海外赴任者の健康管理とは~赴任前から帰任時までのサポートを徹底解説!
海外勤務は、慣れない環境や不安から体調を崩しやすく、産業医や保健師などの産業保健スタッフは、より細やかなフォローアップが求められています。
海外赴任者の健康管理は、生活環境の大きな変化の影響を受け、法令で定められている事項以外にもが事業所に対応が任せられることも多くあります。
この記事では、法令で定められている海外派遣労働者の健康診断や、推奨される予防接種、海外派遣労働者への健康管理の注意点についてご紹介します。
目次
1.海外派遣労働者の健康管理
2.海外派遣前の準備
3.海外派遣中の健康管理
4.帰任後の健康管理
5.産業看護職の役割
1 海外派遣労働者の健康管理
海外に拠点を置く日本企業は増えてきており、海外に派遣される労働者も年々増え続けています。海外派遣労働者は、生活環境、食事、言葉の壁など慣れない環境の変化から体調を崩しやすく、事業者は安全配慮義務の観点も考慮して海外派遣労働者の健康管理を行っていく必要があります。
海外派遣労働者における健康課題としては主に次の5つがあります。
① 感染予防
衛生状態が不十分でない地域への派遣されることも多くあります。食べ物や自らの感染、また、蚊による媒介や狂犬病など、日本ではほとんど見られない感染症が海外では流行していることがあるため、事前の対策が必要です。
② 生活習慣病
海外の食文化は日本とは異なります。赴任先によっては、和食に比べてカロリーや脂質が高かったり、食事の量や飲酒機会が増えたりすることがあります。さらに食生活へのストレスから過食となる可能性もあり肥満やメタボリックシンドロームになるリスクが高いです。
加えて、治安の問題や交通事情等もあり、車社会であることが多く、運動不足になることも懸念され、生活習慣病のリスクが高くなります。
③ メンタルヘルス不調
海外派遣により環境は大きく変化します。言語をはじめとした文化の違い、業務内容や職位の違い、人間関係の構築、コミュニケーション等によるストレスがかかります。また、日本とは異なる管理体制により、十分何サポートを得られない場合もあります。これらの環境の変化に慣れるには個人差も大きいため、丁寧な対応が求められます。
④ 気候の変化に伴う疾病
日本とは異なる、高温多湿の気候では脱水や熱疲労を起こす可能性が高くなります。
さらに、発展途上国では大気汚染が深刻な地域も多くあり、呼吸器疾患のリスクも高まります。
⑤ 地域ごとの医療レベル・医療制度の違い
日本と他の国の医療制度や医療サービスのレベルには違いがあります。例えば、都市部では日本語での診療が可能な病院やクリニックも存在しますが、赴任する地域によっては、質の高い医療を提供する施設が近くにないケースも少なくありません。
2 海外派遣前の準備
海外派遣の前は、労働者が不安なく安全に渡航できるよう準備をすすめていくことが求められます。準備の状況など記録にのこしておくとよいでしょう。
① 海外派遣労働者の選定
海外赴任は、心身に大きな負担をかける可能性があります。そのため、まずは労働者自身に、環境の変化に適応できる健康状態であるかどうかを確認します。事業者は、産業医や、持病がある際には主治医とも相談の上、現地で適切な医療が受けられるかをよく検討した上で派遣の可否を選定することになります。
② 海外派遣前の健康診断
労働安全衛生法により、6か月以上海外へ派遣する労働者に対しては、健康診断の実施義務が事業所側に義務付けられています。健康診断項目は、定期健康診断項目に加えて、①腹部画像検査②尿酸③B型肝炎抗体検査④血液型検査のうち医師が必要と判断した項目となります。
また、赴任先によって、ビザの取得のために健康診断が必要となる場合もあるので赴任先の大使館等に確認すると良いでしょう。ビザ取得のための健康診断には、HIVや梅毒など、性感染症の検査を求められる国もあります。
感染症等に関する健康情報は、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は労働者から取得べきではないといえます。情報の取扱いには特に留意しましょう。
③ 海外派遣前に推奨される予防接種
日本とは異なる感染症が流行している地域もあり、渡航前に予防接種を受けることが推奨されています。海外赴任者に推奨される予防接種は、下記の通り記載しておりますが、赴任先によって異なりますので、最新情報は【 厚生労働省検疫所「FORTH」】などで確認すると良いでしょう。
入国にあたって予防接種の証明書を求められる国もあります。また、帯同する子供の入学にあたって予防接種の証明書を求められる場合もあります。ワクチンによっては、複数回接種する必要があるものもあり、計画的に接種していくことが必要です。
出典:海外勤務者の健康管理 | 東京産業保健総合支援センター
④ 海外派遣前の教育
海外派遣による健康障害を予防するために最も重要なことは、労働者自身が、そのリスクと対処法を理解し、自分で予防ができることです。
さらに、日本とは医療事情が大きく異なるため、治療中の疾患がある場合は治療を継続する方法や中断しないための対応等も決めておく必要があります。事業所が、その健康問題について対応方法、相談窓口の案内等を渡航前に実施することが大切です。帯同家族がいる場合は、一緒に参加してもらうことをおすすめします。
また、海外の医療事情や現地で流行している病気、生活上の注意点、利用できる医療機関などの情報は、厚生労働省検疫所のサイトや、外務省のサイト「世界の医療事情」などに一般市民向けの情報がまとめられています。事前教育の際に案内し、赴任先の情報を得ておくように伝えておきましょう。
海外赴任にあたり、事業所が保険サービスに加入する場合も多く、その付帯サービスとして、医療相談、医療機関の紹介や受診の手配、医療通訳などを無料で利用できる場合があります。
3 海外派遣中の健康管理
① 相談窓口の設定
現地での医療事情は大きく異なり、日本にいるときと同様にはいきません。
特にメンタルヘルス不調への対応として、日本と直接つながれる医療相談体制を構築しておくことが重要です。
社内に電話やメールで相談できる体制を構築したり、外部機関へ委託したりすることも効果的です。
また、赴任後も定期的にWEB面談や電話などを活用して、産業医や産業看護職などと話せる場を設けることもお勧めです。
② 現地での受診
現地の医療事情は、日本とは大きく異なるため、何かあったときに相談できるかかりつけ医を持っておくことは、安心にもつながります。
すでに赴任している社員の協力を得ると、現地でよく利用している医療機関についての情報を得ることができます。また、事業所が加入する保険会社や海外赴任者向けのサービスを行なっている会社に問い合わせてもよいでしょう。特に途上国への派遣の場合は、信頼できる医療機関が限られているため、派遣前に紹介ができるとよいでしょう。
③ 海外派遣中の健康診断
労働安全衛生法では、日本で勤務している場合は1年に1回の定期健康診断の受診が事業所には義務付けられていますが、海外で勤務している場合は義務ではありません。
しかし、海外派遣中に健康障害を引き起こす可能性もあり、海外勤務が長期となる場合は、年に1回は健康診断を受けられるようにすることが望ましいでしょう。
一時帰国をする場合は、そのタイミングで健康診断を受けられるようにすることをおすすめします。日本と同じような内容で健康診断を受診できる医療機関が現地にある場合は、現地で受けられるよう手配するのもよいでしょう。
4 帰任後の健康管理
① 帰任後の健康診断
労働安全衛生法では、6か月以上海外赴任をした労働者が日本国内の業務に就く場合は、健康診断を実施するよう事業所に義務付けられています。内容は、派遣前の健康診断内容に加えて、医師が必要と判断した場合は、寄生虫の検査が追加されます。
また、帰国後に発熱や下痢等が見られた場合は、感染症の可能性があるため注意が必要です。
② 帰任後のメンタルヘルスケア
海外での生活が日本と大きく異なることは、これまでお伝えしてきましたが、反対に、帰国後に適応が難しくなるといった場合もあります。帰国後フォローを適宜実施し、業務に適応できるよう配慮することが大切です。
5 産業看護職の役割
海外派遣に限らず、産業看護職は事業所側と従業員側の橋渡し、さらにそれ以外の関係機関のコーディネートが重要な役割といえます。
派遣先の気候や流行している感染症や、文化等を把握し、そこから起きる可能性のある健康障害について知識を持ち、労働者や事業者と一緒に対策を考え、対応していくことが大切です。
海外赴任での健康管理は、派遣される労働者自身もわからないことが多くあり、不安も抱えているでしょう。その不安に寄り添い、適切な情報の提供や相談窓口などの設置が労働者の安心につながります。
さらに、事業所として、海外派遣労働者に対してどのような支援を構築していくか、事業所側と協力・役割分担など連携していくことが求められます。
執筆:さんぽLAB運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医
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■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
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投稿を表示企業で保健師してます。
弊社でも海外派遣労働者対応業務があります。保健師としては、まさに『事業所側と従業員側の橋渡し』が大切だと感じています。今回の記事で、海外駐在員に寄り添った対応を意識していこうと、改めて思いました。
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