職場で知っておきたい呼吸器疾患のリスクと従業員の健康管理
「職場の空気環境が悪いと、従業員の健康にどんな影響があるんだろう?」
「呼吸器疾患を持っている従業員への指導方法が知りたい!」
基本的な健康管理方法はできるけど、呼吸器疾患の職場リスクや対策について自信がない方も多いのではないでしょうか。事業者による職場環境整備と、産業保健師による従業員への健康指導により、呼吸器疾患の予防や悪化防止が可能です。
本記事では健康管理だけでなく、具体的な従業員のサポートを解説します。この記事を読めば職場で重要な呼吸器疾患について理解し、従業員のサポートに自信を持てるようになるでしょう。
<目次>
1.職場での呼吸器疾患のリスク
2.職場での呼吸器疾患の予防と健康管理
3.まとめ:呼吸器疾患のリスクを知り従業員の行動につながる指導をしよう
1.職場での呼吸器疾患のリスク
職場の空気環境が悪い場合、従業員が喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、塵肺や感染症などの呼吸器疾患を発症するリスクがあります。次に各疾患の特徴・原因・対策・具体的なサポート方法を解説します。
■喘息
職場環境によっては、喘息は発症リスクが高まる病気です。主な症状は咳や呼吸困難、喘鳴などがあります。喘息治療は吸入薬による気道炎症の抑制と、原因となる物質や環境要因の除去が重要です。
職場環境の要因が呼吸器を刺激し、アレルギーや気道過敏性を引き起こす可能性があります。
建設現場の金属加工やプラスチック加工業などでの粉塵や化学物質への曝露は、職業性喘息を誘発する原因となります。また、十分な換気のない場所や受動喫煙環境、寒冷な作業場もリスク因子です。
産業保健師は産業医や衛生管理者と連携して、従業員に曝露回避やマスク着用を促し、発作予防の啓発を行いましょう。喘息予防や悪化防止につながります。
■COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、たばこの煙や粉じん、化学物質などによって気道や肺が慢性的に障害される病気です。主な症状は咳や痰、息切れなどがあります。治療は禁煙を基本に、吸入薬や呼吸リハビリで症状を管理します。職場の健康管理において重要な疾患です。
COPDの主な原因は喫煙で、全患者の約9割が喫煙歴を持つといわれています。さらに、作業場での粉塵や有害物質への長期曝露も発症リスクを高めます。
喫煙者は非喫煙者に比べて息切れや慢性の咳、呼吸困難が多くみられ、金属・鉱山や建築など粉塵曝露のある職業では発症例が多いです。
事業者は従業員に禁煙を推奨し、禁煙支援環境を整備することが望ましいとされています。産業保健師は産業医と協力しながら、喫煙歴のある従業員を把握し、禁煙支援をしましょう。健康診断時に息切れや咳、痰などの症状がある場合は、必要に応じて医療機関の受診推奨が必要です。
■塵肺(じんぱい)
塵肺は職場での粉じん吸入によって肺に線維化が起こる病気です。主な症状は咳や痰、息切れなどがあります。治療は進行を防ぐための粉じん曝露の回避と、呼吸リハビリや薬物療法による症状管理が中心です。
塵肺は特に鉱山や建設製造業の現場で発症リスクが高く、肺組織の炎症と線維化が進むことで肺機能障害をもたらします。重症化すると肺がんなどの合併症リスクも上昇します。
産業保健師は、労働安全衛生法やじん肺法に基づいた対策の実施が必要です。産業保健師は事業者や衛生管理者と協働し、粉塵発生作業場の環境管理改善を支援・提案しましょう。定期的な健康診断を適切に実施するよう企業に働きかけることが重要です。
早期発見と適切な対応により、従業員の健康障害を未然に防止しましょう。また、従業員が適切に防塵マスクを着用できるよう教育と指導を継続的に行うことが求められます。
■インフルエンザや新型コロナ
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は、ウイルスによる呼吸器感染症です。主な症状は発熱や咳、倦怠感や筋肉痛などがあります。治療は安静や水分補給、必要に応じた抗ウイルス薬や支持療法が行われます。
感染症は職場の生産性低下や安全衛生リスクにつながる可能性があるため、感染拡大防止策の徹底が重要です。職場では手洗いやマスク着用、換気や咳エチケットの遵守、ワクチン接種の推奨など基本的な感染対策を実施しましょう。
感染者が発生した場合は、感染拡大防止の観点から出社を控えるよう促すことが望ましいでしょう。法令上、従業員の出勤停止に関する明確な基準はありませんが、社内の感染拡大を防ぐためには、体調不良時や罹患時の出社に関する社内ルールを設け、従業員に案内することが推奨されています。
感染症が多いシーズンには最新の感染症情報を収集し、日ごろから職場で感染対策を徹底することが求められます。産業保健師はワクチン接種や感染対策教育を実施し、従業員に感染予防の重要性を周知させましょう。
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2.職場での呼吸器疾患の予防と健康管理
職場での呼吸器疾患の予防は従業員の健康維持と労働生産性の確保に不可欠です。次に呼吸器疾患の予防と健康管理について解説します。
■治療の継続
喘息やCOPDの長期管理には、症状が落ち着いていても内服薬や吸入薬を継続することが大切です。気道の慢性炎症を抑える長期管理薬は発作予防に効果的で、自己判断で中断すると症状が再燃し悪化するリスクがあります。産業保健師は従業員が自己判断で服薬を中断しないよう、主治医の指示に従って治療を継続する大切さを伝え、必要に応じて医療機関受診を促しましょう。
■禁煙の徹底
喘息やCOPDの悪化を防ぐためには、禁煙が最も効果的な対策の一つです。喫煙は気道の炎症を悪化させ、薬の効果を減弱し、発作や症状の頻度を増加させます。受動喫煙も同様に呼吸器疾患のリスクを高めることが科学的に証明されています。また、禁煙を始めると数週間から数ヶ月で咳や息切れが改善し、薬の効果も高まります。さらに将来のCOPD発症リスク低減も可能です。
健康増進法の改正により、事業場では望まない受動喫煙の防止が法令による義務となっており、屋内禁煙や必要な喫煙室の設置など、分煙・禁煙環境の整備が求められています。従業員には禁煙の重要性を伝え、禁煙外来や禁煙補助剤の利用促進を行いましょう。職場での全面禁煙や受動喫煙防止対策も効果的です。
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■職場環境の整備
産業保健師は労働者の健康を守るために、事業者と連携しながら職場環境の整備をサポートする役割を担います。
職場で発生する健康障害の多くは作業環境や労働条件に関係しており、環境を整えることが予防につながるからです。適切な環境整備をすることで労働者の身体的・精神的負担を軽減し、生産性の向上ができます。
特に粉じんや化学物質を扱う職場では、産業医や衛生管理者、事業者と連携し、従業員の健康リスクを踏まえながら働きやすい環境づくりのサポートを行うことが重要です。作業環境測定や特殊健康診断の結果を確認したり、職場巡視に同行して現場の状況を把握することも役立ちます。
3.まとめ:呼吸器疾患のリスクを知り従業員の行動につながる指導をしよう
産業保健師は、呼吸器疾患のリスクを踏まえて従業員の健康保持と安全な職場づくりを支援する必要があります。
粉じんや化学物質、受動喫煙などの曝露は喘息やCOPD、塵肺などの慢性呼吸器疾患を引き起こす要因です。重症化すれば労働継続が困難になることもあります。
産業保健師は事業者や衛生管理者と連携し、換気の改善や集じん装置の設置、マスク着用指導などの環境対策を推進します。また、禁煙支援や受動喫煙防止の取り組みを進めていくことが重要です
産業保健師が主体的にリスク評価と健康支援を行い、職場全体で予防意識を高めることで、安心して働ける環境づくりにつながります。
■参考
1)職業性ぜん息|環境再生保全機構
2)粉状物質の有害性情報の伝達による健康障害防止のための取組について|厚生労働省
3)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の現状について|厚生労働省
4)COPD(慢性閉塞性肺疾患)|大阪府
4)じん肺有所見者の健康管理対策を推進しましょう|厚生労働省
5)事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン|厚生労働省
6)職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト|厚生労働省
7)COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022|日本呼吸器学会
8)受動喫煙とは|職場のあんぜんサイト
9)禁煙支援マニュアル(第二版)増補改訂版|厚生労働省
■執筆/監修
<執筆> 百田れんか (看護師×Webライター)
総合病院7年間勤務後、出産を機に医療Webライターへ転職。
現在は医療や健康をテーマに記事執筆を行い、産業保健や健康経営に関する情報発信にも携わっている。
看護師としての知識を土台に、働く人々の健康を支えるライティングを実践。
<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』