【ウェビナーへのご質問に回答】行動につなぐ!ナッジで支える睡眠改善アプローチ~睡眠編~
7月31日に開催いたしました『行動につなぐ!ナッジで支える睡眠改善アプローチ』では、竹林正樹先生と、石田陽子先生に、ナッジを活用した実践的な睡眠指導についてご講義いただきました。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
ウェビナー内でお答えしきれなかったご質問に関して、講師の石田陽子先生にご回答頂きましたので本記事にて紹介させていただきます。
目次
はじめに 石田先生より
1.長時間労働・睡眠時間の確保
2.交代勤務
3.生活指導
4.長い睡眠
5.中途覚醒
6.休日の寝だめ
7.社内施策
8.診療
はじめに 石田先生より
9時間未満の臥床時間の方には、9時間まで臥床時間を伸ばすよう指導することを推奨したところ、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、「健康日本21(第三次)」における休養・睡眠分野の「睡眠時間が十分に確保できているものの増加」という目標の指標として、「睡眠時間が6~9時間の者の割合」を60%以上にすることが掲げられているのに、9時間を目指すのは長すぎるのではないかというご質問をいただきました。
もし、現在の臥床時間が6時間未満で、睡眠課題がある場合には、9時間を目指す際に、必ず6時間も7時間も通りますから、その時点で睡眠課題が解決すれば、それが当人にとっての好ましい睡眠時間である可能性が高いです。6時間以上、7時間以上、臥床していても睡眠課題が解決しない場合は、8時間以上、9時間以上の臥床時間が必要な人なのかもしれません。
個体によって生物学的に好ましい睡眠時間は多様ですが、ベストな睡眠時間が8時間前後の方が最も多く、日本の勤労者には睡眠不足の方が圧倒的に多いので、私はシンプルに9時間を目指すことを推奨しています。
また、私は思想家ではなく、医師、公衆衛生家であり、科学的なエビデンスと、それを社会生活に活用する妥当性を根拠に健康な睡眠を推奨しています。
私の思想、考えによって、行動を推奨しているわけではないことを、ご理解ください。
1 長時間労働・睡眠時間の確保
質問①
長時間勤務者の睡眠方法のポイント(パワーナップ以外)、運動、食事との関係 について伺いたいです。
■回答
長時間勤務者でも、そうでなくても9時間未満の臥床で、睡眠課題を感じている方は、9時間を目指して臥床時間を増やしてください。私が推奨する睡眠方法は、「とにかくたくさんねること」だけです。
セミナーでお話したとおり、運動、食事、入浴は深部体温を上げるので、脳の電気活動を増やし(中枢神経が興奮し)、交感神経優位になり(自律神経も興奮し)、睡眠とは正反対の身体活動です。
就寝の2時間以上前に体温を上げる行動をすると、上昇した体温が降下して、生理的な体温の降下勾配に重なるので、睡眠には非常に有利です。とはいえ、0時以降は生理的な激しい体温降下勾配があるので、21時までに入浴できない場合はスキップしましょう。
質問②
通勤が長く睡眠時間が取れない社員がいます。睡眠の取り方についてなにかいいアドバイスありますでしょうか。
■回答
私は、通勤時間より睡眠時間のほうが大事なので、転居も考慮するよう勧めています。平日だけでも勤務先の近くに宿泊することも勧めますが、場所的な環境も安定している方が有利なので、テレワーク含め、通勤時間を減らす努力が好ましいです。セミナーでもお伝えしたとおり、睡眠時間の確保は本質的なので、働き方を動かすという発想が重要です。
質問③
竹林先生、石田先生わかりやすい講義ありがとうございます。睡眠時間の確保が難しい人でも睡眠環境などを整えることで多少の質の向上はあるのでしょうか? やはり時間確保しかないのでしょうか?
■回答
睡眠の質と時間はトレード・オフの関係ではないので、睡眠の持つ生理的な役割を最大限に活用するためには、時間の確保だけが必要です。その上で、睡眠時間が十分な人にとっても、環境は整っている方が有利です。
睡眠時間を確保できないのなら環境を整えても無意味であるとは言いませんが、睡眠には環境も時間も大事です
質問④
労働者で「家に帰ると疲れて眠ってしまう。夜中に起きて家事やお風呂にはいってまた寝る」という方がいらっしゃいます。まとめた睡眠時間が取れるように、どんなアドバイスができますでしょうか。
■回答
疲れて眠ってしまうのは悪くありませんが、途中で起きると睡眠の質が下がり、ソーシャルジェットラグの原因になります。家事やお風呂は朝に回しましょう。
2 交代勤務
質問①
セミナーありがとうございます。日勤・夜勤シフト制・長距離ドライバーの方で、睡眠時間帯の変更が生じる際に「入眠ができないため、眠る為にお酒を飲む。なぜなら、無理にでも寝ないと翌日の仕事がきついから。」という方が複数おります。飲酒が多くなり、生活習慣病のリスクが上がった方もいました。睡眠時間が変更する際の効果的な入眠セルフケアなどありますか?
■回答
「睡眠時間が変更する際」というのは、業務上、睡眠時間が不規則になるという意味だと理解しました。「お酒を飲まずに、規則正しく、ぐっすり眠る」のが最適解なのは明らかですが、「お酒を飲まないで眠れない」より、「お酒を飲んで浅く眠る」よりマシなのかという議論はナンセンスです。当日のご質問に回答したように、飲酒は睡眠を浅くするだけでなく、他の健康上のリスクも高めることを説明してください。人間は誰でも、お酒を飲まずに眠る力があります。
質問②
睡眠時間の長さと規則性の観点でいうと、日勤・夜勤の変則勤務より、夜勤専従のようなあるいみ規則的な勤務の方が、睡眠の質は確保しやすいという認識でしょうか?よろしくお願いいたします。
■回答
ご質問のとおり、変則よりは、社会の時間と噛み合わなくても規則的な方が有利です。とはいえ、生活においては、業務以外の行動もしなくてはならないので、夜勤専従だからといって、社会生活を営む以上は、日勤者と同じくらい規則的にするのは難しいと思います。もし、夜勤専従の方が、明るいときに睡眠するのはよくないなどという思い込みを持っている場合は、社会の時間に合わせることより、毎日の睡眠時間を規則正しく確保することのほうが健康には好ましいと伝えてあげてください。
質問③
前の職場ですが、24時間稼働している職場で、日勤、夕勤、夜勤それぞれ固定で各時間帯10時間勤務、夜勤の方はずっと夜勤という勤務形態という職場がありました。夜勤帯の方の健康問題がしんぱいだったのですが、規則的ではあるので、睡眠的にはあまり問題はないのでしょうか。また、健康面全体ではいかがでしょうか?
■回答
ご質問のとおり、変則よりは、社会の時間と噛み合わなくても規則的な方が有利です。とはいえ、生活においては、業務以外の行動もしなくてはならないので、夜勤専従だからといって、社会生活を営む以上は、日勤者と同じくらい規則的にするのは難しいと思います。もし、夜勤専従の方が、明るいときに睡眠するのはよくないなどという思い込みを持っている場合は、社会の時間に合わせることより、毎日の睡眠時間を規則正しく確保することのほうが健康には好ましいと伝えてあげてください。
3 生活指導
質問①
寝つきが悪い人に対しては、眠気を感じるまでは布団に入らない、という方法を勉強したことがありますが、石田先生はどのようにお考えになられるかお伺いしたいです。
■回答
こちらは当日回答したとおり、一般的に眠りすぎの高齢者への指導です。外来では、眠気を感じていないのに布団に入ることが問題の患者に対しては、眠気を感じるまで布団に入らないことをお勧めしていますが、一般的に、働く方の多くは、本来、眠気を感じる時間に社会的な理由で眠ることができず、うまく眠気が出なくなっています。そういう場合は、眠気を感じていなくても臥床することで眠れる場合が多く、睡眠時間の確保に繋がります。眠気というのは覚醒中の主観であり、科学的に定量できるようなものではありません。まずは、相談者の睡眠時間が足りているのかどうかを確認しましょう。
質問②
飲酒をしないと眠れないと言うスタッフがいます。その一方で、服薬は絶対にしたくないと言います。どのような指導が有効でしょうか。
■回答
飲酒は睡眠の質を下げるだけでなく、健康に悪い影響があると指導してください。また、睡眠外来を受診することと、内服をすることは必ずしも同義ではなく、認知行動療法や物理的治療で解決する睡眠障害もあることを伝えてあげてください。外来受診時、「内服以外の方法で解決したい」と主治医にきちんと伝えるよう、指導してください。
質問③
睡眠時間を確保するために、入浴は避けた方が良いとありましたが、シャワー浴であれば良いでしょうか?入浴は、寝る2時間前までの入浴であれば良いでしょうか?
■回答
法律ではないので、良い悪いということはありませんが、長時間労働の方に入浴を推奨しない理由は、2つあります。 ①入浴の時間より睡眠時間のほうが健康や生命維持にとって重要(入浴しなくても死なないが、睡眠しないと死ぬリスクがある)から。 ②入浴は体温を上げるため、睡眠の邪魔をするから。 2時間前に体温を上げると、就寝の頃にはちょうど体温降下勾配があるので、その就寝時間が22時だとすれば、おすすめできるでしょう。23時以降は生理的な体温勾配がありますので、少なくとも
21時までに入浴できない場合は、シャワーの方が好ましいでしょうね。
質問④
子どもや大学生の時から始められる睡眠改善や健康維持について
■回答
子どもも大学生もできるだけ、睡眠時間を伸ばして下さい。睡眠時間の公式は成人のものなので、子どもはもっとたくさん寝てください。大学生も、たくさん寝てください。ともかくたくさん寝てください。
4 長い睡眠
質問①
交替勤務者が夜勤後、13時間連続して眠り、次の勤務にはいってすぐ後に重量物持ち上げてぎっくり腰になりました。整形外科受診時に「睡眠時間が長すぎたために、身体がなまっていたんだね」と医師に言われたそうです。睡眠時間が長すぎることで起きる障害として短期間に起きる身体への悪影響について知りたいです
■回答
私はその整形外科医に発言の根拠を聞いてみたいです。私にはわかりませんので、その整形外科医に尋ねてみてください。睡眠時間が長くても短くても寝起き直後は誰でも寝ぼけていますので、起床直後、たとえば1時間以内に集中力を要する業務を適切に行うのは、難しいでしょうね。アスリートが試合の何時間前に起床したほうがよいかという「ピークパフォーマンスのための至適起床時間について(本田ら)」によると、アスリートは試合の3~4時間前には起床したほうがいいそうです。
5 中途覚醒
質問①
今日はとても勉強になるお話をありがとうございます。 土日に普段より長く寝ていると、トイレに行きたくなり起きることがあり普通と思っていたのですが、正常ではないことを知り驚きました。 正常の場合は9時間ほど臥床時間があったとしても、起床して尿意がくるものなのでしょうか。
■回答
はい、そのとおりです。紹介した研究では、被験者が10時間以上眠っていましたが、誰もトイレに起きていません。もちろん、長く眠っていれば、尿は貯まりますので、起床時に排尿するのは当然です。とはいえ、ご説明したように、睡眠の後半は目覚めやすいという性質がありますので、長時間睡眠の場合に限り、中央時刻よりあとにトイレに起きているなら、尿意で起きているわけではないかもしれません。いずれにせよ、一度、睡眠外来を受診することをお勧めします。
6 休日の寝だめ
質問①
睡眠負債を抱えたかたは休日に寝溜めをしがちなのですが、寝られる日は寝てもらったほうがいいのでしょうか?ソーシャルジェットラグのもとになるので、寝溜めは駄目とお伝えしているのですが、どのように指導すればよいでしょうか?
■回答
ソーシャルジェットラグで失うものはテンポラリーな認知機能ですが、睡眠不足症候群で失うものはそれに加えて、未来に渡る心身社会的な健康、場合によっては命です。セミナーでお伝えしたとおり、寝貯めはできませんが、返済は必要です。
質問②
休日と平日の起床時間の差を2時間以内という指導を聞きますが、やはり眠くても起きていただいた方がよろしいでしょうか。よろしくお願いいたします。
■回答
起床時刻と中央時刻を前後2時間以内の振れ幅にしておくことは、ソーシャルジェットラグの予防として有効です。ソーシャルジェットラグで失うものはテンポラリーな認知機能ですが、睡眠不足症候群で失うものはそれに加えて、未来に渡る心身社会的な健康、場合によっては命です。セミナーでお伝えしたとおり、寝貯めはできませんが、返済は必要です。週末の返済には早寝がおすすめです。6時間の早寝と2時間の寝坊で中央時刻と起床時刻を2時間ずつずらして最高8時間返済することも可能です。
7 社内施策
質問①
ご講義ありがとうございました。弊社では、現在、特定健診の問診にある、「十分な睡眠がとれている人」の割合を上げたく、社内で施策を検討しております。 会社によって、課題が違うので一概に言えないことは存じていますが、 先生がお勧めする、睡眠に関する社内施策があれば教えていただきたいです。
■回答
睡眠で十分な休養が取れていないと感じる睡眠のことを、「非回復性睡眠(NRS)」といい、NRSに関連する生活習慣については、様々検討されています。参考:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202109039A-buntan1_0.pdf
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、「健康日本21(第三次)」における休養・睡眠分野の「睡眠時間が十分に確保できているものの増加」という目標の指標として、「睡眠時間が6~9時間の者の割合」を60%以上にすることが掲げられています。
一般的に好ましいどんな生活習慣も価値があると思いますが、睡眠の満足度をあげたい場合は、睡眠時間(臥床時間)を伸ばすことが、一番効果的です。
睡眠時間を伸ばす社内施策として、ウォーキングイベントで歩数を競うように、各部署の平均や合計の睡眠時間を部署ごとに競わせるというのはいかがでしょうか? 睡眠健診も啓発効果が高いです。
質問②
会社全体で睡眠状況を評価する上で、どのような質問項目を用いるのが効果的でしょうか?
■回答
睡眠に関する質問紙としては、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)やアテネ不眠尺度(AIS)など、妥当性の検証された臨床質問紙があり、先行研究も多いので、データを取る場合は、このような質問紙を用いるのがよいでしょう。私が最も重視する睡眠の項目は臥床時間です。平日と休日の時差について尋ねるのも、勤労者では有意義かと思います。
質問③
睡眠アプリの精度はあまり考えなくても大丈夫ですか? 会社で全社員に配布予定です。
■回答
8 診療
質問①
メンタル疾患で療養中の社員で、夜間全く眠れない日が少なとも2ヶ月以上続いています。毎週メンタルクリニックに受診して、睡眠リズム表も見せているようなのですが改善せず、メンタル症状も改善が見られません。 昼寝はしないようにと指導されているようで、結果、睡眠時間は1,2時間になっています。睡眠時間確保のために昼寝するように伝えるのは良くないことなのでしょうか。
■回答
主治医の指導の元、療養している従業員のことは、主治医に任せましょう。
質問②
知り合いなのですが、40台女性でメンタル疾患で眠剤をのんで、12時間くらい寝てしまうのは適正でしょうか ?
■回答
私には判断できません。主治医にお任せください。
質問③
30分寝付けない場合に睡眠薬を服用していますが、そのような対応は良くないのでしょうか。
■回答
睡眠薬を処方している主治医にご相談ください。
質問④
近くに睡眠外来がないので、あまり社員にオススメしにくいのですが、内科で睡眠時無呼吸症候群の検査をしてくれる病院はあるので、そちらでも大丈夫なのでしょうか?
■回答
実は、「睡眠」という標榜が日本では認められていません。日本睡眠学会、日本睡眠協会では現在、睡眠科の標榜についてとりくんでおり、近い将来、標榜が許される予定です。そういう社会の事情で「内科で睡眠時無呼吸症候群の検査をしてくれる病院」と「睡眠外来」にあまり違いはありません。当院のようにオンラインで完結するクリニックもありますので、まずは、何らかの方法で検査を受けさせてあげてください。こちらの認定医療機関一覧も参考にしてください。
▶認定医療機関一覧
さんぽLABは、今後も定期的にウェビナーを開催いたします。年間スケジュールは、下記リンクよりご確認ください。
睡眠についてもっと知りたい方は下記、石田先生のコラムや健康づくりのための睡眠ガイド2023もご覧ください。
▶石田陽子先生の睡眠コラムはこちら
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