「産後うつ」と職場復帰の壁。企業が取り組むべきサポート3選
近年、社会で活躍する女性が増え、ワーママとして仕事も育児も頑張っている女性が多くなりました。しかし、産後は慣れない育児や職場復帰などのストレスによって、産後うつに陥ってしまう女性もいます。そのため、女性が育休復帰した後も安心して活躍できる環境を、事業所は整えることが大切です。
この記事では、「産後うつ」と職場復帰について詳しく解説していきます。産後うつにより、職場復帰のストレスを感じている労働者に対して、どのような支援をすべきかを考えている産業保健師や人事担当の人は、ぜひ参考にしてみてください。
<目次>
1.産後うつとはどのようなもの?
2.産後うつの原因
3.職場復帰のために事業所ができる3つの支援
4.まとめ
1.産後うつとはどのようなもの?
「産後うつ」とは、出産後に心身が不安定な状態になることを言います。産後は育児に ストレスがかかりやすく、子どもの夜泣きなどから不眠に陥ったり、気分の落ち込みが激しくなったりするケースが少なくありません。
産後うつの主な症状としては、
- 食欲低下
- 体重減少
- 全身の倦怠感
- 不眠
- 気分の落ち込みや憂うつ感
などが挙げられます。
産後うつは、軽度なものから重篤なものまで個人差がありますが、一般的なうつ病と同じ症状が現れるため、適切な治療を受けることが大切です。
■産後うつの発生時期
産後うつは、育児疲れというだけでは説明ができない状態が、産後1か月以内に生じることが多いと言われています。つまり、ワーママの場合は育休中に産後うつを経験するケースがめずらしくないのです。
また、産後うつを抱えるワーママは日が経つにつれ、職場復帰への焦りを感じることが多くなりがちです。「このままの状態でちゃんと仕事ができるのだろうか」「上司や同僚に迷惑をかけたくない」などという不安を感じる場合もあるでしょう。このように職場復帰について強く意識すると、うつ状態が悪化するケースも少なくありません。
さらに、産後うつは職場復帰後に発症するケースも存在します。なぜなら、産後うつは出産後1年程度が経ってから生じることもあるからです。「育休を終えたので、もう体調は万全だ」と思う人もいるかもしれませんが、職場復帰後も体調には注意して働くと良いでしょう。
■産後うつの回復期間について
産後うつの回復期間は6か月~1年が一般的だと言われています。しかし、長い場合は2年以上続く人もいます。つまり、症状が残った状態で復職すると、状態がより悪化する可能性が高いのです。
そのため、一般的に定められた育児休暇の期間に合わせるのではなく、個人の心身の状態を見ながら職場復帰の時期を検討することが大切です。仮に、職場復帰の時期を誤ると、仕事の量やストレスなどが影響し、産後うつの回復が遠のくケースも否めません。
2.産後うつの原因
産後うつは、10人に1人が経験すると言われており、産後うつになる原因にはいくつかの理由があります。産後うつの原因としては主に、
- ホルモンバランスの乱れ
- 環境の変化
- 育児への不安
の3つが挙げられます。以下に、ひとつずつ説明していきましょう。
①ホルモンバランスの乱れ
女性の体は、ホルモンバランスや月経などのサイクルによって、体調が大きく変化します。中でも、出産後は女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が急激に減少すると言われており、ホルモンバランスが大きく乱れるため、メンタルヘルスに影響を及ぼします。
また、授乳による身体へのホルモン変動の影響も大きく、それによって自律神経が乱れ、気分が落ち込みやすい状態へつながる場合もあると考えられています。
②環境の変化によるもの
これまで、仕事を真面目に取り組んできた女性が、出産を機に育児に専念し、毎日子どもと向き合っていると、社会から取り残されたような感覚に陥ることもめずらしくありません。特に、生後1か月以内は外出もままならない場合が多いため、自分自身の睡眠時間や息抜きが思うようにいかず、精神的に追い詰められるケースがあるのです。
また、働いていた時よりも体力がグッと落ちてしまうこともあり、育休復帰した後に以前のように働けるかという不安を感じるワーママもいます。
③育児への不安
例えば、実家から遠くに住んでいたり、まわりに育児をサポートしてもらえる環境が整っていなかったりする場合は、育児をする中で不安が募り「産後うつ」を発症してしまうケースがめずらしくありません。
特に、パートナーが仕事で忙しく、なかなか夫婦でゆっくり話せる時間が作れない家庭では、女性にばかり育児の負担が大きくなることもあるでしょう。このようなストレスが溜まりやすい状況が、産後うつの引き金になる場合があります。
3.職場復帰のために事業所ができる3つの支援
産後うつは出産を経験した女性なら、誰でも陥る可能性があります。さまざまな事業所では、今後も産後の女性が数多く活躍していくことでしょう。そのため、「産後うつ」を発症した労働者の育休が明けても安心して職場復帰できるように、事業所は積極的に復職支援に力を入れることが大切です。
Ⅰ.職場復帰した労働者と面談する機会を設ける
産後うつを経て育休から復帰した女性は、休んでいる間に迷惑をかけた分を何とか取り戻したいという思いから、無理をして仕事をしているケースが良くあります。しかし、職場では、直接上司や同僚などに悩みを相談できる時間がない場合が多いため、1人で抱え込んでしまう女性が少なくありません。
そのため、産業保健師や人事担当者は、ストレスや疲労がメンタルヘルスに影響する点について、現場の上司などに説明し、理解を求めることが大切です。また、実際に本人と面談する機会を設け、体調やメンタルの状態などをゆっくり話せる環境を整え、復職支援をすることも重要だと言えるでしょう。
こうした取り組みによって、どのような働き方が合っているかなどの本人の希望を聞けますし、職場全体で「産後うつ」を予防する意識を持つことも可能になります。
Ⅱ.本人の意向を聞きつつ勤務環境を整える
事業所によっては、育休後の女性に対して産前のパフォーマンスを発揮してもらえると期待することもあるでしょう。しかし、出産前と出産後では、労働者本人が自覚している以上に体調が大きく変化しています。そうした中で、育休前と仕事量を同じにしては、身体的にも精神的にも大きな負担になるケースが少なくありません。
そのため、事業所は本人にどのような部分が辛いかを聞き、必要ならば時短勤務や配置換えなどを行い、働きやすい環境を整えることが大切です。ただし、ここで注意したいのが、事業所側が「産後はストレスや疲労がメンタルヘルスに影響を与えるので、時短勤務にしましょう」などと一方的に提案しないようにすることです。このような体験をすると、ワーママとして頑張ろうとしている労働者のやる気までも奪ってしまう危険性があります。
確かに、出産前と出産後では女性の体の状態は大きく変化しますが、それぞれ個人差があります。本人がつらいと感じている部分をしっかりと聞きながら、事業所にとっても負担にならない方法で勤務環境を整えてください。
Ⅲ.医師や専門機関への相談を促す
産後うつは、ホルモンバランスの乱れや育児環境による影響が大きいですが、そのまま放置していると、深刻な状況を引き起こすケースがあると言われています。つまり、労働者本人の頑張りだけで回復するというものではなく、無理を続ければ仕事にも影響が出てしまうのです。
そうならないためにも、事業所は本人との面談の際に気分の落ち込みや意欲の低下などが見られる場合は、産業医との面談や精神科・心療内科などの受診、カウンセリングが受けられる専門機関への相談を提案してみることをおすすめします。
また、現状で上記のような症状が出ていない労働者であっても、事業所から相談できる窓口の案内をしておくと安心です。
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4.まとめ
女性の体は出産によってホルモンバランスが乱れ、環境の変化や育児などのストレスも関係し、メンタルヘルスに大きな影響を与える状態になりがちです。その結果、「産後うつ」を発症してしまう女性が多いと言われています。
女性が安心して職場復帰するためには、一緒に働いている上司や仲間に「産後うつ」のことが周知され、定期的な面談で心配事を相談しやすい環境が整っていることが重要です。
また、必要な場合は、早期に専門家へ相談をしたり、職場復帰前に産業医と面談を行ったりすることも効果的です。このように医師や専門機関とも連携をしながら、医療的なサポートも取り入れると安心できるでしょう。
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■参考
■執筆/監修
<執筆>久木田 みすづ (精神保健福祉士、社会福祉士、心理カウンセラー)
福祉系大学卒業後、カウンセリングセンターの勤務を経て、心療内科クリニック・精神科病院で精神保健福祉士・カウンセラーとして従事。うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんと家族に対する相談や支援に力を入れる。
現在は、主にメンタルヘルスの記事を執筆するライターとして活動中。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』