メンタル不調の復職支援の初期対応を事例を基に解説
職場復帰支援では、適切なタイミングで適切なフォローをすることが重要です。本記事では、メンタル不調者の復職支援の初期対応を事例を基に解説します。普段の業務の改善のヒントにしていただければと思います。
※本記事は次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。動画で見たい方は以下リンクよりご覧ください。
▶②初期対応を事例を踏まえて学ぶ【職場復帰支援勉強会】
【目次】
1. 体調の悪そうな部下に声をかけた上司の対応
2. 部下の休職をどのように周囲に説明するか
1.体調の悪そうな部下に声をかけた上司の対応
場面紹介
ある会社の総務課の山田さんという上司と鈴木さんという部下が登場人物です。鈴木さんは30代の男性社員で奥さんとお子さんの3人暮らしです。去年の10月からチームリーダーになっていて張り切って仕事をしているが、職場で最近元気がない様子が見られていて上司の山田さんは気にしています。残業もしているが以前ほど効率が上がってない様子です。1ヶ月ぐらい前からひいてしまった風邪がなかなか治らず、体調不良でお休みすることが増えてきました。上司の山田さんが鈴木さんに「体調は大丈夫か?」と声をかけても、「最近少し体調が悪くて。でも大丈夫です」という返事が返ってきます。「仕事は特に問題ないか?」と聞いても「大丈夫です。頑張ります」と1点張りであまり話をしてくれません。上司はそれ以上は深追いせずに1週間ぐらい様子を見ていました。
しかし、部下の鈴木さんが3日間仕事を休んでしまいました。次の日出勤してきた鈴木さんを捕まえて上司が話を聞きました。「体調はどう?ちゃんと寝れてるか?」と聞くと、実は鈴木さんは「仕事がすごい気になっていてなかなか眠れないんです」という話をしてくれました。「先日は自分でも情けないんですがあんなにミスをしてしまって…」という風にすごくあの落ち込んでいるようです。そこで心配になった上司が「病院に行った方がいいんじゃないか」「産業医の先生に相談してみようか」と促しても鈴木さんは「いえ、自分の力が足りないだけなので。すみません。病院に行くとみんなにも心配かけるし、家族にも心配かけるし」となかなか乗り気じゃない様子です。上司としてはどのようにに対応していいかわからないという状況になってしまいました。
クイズ
さて、この時点で上司の対応として適切なものはどれでしょうか?
①しばらく様子を見る
②奥さんに連絡する
③産業医に相談する
解説
こういう時はしっかりと上司が自分から健康管理室や人事に相談してくださいというのが正解だということをお知らせするのが良いと思います。部下が話をしてくれない、産業医面談に応じてくれないというときは、上司から来てくれというようなことをまず社内の手順として決めておきましょう。その結果、業務命令という形で面談を指示できるようにしておくことがルールとしても適切かなと思います。
社内で産業保健や健康管理の仕組みがあっても利用されないと意味がありません。病気になった社員の方が自分からルールを探してくるというのはなかなか難しいので、上司から相談に来てもらうのがよいでしょう。「こんなときは窓口に来てくださいね」と管理職研修等でもお知らせをしておくと上司は安心します。
2.部下の休職をどのように周囲に説明するか
場面紹介
次の場面に移ります。結局鈴木さんは産業医の勧めによって病院に行ってきました。その結果、「うつ病なので2ヶ月間休みましょう」という診断書をもらってきました。産業医からは「診断書には2ヶ月って書いてありますがもっと長く休む方もいます。場合によってはそれ以上かかりますよ」と上司の方にはコメントがありました。上司の山田さんは業務分担をどうしようかと考え始めていて、職場のメンバーに鈴木さんが休むことをどのように説明すべきか悩んでいます。
クイズ
ここで皆さんに上司から「周りにどんな風に説明したらいいですか」という問い合わせがありました。職場(周囲の労働者)への伝え方で適切なものはどれでしょうか?
①うつ病でしばらく休む
②病気でしばらく休む
③事情があってしばらく休む
解説
ここの説明の仕方は実は正解はありませんが、相場はこうだろうといった専門家と職場でのコンセンサスのようなものがあるので、それをお伝えします。
まず、社員の健康情報について詳しい情報を周りに伝えるのは良くないと国の方から手引きとして出されています。なので「病名はこうだ」「同じ症状があるから休むんだ」といったことを周りには開示しないのが適切です。
上司が周りになぜこんなことを説明するかというと、どのぐらい休むかという期間の説明とその間の仕事の調整や今後の段取りの見通しを説明する必要があるからだと思います。なので、実際なぜ休むかということよりも、休む期間や業務調整の内容をしっかり職場の皆さんに説明をお願いするのが重要でしょう。したがって、「病気でしばらく休む」という説明が良いと思います。
「事情があって…」というのはぼかしすぎててよくわからなくなるので、病気で休むぐらいのことは言ってもよいのではと思います。ただ「病名自体は伝えないようにお願いします」とお伝えしましょう。 さらに、本人に「どのように伝えてほしい?」と聞いて本人の意向も聞きながら対応されると良いと思います。
次の記事では、休業中の面談から生活記録表の導入までを事例を基にご紹介します。是非ご覧ください。
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講師
難波克行(産業医, 労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』