入検討
・ウェアラブルデバイスによる体調の見える化
このように、企業における熱中症対策はすでに多層的に進められていることが分かります。
2. 現状の課題
現状の課題①:「対策しているのに防げない」
最も多く見られたのが、「対策はあるが機能していない」という課題です。
具体的には、
・周知しているが、現場で実践されていない
・社員ごとに理解度や行動に差が見られる
・毎年同じ内容の繰り返しで効果が見えない
・実際にどこまで守られているか把握できない
といった声が寄せられています。
これは、熱中症対策の課題が「施策不足」ではなく、実行・浸透の問題へと移行していることを示しています。
現状の課題②:健康意識の変化の難しさ
さらに、従業員の行動に関する課題も顕著です。
■ よくある行動上の問題
・「まだ大丈夫」と無理をしてしまう
・症状が出てから相談に来る
・水分を十分に取らない
・健康意識に個人差がある
また、
・熱中症の発生が報告されにくい
・不調を自己申告に頼らざるを得ない
といった声もあり、個人の判断に依存しているリスクが浮かび上がっています。
現状の課題③:現場環境による制約
業種・職種による制約も大きなテーマです。
■ 環境的に対策が難しいケース
・屋外作業(建設・インフラ)
・高温多湿の工場内
・空調が使えない現場
・高齢者宅への訪問業務
■ 運用上の制約
・作業都合で休憩が取りにくい
・現場が分散し管理が行き届かない
・拠点ごとに設備差がある
このような状況では、「理想的な熱中症対策」をそのまま適用することが難しく、現場ごとの最適化が必要とされています。
現状の課題④:組織としての推進の壁
アンケートからは、組織的な課題も明らかになっています。
・経営層の理解が十分でない
・予算の制約により対策が限定的になる
・教育が末端まで浸透しない
・担当者やルールが明確でない
さらに、「やり尽くしている感がある」という声もあり、
次の改善施策が見えにくい状態にある企業も少なくありません。
3. これからの熱中症対策で重要な視点?
これからの熱中症対策で重要な視点
これらの課題を踏まえると、今後の熱中症対策は以下の3点が重要です。
① 行動を変える仕組みづくり
・飲水や休憩を“習慣化”する仕組み
・見える化による危機認識の共有
② 現場に合わせた対策設計
・業種・業務ごとの対策の最適化
・高リスク作業者への重点対応
③ 個人依存から組織管理へ
・データやデバイスの活用
・報告・対応フローの明確化
・管理の標準化
まとめ:熱中症対策は「運用改革」のフェーズへ
今回のアンケートから見えてきたのは、企業における熱中症対策が、「やるか・やらないか」ではなく「どう機能させるか」という段階に入っているという事実です。
熱中症対策は単なる季節施策ではなく、労働安全・健康経営に直結する重要テーマです。
産業医・保健師・衛生管理者には今、
行動・現場・組織をつなぐ設計力が求められています。
今年の取り組みを“繰り返し”で終わらせず、
一歩踏み込んだ対策へと進化させることが重要です。