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メンタル不調の職場復帰支援の流れとよくある失敗事例

メンタルヘルス不調の支援において手引きなどを見ながら取り組んでも、復職後の再発を予防するにはどういうところに注意していけばよいのか、関係者と連携しながら全員が納得してスムーズに進めるためにはどうすればよいのかなど、悩むことは少なくないでしょう。
本記事では、職場復帰支援の全体の流れとよくある失敗事例をご紹介します。


※本記事は次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。動画で見たい方は以下リンクよりご覧ください。
①復職支援の流れ・失敗事例の紹介【職場復帰支援勉強会】



【目次】
1. 職場復帰支援の全体の流れ
2. 失敗事例①休職前のフォロー
3. 失敗事例②職場復帰のタイミング
4. 失敗事例③職場復帰後



1.職場復帰支援の全体の流れ

この記事を読んでいる皆さんも日頃休業者の対応をされていると思いますが、メンタルヘルス不調は良くなったり悪くなったりを繰り返しながらだんだん回復していくと言われています。

休職してすぐは一番具合が悪く、「家の中でずっと寝てました」という方も結構いらっしゃいます。少し経つと不眠や抑うつなどすごく気分が塞ぐという様子が少しずつ落ち着いてきて、「家の中では普段通りに過ごせるように戻ってきた」「少しなら外に出る元気が 出てきた」おっしゃられる方もいます。そういった段階を経てきてだんだん主治医の先生に言われてであったり本人が復職を意識し始めたりで出社の練習を始めます。このあたりで焦る人は早めに”復職可”の診断書を書いてもらって「会社に復職したい」と言って来られる方もいますが、実際はこの時点で職場復帰をしてしまうとまだ十分に体調が良くなっていないこともあり、 再発の原因になります。どの時点で職場復帰するかという見極めを行うのが職場復帰支援をする側の一番大事なポイントなんです

毎日外出ができる、それを5日間続けても疲れがたまらないといった 外出や生活のリズムの回復を見て出社開始という判断をして会社に来てもらいます。 しかし、復職の開始というのは職復帰支援全体を見るとちょうど中間地点でまだまだ途中なんです。
職場に出てきたばかりの頃というのは体調も以前ほどは十分回復していませんし、集中力や記憶力、体力などの業務に必要な能力がまた落ちている状態です。なのでこの時点で仕事をフルに与えるとまた体調を崩すきっかけになります。職場復帰した後も業務量を減らしてそこから時間をかけて少しずつ仕事量を増やしていくといった
段階的な調整を行います。何ヶ月かしてご本人の体調が安定して回復してくると就業制限はしなくても以前と同じように勤務ができるようになります。ここまで来てようやく職場復帰支援が一段落です。

職場復帰支援ではこの回復のプロセスに応じて適切な対応を適切なタイミングで行わなければいけないというのは難しい点でしょう。次のセクションでは、様々な事例を見てきて分かってきた職場復帰支援のよくある失敗事例をご紹介します。

復職支援の全体の流れ


2.失敗事例①休職前のフォロー

1つ目のケースは、見るからに体調が悪そうな部下がいて上司も心配してるパターンです。時々体調不良でお休みすることも増えてきたので、上司が部下に「大丈夫か?」と声をかけて話を聞こうとしたが、部下は「大丈夫です。頑張ります」としか言ってくれず、「病院に行ったらどうだ」「産業医の先生に相談してみるか」と上司が促しても本人は「大丈夫ですから。すいません」 とあまり話をしてくれませんでした。そのような状態が2ヶ月ほど続いて上司も心配しながら様子を見ていたらついに本人が会社に来れなくなり、長期休業に入ってしまったというケースがあります。

このケースは、上司が様子を見過ぎていたという点が問題でした。調子が悪そうだなと思ったらもっと早めに会社の方や健康管理の窓口の方に行くことが重要です。

復職支援の失敗事例①様子を見ていた期間が長すぎた


3.失敗事例②職場復帰のタイミング

次は、職場復帰のタイミングで、うつ病でお休みされている社員から”復職可能”の診断書が来たというようなケースです。上司が面接をしたところ、表情も明るく「お休みしてすいませんでした。また頑張るのでよろしくお願いします」と元気な様子でした。その後産業面談をして職場復帰OKという判断が出て復職することになったが、復職して1週間もしないうちに体調を崩して再休職してしまうというケースです。本人に後から話を聞くと「実は朝から夕方まで出社するだけで結構疲れてしまっていてもうヘトヘトだった」とのことで、 いつの間にか寝れなくなって起きれなくなってで会社に行けなくなったっていう話なんです。

このケースの問題点は、職場復帰のタイミングが早く、十分に回復してないうちから復職してしまったという点です。こちらもよくある職場復帰支援の失敗です。

十分に回復していないうちに復職させた


4.失敗事例③職場復帰後

最後の事例は、復職した後の話です。うつ病で休業していた社員が職場を復帰しました。主治医からはしばらくは業務量を控えるようにという診断書があったので、最初の1ヶ月間は残業なしで仕事をしてもらっていました。しかし、本人から「いつまでも仕事を減らしてもらっていては申し訳ない。仕事量を少し増やしてほしい」と上司に伝えてきました。体調が良さそうだったため、次の月からは以前と同じような業務量に戻し、残業も本人の様子を読みながら普通に行っていました。しばらく本人は元気そうに仕事をしていたのですが、少し経ってから急に仕事を休むようになり、「あれ?」と思っているうちにまた長期休業に入ってしまったというケースです。

このように復職した後で本人から「仕事をもっと増やしてほしい。もう元気ですから」と話が来ることがありますが、実際は本人が思っているほど体調が回復していないケースも多いです。 十分に復職後の体調が安定してないうちに仕事をそれ以上に増やしてしまうと再発の原因になってしまいます。復職後の業務調整をどのように進めればいいのかという点も課題になってきます。

十分に回復していないうちに仕事を増やした



このように、職場復帰の適切なタイミングで適切な対応を行うことが重要です。次の記事では、まずは初期対応について事例を踏まえてご紹介します。是非ご覧ください。

▶記事を読む メンタル不調の復職支援の初期対応を事例を基に解説




講師


難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』




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