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健康経営実現に向けたヘルスリテラシー向上のカギ

健康経営実現に向けたヘルスリテラシー向上のカギ
ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を探し、理解し、活用する力のことです。つまり、自分の健康にとって必要な情報を適切に選び、自ら「よりよい決定」ができる力のことです。つまり、ヘルスリテラシーが高い人は、自分自身の健康を自発的に守り向上することができます。

健康経営は、心身の健康を資本の一つととらえ、従業員の健康管理や維持への投資をすることによって、企業の組織の生産性や収益性向上、イメージアップなどを図ることを指します。従業員のヘルスリテラシーが向上すれば、企業の取り組みへの理解が深まり、自発的な参加姿勢が生まれ、健康経営の土台となります。
当記事では、ヘルスリテラシーを向上させるポイントをご紹介いたします。

目次

1.ヘルスリテラシーの向上と健康経営
2.自社の課題、従業員のニーズを把握する
3.実践・行動の定着化
4.まとめ




1 ヘルスリテラシーの向上と健康経営


■従業員の自発性を促す

健康施策を実施していくうえで、「本当に参加してほしい人になかなか参加してもらえない、興味をもってもらえない」といった課題を抱えている産業保健スタッフも多いのではないしょうか。そこでご紹介したいのが、「ナッジ理論」です。

「ナッジ」とは、自発的によい行動をしたくなるように選択の余地をうばうことなく背中を後押しする設計のことです。
健康のためには行動を起こしたほうがよいと頭ではわかっているものの、正しい行動ができないといったことはなぜ起こるのでしょうか。
人の思考は直感的な思考と論理的な思考の2パターンに分けられ、約95%は直感的な思考により意思決定が行われていると言われています。この直感的な思考は、不合理で本能的であり無意識な行動につながっています。
直感は、「認知バイアス」と呼ばれる「認知のゆがみ(心理的傾向)」が生じやすく、合理的な判断ができなくなることがあります。
認知バイアスのなかでも、行動の阻害要因になりやすい3つの認知バイアスを紹介します。


①現状維持バイアス
現状維持バイアスが強いと、頭では変化の必要性を理解しても、現状を変えたがらなくなる
②現在バイアス
現在バイアスが強いと、頭では変化の必要性を理解しても、現状を変えたがらなくなる
③楽観性バイアス
正しい情報を得ても、自分事としてとらえないため、望ましい行動につながりにくくなる


これらの認知バイアスは、ナッジによって予測可能になります。
つまり、ナッジによって良くないバイアスにブレーキをかけ、良いバイアスを味方いつけることが可能となります。

ナッジとは選択を禁止することも、インセンティブを大きく変える必要もなく、行動を予測可能な形で変える選択的設計のあらゆる要素なのです。

人を動かす4つの方法
人を動かす方法には、
正しい情報を提供する(普及啓発)
行動したくなる環境を与える(ナッジ)
褒美を与える(インセンティブ)
罰を与える(逆インセンティブ)
の5つの段階があるといわれています。


これらのことから、ナッジは強制や罰、褒美を使わず認知バイアスの特性に沿った設計であるといえます。
相手が持っているバイアスが具体的にわからない場合は、多くの人が持つ認知バイアスに対応した汎用性のあるナッジを意識することがおすすめです。汎用性のあるナッジの枠組として、「EAST法」をご紹介します。

EAST法とは、(Easy:簡単に、Attractive:印象的に、Social:社会的に、Timely:タイムリーに)の頭文字をとったものです。直感的に、「簡単だ」「面白そう」「皆がやっている」「今ならやってもいい」と感じると一歩踏み出しやすくなるのです。このなかでも最も重要なのは「Easy」です。日々膨大な情報を受け取っている私たちにとっては、その場ですぐやってみたくなるようなシンプル化(Easyナッジ)が最も効果的です。

Easyナッジの3つの法則をご紹介します。

1.見出しは14文字以下:長くなるほど、読まれなくなる
2.メッセージの絞り込み:正しい情報であっても、相手が当然知っているものは削除する
3. 「ましょう」の攻撃を回避:「~しましょう」は本当に重要なところのみで使う

ナッジを取り入れた健康施策を実施することで、今まで「実施してほしいのに実施してもらえない人達」を動かすことができるかもしれません。ナッジを念頭に、健康施策を検討してみてはいかがでしょうか。


2 自社の課題、従業員のニーズを把握する


■健康意識の把握

健康施策を効果的に実施するためには、従業員のヘルスリテラシーや健康への関心度合を調べ把握しておくことが重要です。全従業員に回答してもらうストレスチェックや健康診断時の問診等に追加質問として設けることで、負担を軽減することができます。

その結果をもとに、どのような施策を実施するべきか検討するとよいでしょう。リテラシーレベルは、以下のようなイメージで分類することができます。それぞれの課題を抱えた分類毎に下記のような取り組みにつなげることができます。


【例】
・A健康についてほとんど知識がない、興味もない→基本的な情報を自身の健康診断結果と合わせて教える
・B健康の基本知識は知っているが、どう高めるか、どう取り組むべきか知らない→健康維持増進のための知識や取り組みを伝える
・健康に関心があり、もっと高レベルな行動習慣をつけたい→より専門的な情報を与える、セミナーを案内する

■勤務条件や環境を把握する

シフト制や夜勤などの勤務時間、身体を使うのかデスクワークなのか等の勤務条件や環境に合わせた健康課題について、それらの労働条件で働く従業員に向けて実施するのも効果的です。

【例】
・不規則な勤務での食事のとり方
・座ってできる運動の紹介
・冷房がない場所や外回りの方への熱中症予防


■健康診断やストレスチェックの結果を把握する

従業員が自身の健康に向き合うきっかけとして、健康診断やストレスチェックの機会を利用するのもおすすめです。健康診断の結果を見て、自身の健康に向き合って終わりではなく、気になることや問題点を自分事化したうえで、改善や維持向上を目指します。産業保健スタッフによるセミナーの実施や個別の保健指導の機会の提供、または自発的に健康について学べる仕組みづくりやツールの提供等、具体的コンテンツとセットであるとさらに効果的です。


【例】
・健康診断の見方、生活習慣病予防のセミナー
・有所見者への該当する健康セミナーの参加促進案内
・問診で禁煙したいと思っていると回答した従業員への禁煙セミナーの実施
・高ストレス者にメンタルヘルスセルフケア研修への促進案内



3 実践・行動の定着化


健康への意識付けをし行動変容を促した後の課題として、「継続する」があります。ヘルスリテラシーを高め、従業員の健康を維持するためには、この継続する、が欠かせません。
情報を提供する際に意識できることとしては、重要なことは持ち帰られるメモや資料にして渡す、後日相談できる窓口等を案内するとよいでしょう。

保健指導で身体活動や運動の継続へのアドバイスをする産業保健スタッフも多くいらっしゃると思います。その助言内容として、「健診結果や症状の改善に効果がある」「体力の維持、改善ができる」「減量できる」等運動の効果を伝えるのではないでしょうか。しかし、わかってはいるが継続にはつながらないことも多いと思います。
ここでもナッジ理論は効果的です。

運動継続への行動科学的アプロ―チ法に関する調査研究では、運動継続をしている労働者と運動を継続していない労働者を比較したところ、運動継続の理由約30項目のなかで、「楽しさ・高揚感」「依存・自尊」「外見・陶酔」「飲食的充足」の5因子に差が見られ、そのなかでも「楽しさ・高揚感」が圧倒的な差が認められています。
 運動そのものを楽しむスポーツを始めるのはもちろん、「ショッピング」「旅行」「音楽」「写真」など自分が楽しいと思える趣味や生きがいに歩くといった運動を絡めてみることを提案するのはいかがでしょうか。健康のため、だけでなく、「楽しさ」や「高揚感」のために、もしくはそれらに絡めた生活によって、身体活動や運動量が増え、それを無理なく継続することにつながります。
人々の健康行動を促し、無理なく継続してもらうためには、やりたいことをみつける情報や実践できる場の提供、仲間づくりも重要です。


【例】
・ウォーキングイベントの開催
・運動のサークルを社内でつくる
・社内で同じ趣味が持った人たちが集まり運動できるコミュニティをつくる


4 まとめ


健康経営を実現するためには、従業員ひとりひとりのヘルスリテラシーの向上が不可欠です。

従業員ひとりひとりのニーズや現状を理解することはもちろん、職場環境や労働条件等職場側のニーズを把握し、その職場やその人にあった健康施策を提供することが産業保健スタッフには求められます。

また、やりっぱなしにならず継続してもらうための仕組みづくりや仕掛けを講じることにより、従業員がより自発的に健康づくりに取り組むことができるようになります。

弊社では、健康施策のひとつとして弊社ではオンライン健康セミナーを提供しております。ナッジ理論を取り入れた仕掛けを取り入れ、企業様のニーズに応じた形で実施することで好評をいただいておりますので、ぜひ、こちらも合わせてご覧ください。
職場全体で取り組むことにより、健康経営の実現をめざしましょう。

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■作成

さんぽLAB 運営事務局 保健師


■参考文献
出典:厚生労働省|明日から使えるナッジ理論

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