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難病患者の両⽴⽀援の現状を整理して今後に備えよう|佐上徹(産業医)

はじめに — 難病患者の両⽴⽀援が法的に義務化へ

2025年6⽉に成⽴した『労働施策総合推進法』の改正により、難病患者を含む「治療と仕事の両⽴⽀援」が企業の努⼒義務として明⽂化されました。2026年4⽉から施⾏されるこの制度は、慢性疾患を抱える労働者が治療と仕事を両⽴しやすくすることを⽬的としています。この記事では、この新しい法改正の背景、具体的な内容、そして医療者としての視点から考えるべきポイントを整理します。


佐上徹先生(合同会社さがみ産業医事務所代表)


<目次>

1. 背景 — なぜ今この制度か?
2. 「難病」の概観 — 働く世代を中心に
3. 難病患者の現状を知ろう — どのくらいの⼈が働きながら治療しているのか?
4. 「難病」とは何か?難病法による医療費助成を知っておこう
5. 難病と働く⼈を⽀える産業医の三つの視点
6. これは難病?それとも難病ではない?
7. 障害者雇⽤促進法と合理的配慮:難病⽀援を職場でどう位置づけるか
8. 主治医の意⾒と就業規則:どこまで従うべきか
9. 困ったときの相談先を知っておく
10. 困ったときに使えるツールと相談先


1.背景 — なぜ今この制度か?

この改正の背景には、いくつかの社会状況の変化があります。

  1. ⽇本では労働⼒⼈⼝の減少と⾼齢化が進み、⼈⼿不⾜となっている。
  2. 医療の進歩により「慢性疾患を抱えながら働く⼈」が増えている。「病気になったら即離職」ではなく、 「治療を続けつつ働き続けたい」というニーズが増加。
  3. 活動と参加が健康に寄与するという認識が広まり、働くこと‧社会参加⾃体が「治療」の⼀環とも捉えられるようになりつつある。

このような背景から、両⽴⽀援として、妊娠‧出産‧育児‧介護‧治療などのライフステージの変化に対応した⽀援が求められるようになりました。特に難病患者や慢性疾患を抱える労働者に対する⽀援の必要性が⾼まっています。


2.「難病」の概観 — 働く世代を中心に

臨床医として仕事をしていると、各診療科では希少な病気(難病、希少疾患)の患者を⾒る機会があります。しかしながら、そもそも数として少ないため、特にジェネラルに幅広く診る医師の場合は、難病患者を診る経験が少ないこともあります。まして、⾃分の専⾨以外の難病全体の概観や、働く世代における難病患者の実態については、あまり知られていないことが多いです。

ところが、産業医として事業所の健康管理に関わる場合、企業から「こんな病気の従業員がいる‧診断書がある」と頼られることがあり、「働かせても⼤丈夫でしょうか」と質問を受けることもあります。産業医が難病の治療‧ケアと就業の両⽴に関与する役割を期待されることもあり、場合によっては「採⽤」にも意⾒を求められることなどもあります。難病の概観と就労⽀援の基本的視点を押さえておくことが、産業医の実務では重要になります。


3.難病患者の現状を知ろう — どのくらいの人が働きながら治療しているのか?

2015年『難病法』施⾏以降、難病患者数は増加傾向にあり、2025年3⽉時点で約112万⼈が難病患者として認定されています。年齢階級別に⾒ると、20-59歳までの就労世代の難病患者は47万⼈と42%に上ります。我が国の就業者数は6865万⼈であり、働く難病患者が数⼗万⼈規模に上ることは、無視できない⼤きな数字です。すべての難病患者が働いているわけではありませんが、働く意欲を持つ難病患者も多く存在します。特に、⼤きめの事業所で産業医業務をしていると、若年者に多い炎症性腸疾患や膠原病などで通院中の従業員と接する機会も増えます。難病は若年〜中年期の発症も多く、働く世代で⽇常的に遭遇する疾患である点を押さえておく必要があります。

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■執筆


佐上 徹(産業医)

合同会社 さがみ産業医事務所 代表

非製造業の専属産業医を6年経験して独立。メンタルヘルス対応、健康経営の施策立案や従業員のヘルスリテラシー向上を目的とする研修の企画・実施に携わる。
放射線診断専門医であり、大学病院での臨床経験を有する。国立がん研究センターでは、全国がん登録の研究員としてデータベース研究を経験。
医療関連の情報技術の知識、臨床医・産業医の経験を生かし、人事担当者や産業医向けの研修会の講師としても活動。
メディックメディア「公衆衛生がみえる」の企画に参画。大学院では公衆衛生学を専攻。

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