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5つの行動変容ステージ 効果的な保健指導アプローチとは?

5つの行動変容ステージ 効果的な保健指導アプローチとは?

産業保健スタッフの皆さんは「保健指導を行ったけれどあまり効果がなかった」という経験はありませんか? 従業員の健康とパフォーマンスを向上させるためにも、健康診断の事後措置や保健指導が重要です。
しかし、保健指導に関する知識や技術は、実施者一人一人に委ねられており、限られた時間の中で効果的な保健指導をするために悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、健康診断実施後の保健指導を効果的に行うポイントを、行動変容ステージに着目してお伝えしていきます。

目次

1.保健指導の必要性
2.保健指導の目的
3.保健指導の一般的な流れ
4.行動変容モデルに沿った5つのアプローチ
5.まとめ


1. 保健指導の必要性


労働安全衛生法第66条にて、事業者は「健康診断の結果、特に健康保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による指導(保健指導)を行うよう努めなければならない」と定められています(努力義務)。また、労働者においても健康診断結果および保健指導を利用して、その健康の保持に努めることが定められています。
保健指導を効果的に実施していくことは、従業員の生活習慣病やメンタルヘルス不調などの予防に効果的です。さらに、従業員が心身ともに健康的に働くことで、生産性やエンゲージメントの向上、企業イメージ向上などの事業者へのメリットも期待されます。
保健指導は、ただ健診結果を通知するのではなく、行動変容や心身の健康保持増進、ひいては業務のパフォーマンス向上などにつながるよう、従業員や事業者にメリットとなるよう実施していくことが重要です。

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2. 保健指導の目的


保健指導の主な目的は、従業員が自らの健康問題を自覚し、自分で改善策を実行できるようになることです。これは、単に指示を出すのではなく、従業員が自分自身の生活習慣を見直し、健康的な選択をするよう動機づけることを意味します。つまり、従業員がみずから行動できるような支援が求められます。
また、健康診断後の保健指導は、特定保健指導のように明確なガイドラインがないため、それぞれの担当者に実施方法が委ねられています。メタボリックシンドロームや肥満の予防だけではなく、健康診断結果に対する受診勧奨や、メンタルヘルス不調の確認、禁煙指導など、それぞれの従業員の健康課題に合わせた支援を行なっていく必要 があります。

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3. 保健指導の一般的な流れ


一般的な保健指導の流れについてお伝えいたします。
保健指導の流れ

①対象者の選定

 事業所の目的に合わせ、産業医の意見を踏まえながら、再検査や精密検査の勧奨や要治療者への受診勧奨、治療状況の確認、生活指導など、保健指導が必要な対象者を判断します。健診結果に基づき、必要な対象者を迅速に対応出来るよう、あらかじめ事業所内で判断基準や方法を決めておくと良いでしょう。

②保健指導の準備

 健康診断の数値を面談前に読み解いた上で、保健指導の目的(受診勧奨、生活改善、減量など)を明確にしましょう。ただし、面談の中で保健指導の目的が変わることもあるため、柔軟に対応できるようにしましょう。

③面談実施

 生活習慣における課題を明確にし、対象者の準備段階や理解力、意欲の確認をしながら、健診結果の有所見項目と生活習慣との関連や現在の身体の状態、将来の疾病リスクなどが理解できるように説明します。一方的に説明をするだけではなく、健康診断結果についてどう感じるか、どんな仕事や生活スタイルをしているかなど、従業員に丁寧にヒアリングしましょう。そうした回答に傾聴することで、信頼関係の構築や目標設定などに役立ちます。
 目標設定をする際は、専門職からの提示ではなく、自己決定ができるようサポートします。また、目標は具体的な方法や達成期間も設定しておくと良いでしょう。

④記録

 保健指導の実施後は、面談で得られた情報やアセスメント、目標設定、今後の対応計画など、記録をしっかり残しておき、次回の保健指導に役立てるように事例を蓄積していきましょう。

⑤個別評価(3~6か月後)

 評価を行う際は、目標達成度や健診・採血データの変化などのほか、保健指導を実施してみてどうだったか、取り組みの満足度などを確認しましょう。

⑥施策としての評価

 個々の評価に加え、経年の健診結果の推移や保健指導の参加率、満足度など施策としての評価も重要です。課題があれば次年度に活かせるように改善していきます。


4. 行動変容モデルに沿った5つのアプローチ


効果的な保健指導を実践するためには、対象者に沿ったアプローチが必要となります。
対象者の状況に沿ったアプローチが行えるよう、行動変容ステージモデルに沿ったアプローチ方法についてお伝えいたします。

行動変容ステージモデルとは

行動変容ステージモデルとは、1980年代前半に禁煙の研究から導かれたモデルですが、その後食事や運動をはじめ、いろいろな健康に関する行動について幅広く研究と実践が進められています。
生活習慣を改善しようとする意図と行動の状況により、「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」のいずれかのステージに評価されます。


行動変容ステージモデル.e-ヘルスネット
出典: 厚生労働省|e-ヘルスネット‐行動変容ステージモデル


行動変容のステージを一つでも先に進むには、その人が今どのステージにいるかを把握し、それぞれのステージに合わせた働きかけが必要になります。行動変容ステージモデルを活用することで、対象者に沿った効果的なアプローチが期待できます。そして、効果的な保健指導の実践のためには、ステージごとに支援方法を変え、 ステージが改善していけるように支援することが求められています。

それでは、それぞれのステージの特徴と、支援のポイントについてご紹介します。 

1) 無関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない

 特徴:行動を変容することに対して無関心な状態や、抵抗を示していることが予測されます。職場や健康推進担当者から、保健指導プログラムへの参加を半ば強制された人かもしれません。また、自分の行動に対する情報が不十分である可能性があります。
 支援ポイント:信頼関係の構築を優先することが大切です。行動変容の必要性を正しく理解してもらい、関心を持ってもらう援助がまずは必要です。 対象者のニーズに沿った情報提供を意識しましょう。やや一方通行になる可能性もありますが、生活習慣を変えることで健やかな生活を実現している人の成功例(ポジティブ情報)も同時に伝えていくことも大切です。

2) 関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っている

 特徴:変化したいと思いながら変化しないことにも価値を持つ両価性を持っている段階です。行動変容についての関心がある時期のため、双方向コミュニケーションに,効果が期待できます。
 支援ポイント:信頼関係を築けるように努めることが大切です。行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらえるよう情報提供を行う必要があります。同時に、生活習慣に対する不安や抵抗の要因について気づいてもらうような情報提供を行うことが重要です。

3)準備期:1ヶ月以内に行動を変えようと思っている

 特徴:行動変容についての関心があるだけではなく、さらに行動変容のための行動を実行したいと思っており、具体的な行動を模索している段階です。
 支援ポイント:具体的な行動の方法の選択と自己決定ができるように促すことが大切です。適切な目標と方法を決めて、行動計画を立ててもらうことで自己効力感を高めてもらいながら確実に実行に移してもらう援助が必要です。行動変容に対する不安な気持ちがある場合は、ポジティブな方向性を一緒に探すことが大切です。

4)実行期:明確な行動変容が観察されるが、行動を変えて6ヶ月未満である

 特徴:行動変容することのメリットを感じ始める段階です。ですが、今後の持続にストレスを感じていたり、自信が持てなかったりする時期でもあります。
 支援ポイント:行動変容の継続への不安についてその背景や具体的な克服方法を探すことが大切です。「逆戻り」しやすい心理状態や環境を確認し、小さな変化でもポジティブに受け止めてもらえるように促しましょう。

5)維持期:明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期

 特徴:自立して行動変容を続ける段階です。 明確な行動変容が観察され,今後の持続について も自信がある時期です。
 支援ポイント:継続することができたこれまでの努力を賞賛し、今後の継続を奨励しましょう。また、実践行動へのきっかけやプロセスを振り返り、実践行動の経験によって得られたメリットを評価することが大切です。

行動変容ステージを評価することで、対象者の特徴を理論的に把握することが出来ます。
右肩上がりに一直線に行動が変容していくことは珍しく、一旦行動が開始されても、後戻りすることがしばしばあります。 このように行動は、生活習慣の行動変容が一定期間継続し、順調に成果に現れるまでには時間を要するものです。効果的な保健指導の実践のためには、今目の前にいる対象となる従業員が、どこのステージなのか、その都度的確に把握する ことが重要です。


5. まとめ


保健指導では、従業員や事業所(企業)の目的を理解しつつ、対象者に沿ったアプローチが必要となります。そのためには事業所内で対象者抽出や目標を明確化したうえで、効果的に実施できるような仕組みづくりを行うと共に、指導者個人においても日々スキルアップしていく必要があります。
今回は、保健指導に役立つ行動変容ステージモデルに沿った介入方法についてお伝えいたしました。このようなスキルを活用しつつ、事業所や個人のニーズに沿った介入を行っていくと良いでしょう。 また、保健指導は実施だけにとどまらず、評価や改善方法の検討も行っていく視点も重要です。 健康診断結果を有効に活用し、対象者はもちろん、事業所が組織としても健康増進できるよう、積極的にアプローチをしていきましょう。


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■作成|さんぽLAB 運営事務局 保健師

■監修医師|産業医 難波 克行 先生

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問​
アズビル株式会社 統括産業医​

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆​
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信​

代表書籍​
『職場のメンタルヘルス入門』​
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』​
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』​


参考:
厚生労働省|e-ヘルスネット‐行動変容ステージモデル
厚生労働省|標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)

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